10 ブルースピネル
どうぞよろしくお願いします。
オブリスの図書館の一室。
午後4時になろうとしている。
ジュディスはジニーとして、ロバートとメージと借りた応接室にいた。
遡ること少し前、年始から10日ぐらいたった頃、街の雰囲気や大学や図書館が通常営業に戻りつつある時期に、ジニーはメージにロバートと正式に結婚を考えてのお付き合いをすることになったことと、ロバートの兄と婚約者がオブリスに旅行に来ることを話すことができた。
「つまり初めてロバートの家族との顔合わせというわけですね。
それは『ジニー』としてですか?」
「実は義姉になる方はロバートと同期の学園の先輩であるので。
私がジュディスで、その……家出してきていることはもう手紙でお知らせしてあります。年末には送った物が届いていると思うので……」
メージは目を瞬かせて何度も頷いた。
「すると、ジニーさんがジュディス・ロイヤーとして名乗れるように協力して下さるということですね」
「はい……。
数年後にはそうなっているといいなと思います」
「なるほど。
それで……、わかりました。
実は古い親友から連絡をもらったんです。
今度こちらに会いに来ると。
バルテスという名で貴族学園の教師をしているのですが……」
ジニーが驚く。
「え? バルテス先生!?
私がとてもお世話になった大好きな先生です!」
ロバートが確認したところ、どうやら同じ日にロバートの兄ダグラスとルイザ、そしてバルテスがオブリスに来る話になっていることがわかった。
揃って図書館に訪問してくることも。
それで、メージが図書館の応接室を借りられるように手配してくれ、メージも一緒に3人を迎えることになったのだ。
「ダグラスにジニーがジュディスであると打ち明けやすいな!」とロバートは笑うが、ジュディスはダグラスが家出した娘であるジュディスとロバートの交際を許してくれるのだろうか……と心配でもある。
ジュディスはナオミとダンにも相談し、ランチの営業時間を終えてから急いで身支度を整えて図書館に来ていた。
まだルイザ達は到着していない。
もう特別急行は到着している。ホテルに寄ってからこちらに来るという予定だ。
「ジュディス、緊張している? 大丈夫だから」
「はい……。でも、お兄様、びっくりしませんかね?
……家出娘ですし」
「そんな石頭じゃないし、ちゃんと説明すれば」
ロバートはそう言いながらポケットから指輪を取り出し、ジュディスの左手を取ると薬指にその指輪を嵌める。
「えっ? な!?」
ジュディスが慌ててロバートに握られた自分の左手を見ると、ブルーグレーの石が輝く銀の指輪が見えた。
「うん、いいね。
思った通り、よく似合う」
「えっ!? 今!!」
「昨日出来上がったんだ。
もうプロポーズは年末にしてたし」
メージが笑い出す。
「ロバート!
こういう物はもっとロマンチックに渡すんじゃないのかね!?」
「早く……、兄達に会う前にと思ったら、今しか……」
そうなのだ。『一皿』でランチのお運びに忙しかったわけで、遅い昼食を食べ、支度しやっと図書館にジュディスが合流したのはついさっき……。
びっくりした表情で指輪を見つめるジュディス。
「いいんですか!?
後でお返しします?」
「何で返すの!?」
ロバートが慌てて言って、メージがさらに大笑いする。
その様子を見てジュディスは『あ、しまった!?』という顔をした。
「……そっか、婚約指輪!
ありがとうございます。
きれいなブルーグレーの石ですね……。何の石ですか?」
「ブルースピネルだ」
「スピネルって赤い?」
「ああ、そのスピネルの色違いってとこだな。
ブルーグレーに見える石を選んだ」
「ロバートの瞳の色ですね」
ジュディスがとても愛おしそうに微笑んで指輪を見つめる。
その表情にロバートが真っ赤になった。
ジュディスは気づかない。
それを見たメージは再び声を堪えてクククッと笑った。
読んで下さり、ありがとうございます。
返しちゃだめだろ、ジュディス……。
ガーネットの色違いも考えたんですけど、スピネルの方が落ち着いた色味だったので(ガーネットだと自然光と室内灯で色が変化したりもしちゃう)こちらの石にしました。




