2 おかしな依頼
どうぞよろしくお願いします。
次の日の昼、メージとヴァイス男爵とシャルルとロバートがランチを食べに『一皿』へ来た。
シャルルは目を輝かせて働くジュディスを見ている。
ヴァイス男爵が「そんなに見ていると怪しいぞ」と注意したくらいだ。
「はっ! そうでした!
こういう隠したい時こそ何気なく、さりげなくですね!」
その話にロバートが笑った。
「楽しそうですね」
「ロバートさんもそう?
失敗したのを隠したりとか、そういう時は慌てずに何気なく自然に振舞うって」
「……誤魔化し方ってことですかね?」
ロバートが首を傾げ、ヴァイス男爵が笑った。
ヴァイス男爵とシャルルは従者が王都から戻るのを待って、男爵領に戻ることにしたので、まだメージの所で過ごすそうだ。
こちらのことは気にするなと言ってくれているので、ジュディスはジニーとして仕事と勉強と雑貨屋へ顔を出してアトラに刺繍を教えることを中心に生活をしていた。
雑貨屋へ行く時には裁縫道具を持参し、レースのハンカチにお婆様への刺繍を刺した。
「素敵!
淡いピンクの花と花びら!」
アトラが自分の手を休めた時にジニーの手元を覗き込んで声を上げた。
白地に淡いピンクの花びらのリンゴの花と風に舞う花びらを刺している。
「リンゴの花よ。
とてもかわいくて素敵なの……」
幼い頃見た男爵領の果樹園の風景を思い出し、微笑みながらジニーは言った。
その時、雑貨屋のドアが開く音とともにオーナーが入ってきた。
「アトラ! ジニー!
ちょうど良かった!
次の仕事だ!」
アトラが顔を顰める。
「えっ?
今やってるのももう少しかかるのだけれど」
「次は婚約ハンカチだから、そこまで大変じゃない」
ジニーとアトラは顔を見合わせて困惑した。
「私はもう引き受けませんし、今のこのタイとチーフが終われば!
本当にもうこういう依頼は……、受けません」
オーナーがにっこり笑う。
「前回のジニーのハンカチを見て、なんと侯爵家からの依頼だ!」
「侯爵家!? すごい!!」
アトラがびっくりしている。
<前のハンカチも伯爵家から侯爵家に贈られた物だったのだけれど、内緒だったものね>
ジニーはアトラの反応に少し困った顔をした。
「それに今回はそこまで凝った物でなくていいそうだ。
少々刺繍が上手な子爵令嬢が作成した形との依頼だから」
「ん?
依頼は侯爵家で、子爵令嬢が作った物?」
ジニーは嫌な予感がした。
アトラが戸惑いながら「一応見てみる?」と言って、封筒を受け取り中身をテーブルの上に出す。
質の良い白いハンカチに水色の糸。
依頼書には……。
貴族学園生が作った形で。
子爵令嬢から婚約者の伯爵令息へ贈る物。
水色の糸を使用し、上半身が山羊、下半身が魚のモチーフ。
名入れは『モーリス』……。
それ以外はお任せで、残った糸は戻すこと。
前のハンカチより凝らなくていいのに、約束された金額は高い!
<ジュディス・ロイヤー子爵令嬢がモーリス・モンテル伯爵令息に贈る物ってこと!?>
びっくりしてオーナーを見るジニー。
オーナーはジニーの表情に微笑んだ。
「どうした、ジニー。金額を見てやる気になったか?」
「こ、これは、このタイとチーフを頼んでいる家からですか!?」
「いや、そこの家からの紹介だが、さる侯爵家からの依頼だ」
「子爵家と伯爵家の婚約なのに、なんで侯爵家がハンカチを依頼!?
おかしくないですか!?」
「……そんなの別に金になればいいじゃないか。
依頼された物がどのように使われるかまではこちらはわからないんだし」
読んで下さり、ありがとうございます。




