27 パトーキ伯爵家
どうぞよろしくお願いします。
マシューがパトーキ伯爵家に帰るとアンナが居間でぐずぐず泣いていた。
「もうやだ!!
なんで私がこんなことっ!」
パトーキ伯爵夫人が恐ろしい表情で叫んだ。
「あなたのためです!
サーザに贈ったあのハンカチ!
今度の刺繍の会で王妃や他の貴族夫人達に『アンナが刺した物』として披露されるのです。
それまでに少しでも刺繍が刺せるようになっていなければ、外注したことがはっきりとわかってしまうわ!
そうなったら、アンナ、あなた、婚約解消……、いえ、婚約破棄されてしまうわよ!」
「刺繍ぐらいでそんなこと……」
「いえ、オフィーリア様ならやります!」
マシューは母がカーライル侯爵夫人のことを正確に見定めていることに感心した。
「でも、でもっ!
次の贈り物も頼んだんでしょう?
だったら、私がこんなことしなくても……」
「アンナ、王妃から刺繍の会に招待されてしまうかもしれないわ。
今の状態ではとても……」
「なら、風邪を引いたとか、行かなきゃいいんじゃない?」
「そういうわけにはいかないわ。
王家から招待されたら……。
あなたはカーライル侯爵家の婚約者。
我が家だけのことではないの。あちらの家の名前にも及んでしまうの」
マシューは呆れた。
どういうわけだか、アンナが平民に作らせたサーザへの婚約のハンカチが、王妃の目に留まるという話になっているらしい。
だから、少しでもアンナが刺繍を刺せるようになっていないとおかしいと……、刺繍の練習を慌てて始めたというわけだ。
でも、すでに次の物を頼んだ?
次の物も外注したが、少しでも疑われないようにアンナが家で刺しているということにするのだろう。
サーザが動きやすくなりそうだ。
「あら、マシュー、おかえりなさい」
「ただいま。
明日、大学の合格通知が正式に学院に届くんだ。
そうしたら、一度、オブリスに行って、住むところとか見て用意してきたいんだけど」
「わかったわ、マシュー。
いよいよね。
でも、今、家の方が少々大変なことになって。
あなたひとりでも大丈夫かしら?
お父様には私から話しておくわ」
「ありがとう、お母様。
私の方は気にしないで。
ただ、金の用意だけは頼みます。
学費は奨学金を取れてる自信はあるんだけど、生活費は最初にいろいろ掛かると思うので」
「わかってるわ。
お父様と予算について……。
あなたが話をした方が早そうね。
夕食前には伝えておくから、今夜にでも話してみたらどう?」
「うん、そうするよ。
大変な時に邪魔してごめん」
マシューは伯爵夫人にそう言って、自分の部屋に戻ろうと居間を出ようとした。
「お兄様!!
アンナに何か言うことはないの!
少し休んだらどうか、とか、大変だね、お茶でもしないか? とか!」
マシューは振り返って言った。
「ないね」
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