16 転機
この話で5章が終わります。
これからもどうぞよろしくお願いします。
「素敵な雑貨屋ね!
いろいろな手作り品!
あ! これジニーのね!」
ルイザが棚の中ほどのハンカチを手に取る。
大小の水玉の縫い取りの中に、花や葉のモチーフがカラフルに刺されている物だ。
「かわいらしいけど、芸術性も感じるのよね!」
ジニーが恥ずかしそうに笑う。
「ありがとうございます。一応、刺繍作家を名乗らせてもらっています」
「ジニーはすごいんですよ!
今までにない刺繍のセンスでファンもついてきてるし!
本当に、ジニーの才能をすり潰そうとしたオーナーと戦って良かったよ!」
アトラが思い出したようにしみじみと言った。
「才能をすり潰す?」
ダグラスが質問する。
「内緒ですけど、貴族令嬢から自分が作ったことにしてという秘密の作成依頼が、あったりするんです」
「そんなことが!?
たとえ下手でもその令嬢が手作りしたものなら、思いがこもるものだろう!?」
「まあ……、私もちょっとその気持ちわかりますわ。
私も得意な方ではないので」
ルイザが苦笑した。
アトラが続ける。
「個性を出してはいけない仕事でもあります。
お金はいいんだけど……。
でも、そんな仕事を受けるとジニー無理しちゃうんです。
最初の依頼の時、無理してフラフラになっちゃって……。
熱も出しちゃったんだよね?」
「ええ、でもあれは本当に手元に持っていたくなくて、で、急いで無理しちゃったの。
もう気にしないで」
「でも……、あれでこういう仕事はジニーに向いてないって、私、思ったんです。
で、その後の作品が急に変わったんだよね、ねー!」
「何が、ねー!?」
アトラが戸惑っているジニーの左手をつかむ。
「もうこれは何よ!
言ってくれるの待ってたのに言ってくれないんだもん!」
「昨日! 頂いたばかりで!」
「ロバートさんでしょう!
彼へのプレゼントのブックカバーが転機よね! ジニーの!」
ジニーは赤くなりながら頷いた。
「そうだと思う」
「あら、ロバートのブックカバー見せてもらわなきゃ」とルイザが言うと、ジニーが「似たのがある」と棚に目を走らせた。
「ないよ! もう売れた!
あの雪の結晶のハンカチでしょ!」
アトラが笑った。
その後、手芸用品店へ行きハンカチと糸を買った。
カルネが「珍しい糸を仕入れられたの!」と見せてくれたのは銀の糸。
前にサーザのハンカチを刺した時の糸より質が良く発色が美しい。
「あ、帝国のじゃない!?」
ジニーが言うと、カルネは頷く。
「王都のお店の方で仕入れたんだけど、使いこなせる人がなかなかいなくてこっちにも回ってきたみたい。
まあ、高価でもあるしね」
「帝国の糸?」
ダグラスが質問するとジニーが説明した。
「マグル帝国の刺繍糸です。
帝国は布、糸、リボンとか、手作りで質が良いものが多くて!
手芸をする者の間では憧れの素材なんですよ!」
「へえ! じゃ、今度、帝国へ行ったらジニーへのお土産にしよう!」
「本当ですか?
楽しみにしてます!」
すっかりダグラスもジニー、ジュディスを気に入ったようだ。
ルイザは嬉しそうにダグラスとジュディスを見た。
きっと、このままジニーはジュディスを名乗れるようになり、ロバートとここオブリスで学生ながら結婚して、生活していくことができるだろう。
「夕方はロバートのアパートを見に行くのですよね!」
ジニーが微笑む。
「ジニーも一緒よね?」
ルイザはジニーの予定を確認する。
「はい!
今日は『一皿』に戻って、弁当便があります。
それを大学の研究棟に届けて、図書館でロバートと待ち合わせしてます!」
「バルデス先生も見たいって」
「ええ、そんなにたくさんの人、入れるかな!?」
読んで下さり、ありがとうございます。
第5章はこれで終わりです。
次の第6章は王都のというか、ロイヤー子爵家を中心に結託しているようでお互い何か企んでいる話が明らかになる予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。




