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初心者ダンジョンで掃除してたら、研修を頼まれました  作者: ギズモ


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第3話 通れる道を探します

ドローンの画面に、瓦礫の奥の形が少しずつ浮かび上がっていく。


大きな岩が、いくつも折り重なっていた。


その隙間を、小さな破片が埋めている。


「……思ったより複雑ですね」


小野寺が画面をのぞき込む。


「ですねえ」


俺も同感だった。


見えている岩を端から片付ければいい、というわけではなさそうだ。


大きな岩の一つを動かせば、その上に乗っている別の岩まで落ちてくるかもしれない。


「このへん、俺が持ち上げましょうか?」


桐谷が一番手前の岩を指した。


人の胴体ほどもある、大きな岩だ。


「ちょっと待ってくださいね」


ドローンを近づけ、周囲を走査する。


その岩は、上から斜めに伸びている別の岩を支えているように見えた。


「……それは触らない方がよさそうです」


「えっ、これもですか?」


「上の岩が落ちるかもしれません」


「なるほど……」


桐谷が出していた手を、完全に引っ込めた。


よかった。


力がある人は、とりあえず持ち上げようとするから怖い。


「じゃあ、どれなら動かしていいんすか?」


「そこを調べてるところです」


正直、俺だって崩落現場の専門家ではない。


普段の清掃で、通路に落ちた石や壊れた装備を片付けることはある。


でも、こんな大量の瓦礫を相手にする仕事は、そうそうない。


だからこそ、分からないものには触らない。


「俊太郎。右の奥はどうだ?」


「キィ」


俊太郎が耳を動かした。


しばらくして、通路の右側を指す。


ドローンをそちらへ向け、詳しく走査する。


壁と瓦礫の間に、細長い空間があった。


「……あれ?」


俺は画面を拡大した。


「ここ、少し空いてません?」


「本当だ」


小野寺が身を乗り出す。


右側の壁に沿って、隙間が奥まで続いていた。


ただし、途中が小さな瓦礫で塞がれている。


「ここを広げれば、通れるかもしれません」


「よし! じゃあ俺が――」


「まだですよ」


「……はい」


桐谷が素直に頷いた。


さっきまでなら、もう岩を持ち上げていたかもしれない。


俺は壁際の隙間をもう一度確認した。


天井側の大きな岩には触れない。


その下に積み重なっている岩にも、できるだけ触れない。


取り除くのは、壁際に散らばった比較的小さな破片だけ。


それで人が通れる幅になるかどうか。


「……試してみましょうか」


「了解っす!」


*


作業を始めて、すぐに分かったことがある。


桐谷は、力仕事が得意だ。


「これ、こっちでいいっすか?」


「はい。そこなら邪魔になりません」


「了解!」


俺が指定した岩を持ち上げ、通路の手前まで運んでくれる。


俺なら二人がかりでないと動かせない岩でも、平気な顔だ。


ただし。


「次、これいけます?」


「……待ってください。先に上を確認します」


「はい!」


何かを動かす前に、必ず確認する。


それだけは徹底してもらった。


小野寺は小さな破片を回収しながら、周囲を警戒している。


「佐倉さん、ここの石はどうしましょう?」


「そのままでいいです」


「通路にはみ出してますけど」


「通れますから」


「……ああ、全部片付けなくていいんでしたね」


「そういうことです」


俺は隙間を見た。


もう少し。


あと少しだけ、幅があれば。


「桐谷さん、この石、動かせそうですか?」


「いけます!」


「じゃあ、ゆっくりお願いします。途中でほかの岩が動いたら、すぐやめてください」


「了解っす」


桐谷が岩に手をかけた。


少しだけ浮かせる。


周囲を確認。


ほかの岩は動かない。


そのまま慎重に引き出し、通路の手前へ運んだ。


「……どうっすか?」


俺はドローンの画面と、実際の隙間を見比べた。


「よし。これなら通れそうです」


「おお!」


桐谷が拳を握る。


「やりましたね!」


小野寺も笑った。


俺は最後にもう一度、瓦礫の状態を確認した。


大きな岩の位置は変わっていない。


隙間の奥にも、今のところ崩れそうなものは見当たらない。


絶対に安全とは言えない。


でも、ここでいつまでも立ち止まっているわけにもいかない。


「一人ずつ行きましょう。慌てずに」


「はい!」


最初に桐谷が通る。


大きな剣を背負ったまま、身体を横に向けて進んでいく。


少し窮屈そうだったが、無事に抜けられた。


次に小野寺。


最後に俺。


俊太郎を乗せたドローンが、俺の前をゆっくり進む。


「……よっ、と」


壁に身体を寄せ、隙間を抜ける。


向こう側へ出た瞬間、思わず息を吐いた。


「はあ……」


「お疲れさまっす!」


桐谷が笑顔で迎えてくれる。


「どうも……」


俺は振り返った。


さっきまで塞がれていた通路。


その端に、俺たちが通った隙間ができている。


「……本当に通れましたね」


小野寺が感心したように言った。


「通れましたねえ」


「佐倉さん、こういうの慣れてるんですか?」


「いや、さすがにここまでのは初めてですよ」


「でも、すごかったです」


「桐谷さんが運んでくれたおかげです」


「いやいや! どれ動かせばいいか、俺には全然分かんなかったっす!」


それはさっきから見ていたので、よく分かる。


「僕も、魔法で吹き飛ばさなくてよかったです」


小野寺が瓦礫を見上げる。


「下手したら、全部崩れてましたね」


「……そうですね」


想像したくない。


俺は二人を促した。


「じゃあ、先へ進みましょうか」


「はい!」


せっかく通れるようにしたんだ。


