5 生贄
どうぞよろしくお願いします。
「あ……、オフィーリア様!
実はマシューが大学に合格しまして」
「それはおめでとう!」
「ありがとうございます!
それで……、マシューとオブリスへ行かなくてはならなくて!」
「お母様?
お兄様はひとりで行くのでは?」
パトーキ伯爵夫人は慌てて言った。
「アンナ!
あの時はね、そう話していたけれども、やはり大学生活を長く過ごす部屋を決めたりしなければなりませんから、私も同行した方がいいと……。
それで、アンナを……、こちらで預かって頂くわけにはいかないでしょうか?
もう婚約者ですし……。
オフィーリア様とエルダ様に仕込んで頂ければ、アンナももっと落ち着くのではと……」
アンナが目を輝かせる。
「素敵!
サーザと一緒にいられるわ!
学園にも一緒に行ける!」
オフィーリアの目が瞬いた。そしてふっと緩む。
「そうね、いいのじゃないかしら」
「それでは、私、帰りまして、アンナの荷物を用意しますわ!」
「お母様! 私のお気に入りのワンピース、忘れずに入れてよ!」
「ええ、アンナ。
では、よろしくお願い致します」
パトーキ伯爵夫人を送るようにエルダが一緒に部屋を出る。
「エルダ様、アンナをよろしく頼みますわ」
「よろしくと言われましても……。
すべては母の思う通りになるでしょう。
パトーキ伯爵夫人……、アンナをお捨てになるの?」
パトーキ伯爵夫人は恐怖の表情を浮かべた。
エルダが小さな声で話を続ける。
「マシューとパトーキ伯爵家を守るのですね。
かわいそうなアンナ」
「……だって!
アンナはもう!
10年前からオフィーリア様とエルダ様の手の中に落ちているじゃないですか!!」
パトーキ伯爵夫人はそう言って。
言ってしまったことに自分で驚いたように慄いた。
「賢明ですわ。
知らない所にいた方がいいです」
「……エルダ様?」
「オブリス、楽しみですわね。
マシューによろしくお伝え下さい」
エルダはパトーキ伯爵夫人が馬車に乗り込むまでエントランスで見送った。
エルダが部屋に戻るとオフィーリアがエルダに封筒を差し出した。
「モーリスに渡してらっしゃい」
「これは?」
「ジュディスの友人達を紹介しますと書いてあります」
「……彼女達をモーリスに脅させるというの?」
「ええ、それが一番彼女達の弱みになるでしょう。
お互い未婚の男女がわざわざ待ち合わせして個室のあるような店で落ち合うのよ。
こんなことが世間に知られたら……、ね」
「それで黙らせようと……」
エルダは封筒を見た。
封もされていない、宛名も差出人もない白い封筒だ。
「わかりました」
「あなたはまだ未婚の令嬢。侍女を連れて行くのよ」
「いえ、サーザに供を頼もうと思います」
「そうね、それでもいいわ」
エルダは侍女にサーザに一緒に出掛けて欲しいと伝えに行ってもらい、ひとりで部屋に戻ると封筒の中の手紙を読む。
3日後の日付と時間。
ドネル通りのカフェにアンナとジュディスの名前でそれぞれ個室を取るのでそこを訪ねてくる令嬢3人を誘い込み、少々部屋に閉じ込めてやりなさい、と書いてあった。
その場を店の者にでも見せて……、脅す口実にしようというのか……。
エルダは内容を別の紙に書き写し、手紙を封筒に戻して、外出の支度を整え、部屋に迎えに来てくれたサーザと馬車で侯爵家を出た。
読んで下さり、ありがとうございます。
※最初、明後日を決行の日と書いてましたが、何故か3日後と思い込んで(準備するのにもう少し日数掛かるかと)続きを書いてしまっていて、こちらの手紙を3日後に直しました。後からの直し……。すみません。




