19 刺繍の会
どうぞよろしくお願いします。
「では、次の刺繍の会はお母様も参加されるのね?」
「ええ、あなたが参加する様になってから遠慮してましたけど。
そういうことならば!」
「では、サーザにハンカチのこと、お母様から言って下さい」
立ち上がるエルダにオフィーリアが言った。
「あなたの婚約のことだけれど、エルモア侯爵家のカテリーナ様が一度御子息と会わせてみたいと。
どうかしら?」
エルダは無表情で母を見下ろした。
「私が婚約したりすると、モーリスが何か言い出すかもしれませんが、よろしいの?
ジュディスのことがすべて片付いてからの方が、いいと思いますが……」
「……そうね。
それでは何か理由をつけて、少し待っていただきましょうか」
「はい、そのほうがいいかと」
エルダは軽く目を伏せながら、客間から出て行った。
王妃の刺繍の会。
アンナがサーザに贈ったハンカチは話題の中心になった。
「素晴らしいですわ!
カーライル侯爵令息の青、パトーキ伯爵令嬢の赤茶。
このふたつの色味を活かした、この工夫を凝らしたデザイン!!」
「お名前の字体も見て!
敢えて伝統的な古風な字体を使って、カーライル侯爵家に敬意を払っているのがよくわかりますわ!」
「このドラゴン、素敵ね。
同一の青一色だけではないところ!
芸術的ですらありますわ!」
「この小さなレンガのお城もかわいいですわね!
まるでパトーキ嬢がお城で、カーライル令息のドラゴンが守っている……なんてロマンチックな解釈もできますわね!」
オフィーリアはにこにことその称賛を聞いていた。
エルダは他のハンカチを見に行き、そこの令嬢や夫人と話をしていた。
エルダが婚約していれば、エルダの刺繍の腕もこの場で見て頂けたのに……。
そんなことを考えながらも、にこやかに、話し掛けてくる夫人達のお相手をしていたオフィーリアだった。
空気がざわっとし、引き締まる。
王妃と王太后がお出ましになったのだ。
「見せて頂きますわね!」
王妃が涼やかな声で会場にいるみんなに声を掛ける。
「私にもよく見せておくれ!」
刺繍好きで知られる王太后。
ゆっくりと順番に進みながら、アンナのハンカチの前に現れた。
夫人達がさっとハンカチの前から退いて、礼の姿勢を取る。
「いいのよ、楽にして!」
王妃はそう言いながら周囲を気にせず、広げてあるハンカチを見た。
王妃は今年42歳になる。
女性としては年齢を隠したいところであるが、王妃となるとそれは隠すことではなく周知の事実ということになる。
3人の子の母で、一番上の王子が26歳、その下の王子が24歳、一番下の王女は20歳になる。
一番上の王子はもう結婚しており、2番目は幼き頃より婚約者がいる。王女は宰相の息子と婚約しており、春には結婚式だ。
もう少し、エルダとの歳の差がなければ……。
こればかりは嘆いても仕方がないこと。
それにしてもエルダは不運だ。
同じ年頃に、あと2、3年早く、いや、王子達が遅く生まれていれば、王女が王子であれば……。婚約者に選ばれていたのはきっとエルダだった。
「見事ですね!
手に取ってみても?」
初めてお手に取って見てみたいとの王妃の要望に、会場の空気が浮足立つような緊張感を孕む。
オフィーリアはにこやかに王妃の言葉に頷き、ハンカチをテーブルから取り上げると王妃の手に渡した。
王妃はじっくりと見て「素晴らしいわ!」と言って王太后に手渡す。
王太后は表面をよく見てから裏へとひっくり返した。
王妃が覗き込む。
「裏もきれいに始末されていますこと!」
「ええ、見事です。
でも、この留め方……」
王太后が小さく呟いた。
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