5 婚約者?
どうぞよろしくお願いします。
午後の時間いっぱいの刺繍の授業が終わる。
1年生の伯爵令嬢はジュディスに感謝している。その手には見事に仕上がったきれいな紫色の獅子の刺繍のハンカチ。
「すごくうまくできました!
父に褒めてもらえると思います!
教えて頂いて、ありがとうございます!」
「いえ、私もとても楽しかったですわ。
刺繍の時はまたご一緒しましょう!」
アンナがなにも言わずに片付け終わると、その友人の伯爵令嬢を連れてテーブルから去って行った。
「はあ、もう、1年生なんか放っておけばいいのに!
お人好しなんだから!」
クラリオーネが肩をすくめて言う。
「あ……」
アマンダの声にジュディスは工芸室の出入り口を見た。
もう放課後になるので男子が何人か、婚約者や恋人、目当ての女生徒を迎えに来ているようだ。
そこにカーライル侯爵令息がいたt。
金髪に青い瞳。
1年生なのにすらりと背が高く、他の学年の男子と並んでもそこまで子どもらしさを感じない。
「まあ、格好はいいわよね」
アマンダが苦笑気味に言った。
「サーザ!
迎えに来てくれたの!!」
アンナの高いうれしそうな声が響き、何やら話をしていたが、サーザがぱっとこちらを見た。
ジュディスはさっと目を伏せ、気づいていない振りをして、テーブルの上を片付け続けた。
「もう行ったわよ」
アマンダに言われて、ふーっと息を吐いた。
「彼、しばらくジュディスのこと見て、声を掛けたそうにしてたわよ」
クラリオーネに言われるが苦笑する。
「もう……、放っておいて欲しい……」
「やっぱり、疲れてる?
大丈夫?」
アマンダが心配そうに言う。
「うん、あと3週間、頑張る!
そうすれば夏季休みだもん!」
「家に帰るの?」
「ええ、できたら、祖父母の領地へ行ってのんびりする」
「そうね。王都にいたら、会っちゃいそうだもんね!」
そんな感じで、顔を合わせないように神経を使って、時々悪夢にうなされて……。
試験期間に入れば、学年として別行動が増え、寮にいることが増えたので、逆に快適だった。
終業式を無事に終え、その日の午前中、ジュディスは学年成績3位の成績表を持って、王都のロイヤー子爵家の屋敷に戻った。
「ジュディス、特にトラブルもなく、楽しくやっているようだな」
「お父様、お母様、お久しぶりです。
ありがとうございます。
お父様、この調子なら、大学の奨学金を頂けそうです。
それで、ご相談なのですが……」
「大学へはやらん」
「……お父様、私、研究者になりたいのです。
自分のような怖い目に遭って、その後に苦しむ人を救えるような、そういうことを学びたいんです。
こんな大きな欠点を持つ私に他家への嫁入りは無理です。
お話しだって来ないでしょう」
「来ているが?」
「え?」
ジュディスの顔が曇る。
「私が、夜、灯りがないと寝られないとか、暗いところを怖がり、時には発作を起こすこともあると、知って?」
「ああ、カーライル侯爵家からだ。サーザだよ。
彼も責任を感じているんだろう」
「いいお話だわ。
侯爵夫人であるオフィーリアが口添えしてくれたのでしょう!」
「……そ、そんな、なんで……。
あ、アンナ様が、サーザ様と婚約するって話を!!」
「そんな話も出ていたみたいだが、サーザの希望でまずこちらに打診してくれたようだ。
一度、会って話してみなさい。
もうあれから10年だ。
もうだいぶ、心の傷も癒えただろう!?」
読んで下さり、ありがとうございます。




