3 わかって下さる
少し時が戻り、刺繍の会の後、王都で起きていた話です。
どうぞよろしくお願いします。
刺繍の会の3日後、王都の貴族夫人、令嬢の間ではアンナ・パトーキ伯爵令嬢のサーザ・カーライル侯爵令息への婚約ハンカチの話がすごい勢いで広まっていた。
「見ました?
素晴らしく工夫された刺繍だったらしくて!」
「私、刺繍の会をお休みしていて、残念ですわ!
デザインが素晴らしかったとか!」
「あら、アンナ様なら貴族学園にいらっしゃるのですから、他の作品も見せて頂きましょうよ!」
アンナはそんな周囲の言葉に追いつめられていた。
『刺繍を教えて欲しい』
「あ……、私の刺繍の工夫はパトーキ伯爵家の秘伝でして、お教えできませんのよ!
家訓ですの!」
『他の作品でいいから見せて頂けないかしら?』
「そのうちにね。
私自身が納得できるものができましたら、ね!」
その言葉にいつも一緒にいる伯爵令嬢が心配そうな目を向けてくる。
放課後、アンナと学園の馬車送迎場へ向かいながら、周囲に人がいないのを確認してとうとうその心配を口にした。
「アンナ様、……刺繍、大丈夫なのですか?」
「何が?」
「だって……、本当は苦手なのでは?」
アンナは伯爵令嬢に詰め寄る。
「そんなこと言うなんてひどいわ!」
「えっ!
でも、私、刺繍の会でハンカチ見ましたけれど……。
あの、学園での刺繍の時間のドラゴン……、ひっ!」
アンナのすごい目に伯爵令嬢は縮み上がった。
「ばらしたらただじゃおかないからね」
「えっ!
で、でも、あの時、テーブルにいた方はみんな見てますわ!
私だけじゃないです!」
アンナは夏前の刺繍の授業のことを思い出した。
ジュディスとジュディスの友人の2年生の子爵令嬢と男爵令嬢がいた。
「子爵令嬢と伯爵令嬢、ね」
「……アンナ様?」
「絶対に言うんじゃないわよ!!」
伯爵令嬢は涙目で去って行った。
パトーキ伯爵家の迎えの馬車に乗り込んだアンナは「ああ!! もう!!」と叫んだ。
今日はこれからカーライル侯爵家にお呼ばれしている。
『刺繍を一緒にしましょう』というお誘いである。
「大丈夫、大丈夫よ!
もう一週間も毎日練習をしているのよ!」
それにしてもなんでカーライル侯爵夫人はあのハンカチを刺繍の会で披露するなんて思いついたんだろう……。
アンナは恨めしそうな顔をしながらオフィーリアを思い浮かべた。
とてもきれいな方である。
焦げ茶色の艶のある髪をいつも美しく結い上げていて、肌が白く、濃い青の瞳の侯爵夫人。
出身は伯爵家と聞いている。
伯爵令嬢から侯爵夫人へ。
アンナと一緒である。
「だから、私の気持ちもきっとわかって下さってるわ」
帰宅して支度をして母とカーライル侯爵家へ。
ハンカチについて刺繍の会でどのように称賛されたのか、王妃や王太后までもが褒めて下さったと聞かせてもらう。
「そんな……、褒めて頂いてうれしいですわ。
皆様、すごく工夫をわかって下さったのですね!」
そう言いながらアンナはハンカチを刺した名前も知らない平民の少女に怒りが湧いた。
その子が張り切り過ぎたからこんなことになってる!!
むかむかした気持ちのまま刺繍に突入し……。
すぐにオフィーリアにばれた。
途中から針を出す場所がわからなくなり、刺繍枠を一針ごとにひっくり返して表と裏を行ったり来たりさせていると、母であるパトーキ伯爵夫人に肘で突かれた。
びっくりして指を針で刺してしまい、縫っていたハンカチを血で汚してしまう。
「アンナ……、あのハンカチを刺したのはあなたではない!?」
「……はい!」
「アンナ!」
パトーキ伯爵夫人が慌てている。
「お母様、きちんとお話ししましょう!
カーライル侯爵夫人ならわかって下さるわよ」
エルダが驚いている。
エルダの驚いた表情を見られるなんて……、モーリスに会ったら自慢してやろうとアンナは思った。
読んで下さり、ありがとうございます。




