4 悪寒
どうぞよろしくお願いします。
「どういうことですの?
ミュレット?」
パトーキ伯爵夫人は名前で呼ばれて震えた。
そして、王都の手芸用品店の裏に頼んだ作品を作ってくれる窓口があることを白状した。
「どんなことに使う物なのか……。
例えばあのハンカチなら、こちらで白いハンカチとメインの刺繍糸を決めて用意して。
貴族の間の婚約ハンカチ、青の糸でドラゴンを、赤茶の色を工夫して使うこと。
銀の糸も使うようにお願いしました。
名入れは『サーザ』と。他の色も必要あれば使って良いこと。
残った糸をハンカチの完成品と共にこちらに戻すこと……と依頼しました」
「それで……、同じ色の刺繍糸がアンナの裁縫箱に入ってるのね!」
逆に感心したようにオフィーリアに言われてしまい……。
エルダが言った。
「モーリスへのハンカチ、そちらに頼んだらいかが?
ジュディスが療養中だからと私が作るように言われましたけど……。
私、作りたくないわ!」
「そうね……、ミュレット、そのお店に紹介して下さらない?
そうしたら、ハンカチの作成者がアンナでないこと……。
黙っててあげるわ!」
「本当!!
侯爵夫人、ありがとうございます!」
アンナがにっこりと微笑んだ。
パトーキ伯爵夫人は震えた。
このことが万一、ばれた時、『私は全く気付きませんでしたわ! 知りませんでした!』とオフィーリアはそう言うだろうと思ったからだ。
ばれて婚約が打ち切られる期限が伸びただけだ……。下手をするとこちらのせいにされるかもしれない。
そして今、聞いたこと。
モーリスへの婚約ハンカチをエルダが作ろうとしていたこと。
それを外注したいということ。
ジュディス・ロイヤー子爵令嬢とモーリス・モルテン伯爵令息の婚約には何かとんでもないものが隠されているのでは!?
アンナはカーライル侯爵夫人にわかってもらえたので、もう刺繍しなくていいと思っていたのだが、そうはいかなかった。
やはり刺繍ができるように練習は続くことになったのだ。
「こんなことをしても……、学園で私が刺繍が苦手だと知っている者達がいますわ!」
ぶつぶつ独り言を言ったアンナの言葉をオフィーリアが聞き咎めた。
「アンナ?
どういうことですか?」
「夏前に刺繍の特別授業があったんです。
そこで私が刺繍が苦手なことを同じテーブルの者達が見ていて。
今日、言われたんです。
『刺繍、本当は苦手なのでは?』と」
「あら」
オフィーリアが真顔になる。
「どこの令嬢かしら?」
「そう言ったのは私と同学年のタイラント伯爵令嬢メリディナです。
同じテーブルにいたのはジュディスと……、ジュディスと同学年のアマンダ・トゥール男爵令嬢と確か子爵の……」
「クラリオーネ・バローナ?」
エルダの声が響いた。
「そうですわ!
アマンダとクラリオーネ!!
ジュディスの仲間でしたの!」
「トゥール男爵家、バローナ子爵家、タイラント伯爵家ですね」
オフィーリアの確認のような言葉にアンナが素直にこくりと頷く。
「そう……、タイラント伯爵令嬢はアンナが呼び出すことができるわね?」
「……できますけど」
「トゥールとバローナは……、ジュディスに呼び出してもらいましょう」
オフィーリアはにっこり微笑んだ。
その微笑みを見てパトーキ伯爵夫人は背中が強張った。
寒気を感じる。
このまま、カーライル侯爵家にくっついているというのはまずいかもしれない。
でも、アンナはまだサーザの婚約者。
それにアンナはすっかりオフィーリアに取り込まれている。
姉が嫁いだモンテル伯爵家もそうだ。
パトーキ伯爵夫人はアンナを見た。
どうするか?
このまま様子を見る?
いや、この先の話に関わったら……。
パトーキ伯爵家を守るためには……。
読んで下さり、ありがとうございます。




