21 アドバイス
どうぞよろしくお願いします。
アトラがジニーとオーナーを交互に見ながらゆっくりと言った。
「じゃあさ、私がやる。
ジニー、どんな風にしたらいいか、アドバイスとか困った時に教えてくれない?」
オーナーが『は?』という顔をしている。
「ジニーのやり方を教えてもらって私が刺します。
ちょうどいいレベルになるんじゃない?」
オーナーが『ううむ』という感じで考え込む。
アトラも刺繍はする。下手ではないが取り立てて上手というわけでもなく、普通よりは上手いというくらいだろうか?
「では……、ジニーがデザインなどをして、刺すのはアトラということに……」
「はい!
それならいいよね! ジニー!」
「えっ! うーん。
では、デザインというかアドバイスだけ」
オーナーが少しほっとした表情で布などが入っているらしい封筒をアトラに差し出す。
「今回はタイとチーフだ」
「刺繍してからタイにする形ですね」
ジニーの言葉にオーナーが頷く。
アトラが封筒を受け取り、中身をカウンターに並べて確認する。
上品な淡いグレーの布、青と赤茶と銀の刺繍糸。
そして依頼書。
アトラと一緒に読んでみると、タイは総柄で、チーフはタイの柄を2つの角に入れること。
名入れはなく、どちらも『S』の文字だけ入れて欲しい、とのことだった。
後は前回と一緒。残った糸は戻す。依頼は秘密にすること。
ジニーは生地を手に取った。
薄くて高級な生地だ。光沢があり……、やり直しができない生地だ。それに刺しにくい。
「刺し直しができない生地ね。
タイの方は裏に芯を張ってから刺しましょう。
全体的に刺さなきゃなら、そのほうがやりやすいと思う」
ジニーはなんとなくデザインを思い浮かべる。
今回は名前ではなく『S』の一文字だけなので、サーザやアンナのことを思い出すことなく普通にデザインを頭の中に思い描くことができた。
ジニーはアトラと一緒に紙にドラゴンのモチーフを描く。
前回のハンカチは工夫して何色か違う色を使ったが、今回は総柄。
小さめに一色のみのドラゴンシルエットにする。
全体的に6つほど配置して、間に蔓草を描き、葉ではなくて小さなバラにする。
バラを赤茶で表現し、蔓を生地寄りの落ち着いた緑にすると、色味が全体的に落ち着いていい感じだ。
「うん……、そっかSの字はこの一番下のドラゴンをSの字にしよう!
同じものをたくさん刺すことになるけど、簡単なものにしようね。
縫い終えた後にタイにするから、裏の始末はそこまで気にしなくても大丈夫。
こちらのチーフは生地が薄いから……、モチーフをひとつだけにして丁寧に。
タイの方で練習してからの方がいいと思う」
ジニーの言葉にアトラが頷く。
オーナーがその様子を見ながらほっとしたように言った。
「ジニーに任せて大丈夫だな!」
「いえ、私ではなく、アトラが引き受けたことに」
「ああ……、デザインのみジニーが引き受けてくれたことに!」
ジニーはため息をついた。
特に犯罪というわけではない。昔から母に手伝ってもらったり、侍女に刺させたりなんてことはあったのだろう。今は店があり、外注したというだけだ。
でも、受け取る側は相手が心を込めて手作りしたものだと思うわけなのだし……。
そう思うと後ろめたい気持ちはある。
ただ、今回は友人のアトラの仕事の手伝いというかアドバイスするだけだと気持ちを切り替えた。
「はい、ではそのように」
オーナーが雑貨屋を出て行くと、アトラとジニーは顔を見合わせ苦笑した。
作成していたハンカチの販売依頼をして、売り上げを受け取る。
「タイとチーフ、上手くいったら半分ずつね!」
「ううん、アトラが刺すのだもの。
うーん、9:1でいいよ。
デザインだけだもの」
「でも、この仕事は前にジニーが引き受けて成功したから、また来た話なのよ。
なら7:3でどう!?」
「えー、そんなにいいの?」
「うん、その代わり細かく進行状況を見に来てアドバイスして!」
「わかった。
2月の半ばから3月の初めは忙しくなるけど、その前までだったら」
雑貨屋を出て、手芸用品店に寄る。
カルネがいた。
「ジニー!
いいハンカチ素材が入ってるよ!」
見せてもらうと縁にレース飾りがついた素敵なハンカチだ。
ふとジュディスの脳裏にお婆様の顔が浮かんだ。
お爺様とシャルルが来ていると聞いたからだろう。
「素敵ね! ……3枚貰える?」
3月の試験のために刺繍を控えようと思っていたのに我慢できずに買ってしまった。
読んで下さり、ありがとうございます。
お爺様、お婆様と呼んでますが、そこまで高齢じゃないです。
お爺様が50代後半、お婆様は50代半ばくらいです。




