8 母の存在
どうぞよろしくお願いします。
新年が明けて3週間経った。
もうすっかり日常の生活に周囲も戻っている。
ヴァイス男爵領の夜。
男爵家の居間にマリアンヌと父と母である男爵家夫妻がいる。
シャルルはもう寝ている時間だ。
「お父様、お母様……。
ありがとうございます。
シャルル……、落ち着いたようで、ここでの生活を楽しんでいます。
お父様にあんなに懐いて……。
もっと早く、こちらに連れてくるべきでした。
その……、男爵領などと、ウィルヘムが、バカにしていて……。
あの子はそれを鵜吞みにしていて、こちらに来るのを嫌がっていたのです。
それは、申し訳ありませんでした。
……私、ジュディスを探しますわ。お願いです。手伝ってください!
ウィルヘムは……、ジュディスはいずれ戻ってくると。
その時に貴族令嬢らしい、恥ずかしくない居場所があればと、モーリス・モルテン伯爵令息との婚約を勝手に決めてきてしまいましたが……。
ジュディスの望みは違います。
あの子は大学に行きたいと言っていました。
最初のカーライル侯爵家との婚約も嫌がって……」
「……そうだな。
ロイヤー子爵家では探していないのか?」
「探していないことはないと思います。
カーライル侯爵家やモルテン伯爵家には本当のことはお話ししていますから、噂にならぬようにそちらから探しているのかもしれません……。
でも、やはり親が探さなくてはと思うんです!」
「うん、ジュディスなら、どうするか、だな。
大学か……。
もしかして……、大学のあるオブリスとかはどうだ?
もう手配済みか?」
「私は……詳しいことはわかりません」
マリアンヌは小さい声で答える。
情けなさでいっぱいだった。
ジュディスのことをずっと誤解していて、さらに手がかからないことをいいことに、ほぼ放任していた……。
何かあれば、夫に対応する様に言って、自分は逃げていたことも……。
夫の対応は家長として抑えつけるような対応だとわかっていたのに、夫に……。
マリアンヌはあまりの情けなさに涙を流した。
母が寄り添ってくれる。
「マリアンヌ、今からでもジュディスと向き合いましょう。
もう遅い、間に合わないじゃないの。
まず、ちゃんと話を聞いてあげましょう」
マリアンヌは頷く。
母がそばにいてくれるだけで心が落ち着く。安心できる。
こうやって寄り添うことが大事だったんだ。
寄り添うと言っても甘やかして許すのではなく、本人の気持ちが整うのを待ち話を聞いてあげること。
今は……、ジュディスをただ抱きしめて……、そして謝って、話を聞いてあげたい。
「マリアンヌはここから動かない方がいいだろう。
私がオブリスへ行ってみよう。
ちょうど、領地で見つかった鉱石のことで大学の研究室に調査の結果を聞きに行くことになっていたんだ。
シャルルと一緒に行ってみるか!」
「まあ……! シャルルも喜びますわ!」
やっとマリアンヌの顔に微かな微笑みが戻ってくる……。
「ではマリアンヌ、泣くのはおしまいだ。
ここから、できることをする。
お母さんと領地を頼むよ」
「はい!
シャルルとジュディスのこと。
よろしくお願いします……」
「まあ、あまり期待はしないで……、待っててくれ」
数日後、ヴァイス男爵は孫のシャルルと従者をひとり連れてオブリスへ出発した。
王都の方に戻る形になるが駅に行き、汽車という方法もあったが、今回は荷物も特になく馬で行くことになった。
王都を通らない方がいいだろうという判断もあった。
シャルルは祖父の後ろに乗り込み、しがみついている。
そんな姿を見送りながら……。
「心配?」
母がマリアンヌに笑いかけた。
「いいえ、全然!
シャルルにはいい経験ですわ!」
「……もし、戻ってきたら……」
母が口籠りながらそれだけ言った。
母の言いたいことは、それだけでマリアンヌに伝わっている。
「ジュディスが見つかったら……、その時、3人で考えますわ!
ジュディス、シャルル、私……、ロイヤー子爵家を出るかどうか!」
「そうね、それがいいわ!」
マリアンヌの母も笑った。
読んで下さり、ありがとうございます。




