5 焚き火
どうぞよろしくお願いします。
果樹園の一角に小さな小屋があり、そこへシャルルは連れて来られた。
「やだ!!
人さらい!!」
祖父である男爵は笑う。
「人さらいなんて言葉、よく知っているな!
ほら、焚き火でもしてみるか?」
「……焚き火?」
「焚き火もしたことがないのか!?
お前の母さんは焚火に火を点けるのが子どもの頃からとても上手だぞ」
「えっ?」
「ジュディスも前に来てた時はよくしてた」
「お姉様も……」
「ジュディスもそのうちに来るのだろう?
大きくなったろうなあ。
さすがにもう一緒に野営はしてくれないかな?」
「野営?」
「ああ、時々、自分は自然の中で生かされているちっぽけな存在なんだと、感じることは必要だ。
お前は母親のことを『何もできない』と言ったが、ここではお前の方が『何もできない』と思うぞ」
「僕は! 子爵家の嫡男で!!
その……、偉いんです!
できないことはやらせばいい!!」
「誰に?」
「……使用人?」
「使用人も人間だ。
シャルルのことを助けたくないと言ったらどうする?」
「そ、そんなこと!
雇っているんだし!」
「ふっ、それがロイヤー子爵の考え方か?」
「え? お父様の……。
うん、そうかも」
小屋の前で焚き火を始める祖父と孫。
マッチを渡されるが、うまく点けることができない。
「わっ!
うう、こんなにマッチをだめにしちゃって……」
「いいんだ。これが練習だから。
シャルルが上手くなれば、これは無駄じゃないさ」
「……うまくできないなら、やめて、人に任せるべきだって」
「子爵がか?」
「うん、お父様が」
「そういう考え方もあるが……。
自分が生きるための必要なことまで、他人任せはなあ。
いいか、火が付きやすい枝や葉がある。
乾燥している枝をよく選べ。
空気が通りやすいように組み上げる」
シャルルは真剣な表情で枝を外して組み直している。
男爵が少しだけ手直しをした。
「いいぞ。
火を点けてみろ。
ここに油分があり燃えやすい葉と乾いている小枝を多めに入れてある。
この下に点けるようにするんだ」
「はい!
……わ、できた!!
点いた!!」
「一発でできたじゃないか。
筋がいいな」
「お爺様……」
「なんだ?」
「さっきはごめんなさい。
お母様やお姉様のこと、悪く言って……」
「まあな、むしゃくしゃする時は誰にでもある。
シャルルは母を……、マリアンヌとジュディスを守りたいか?」
「うん!
守りたい!」
男爵は笑う。
「マリアンヌもシャルルのことを守りたいと思っているよ。
私達もね。
人を守るということは、まず自分が自分を守れないといけない。
自分を大切にすることだ。
自分を大切にしたいのなら、自分で自分の世話くらいできないとな」
「うん……、なんとなくわかる」
「そして人から守られて、人を守ることができるようになる。
守ることができるようになるとさらに守られる人となる。
お互いに信頼で結ばれ、守り合う、頼り合える仲間に。
私は……、人の上に立つ人間とは、そういうものだと思うよ」
シャルルが不安そうな表情になる。
「お爺様。
僕はお姉様のことを、守れるかな?
本当はお姉様は家出したの。
それをお父様は隠しているの」
煙をモクモクと吐き出しながら燃える炎を見ながらシャルルは言った。
「お母様のこともお姉様のことも、バカだって。
お父様の思い通りにできない、バカだって言うんだ……。
でも、お姉様は、子爵家にいるのが嫌だから家出したんだよ。
それなのに、お父様はお姉様が恩知らずだとか、家のためにならないのがおかしいとか、言うんだ」
「ほう」
「もう、お姉様は帰ってこないかな……。
僕はお姉様を守れなかった……。
お姉様は僕のこと、嫌い?
僕、もう、嫌だ……」
その時「シャルル! あなた!」と言いながら、大きなバスケットを下げた祖母と母がこちらに歩いてくるのがシャルルに見えた。
「お母様!?」
「シャルル、火を点けられたのね!
すごいじゃない!!」
シャルルは照れたように下を向いたが、落ちているマッチ棒を慌てたように足で焚き火に蹴り入れようとして、祖父に止められる。
「証拠隠滅は慌てちゃいかん。
こういうことは敢えて、なんでもないことのように丁寧に拾って投げ込む」
シャルルと祖父は散乱するマッチ棒を何気なく拾って、焚き火にくべるように投げ込んだ。
間に合った。
祖父を見ると笑っている。
祖母が母の敷いた布の上にバスケットを置いた。
「パンとか芋とか持ってきましたよ!」
シャルルは何だか楽しくなってきた。
読んで下さり、ありがとうございます。
昨日は息子の部活の大会でしたー!
今週はいつもの仕事や研修、時々あるイベントと続きます。頑張るぞー!