戻る理由はない。


*


瓦礫の向こうには、広い空間があった。


天井が高い。


太い石柱が二本、部屋の中央に並んでいる。


通路は、俺たちが出てきた場所を含めて四方向へ伸びていた。


「おお……」


桐谷が周囲を見回す。


「結構広いっすね」


「そうですね」


俺は足を止めた。


「まず、安全確認をしましょう」


「了解っす」


俊太郎が耳を動かす。


しばらく待っても、近くに動くものの反応はないようだ。


ドローンでも周囲を走査する。


柱の陰。


通路の入口。


天井近く。


確認できる範囲に、モンスターの姿はない。


「……今のところ、大丈夫そうですね」


ようやく部屋の中央へ進んだ。


ここなら、周囲の形を広く調べられる。


ドローンの走査範囲を広げ、部屋全体の地形を記録していく。


二本の石柱。


四方向の通路。


そのうち一本だけ、入口付近で大きく曲がっている。


俺は受信済みの地図を開いた。


「……ん?」


画面を見比べる。


もう一度、周囲を見る。


石柱が二本。


通路が四本。


曲がっている位置も同じ。


「小野寺さん、ちょっと見てもらえます?」


「はい?」


地図を指す。


「ここ、似てません?」


小野寺が画面に顔を近づけた。


「……あ」


桐谷も横からのぞき込む。


「何すか?」


「これです。地下八階の……」


小野寺が指で地図をなぞる。


「既知領域の端にある広間」


「えっ?」


桐谷が目を丸くした。


「じゃあ、ここが……?」


「まだ確認します」


俺は通路の向きを、一つずつ照合した。


右側の通路は途中で細くなる。


正面の通路には、壁が少し張り出している。


左側は緩やかに曲がっている。


ドローンの記録と、地図の形が一致した。


「……間違いなさそうですね」


「やった!」


桐谷が声を上げる。


俺も思わず笑ってしまった。


「地下八階です!」


「地下八階!」


小野寺がもう一度、地図を確認する。


「ということは、地下七階へ続く階段も……」


「載ってます!」


俺は地図を拡大した。


広間から伸びる通路。


その先にある分岐。


さらに進んだところに、階段の印がある。


「……やっと、どこにいるか分かりましたね」


思わず、もう一度地図を見た。


さっきまで、どこへ進めばいいのかも分からなかった。


今は違う。


地下八階。


目指すのは地下六階。


少なくとも、進む方向は分かった。


「あと二階分ですね!」


桐谷が言う。


「そうですね」


俺は頷いた。


二階分。


それだけ聞けば、近い気がする。


ただし、ここは中級ダンジョン。


さっきの大きなモンスターみたいなのが、ほかにもいるかもしれない。


「……油断せずに行きましょう」


「了解っす!」


「はい!」


今度こそ、帰り道が見えてきた。


*


階段を目指して、通路を進む。


地図と周囲の形を照らし合わせながら、一つずつ分岐を確認した。


途中で何度か休み、水を飲む。


小野寺は魔力の残量を確認していた。


桐谷も、剣を背負い直しながら周囲を見ている。


初めて会ったときより、二人ともずいぶん慎重になった気がする。


……いや。


気がするだけかもしれない。


何しろ、今朝会ったばかりだ。


俺が二人をどれくらい理解しているかなんて、まだ怪しい。


「佐倉さん」


小野寺が地図を指した。


「この先、もう一つ曲がれば階段へ続く通路ですね」


「そうみたいです」


「やっとっすね!」


桐谷が笑う。


俺も頷きかけた。


そのとき。


「キィ!」


俊太郎が鳴いた。


前方を指している。


ドローンを向ける。


生体反応が一つ。


「……いますね」


俺たちは足を止めた。


画面に、モンスターの姿が映る。


長い尾。


二本の後脚。


前方へ伸びた頭には、鋭い牙が並んでいる。


短い前脚の先にも、爪があった。


全長は二、三メートルほどだろうか。


恐竜に似ている。


「……何ですか、あれ」


俺は思わずつぶやいた。


桐谷が画面をのぞき込む。


「速そうっすね」


「ですねえ……」


まだ遠くにいる。


こちらには気づいていないようだ。


「引き返しましょうか」


俺が言うと、桐谷はすぐに頷いた。


「了解っす」


小野寺も杖を下げる。


よし。


その判断でいい。


俺たちは音を立てないように後退し、曲がり角へ戻ろうとした。


そのときだった。


画面の中で、モンスターの頭が動いた。


こちらを向く。


「……え?」


次の瞬間。


モンスターが走り出した。


「見つかった!」


「逃げましょう!」


俺たちは一斉に駆け出した。


通路を曲がる。


後ろから、硬い足音が響く。


速い。


思った以上に速い。


「うわっ、速っ!」


桐谷が振り返り、叫んだ。


「佐倉さん、先に!」


「は、はい!」


必死に走る。


だが、足音はどんどん近づいてくる。


ドローンの画面を見るまでもない。


追いつかれる。


「タクマ!」


小野寺の声。


「分かってる!」


桐谷が足を止め、剣を構えた。


「佐倉さん、下がって!」


俺は通路の端へ飛びのいた。


直後、モンスターが飛び込んでくる。


鋭い爪が振るわれた。


桐谷が両手剣で受ける。


金属を引っかくような音が響いた。


「っ!」


桐谷の身体が押される。


間髪入れず、モンスターがもう一方の爪を振るった。


桐谷が剣を引き戻して防ぐ。


「リク!」


「分かってる!」


小野寺が杖を掲げた。


放たれた攻撃魔法が、モンスターの肩に命中する。


衝撃で、敵の身体がわずかに揺れた。


だが。


「……止まらない!?」


モンスターはすぐに体勢を立て直した。


牙をむき、再び桐谷へ襲いかかる。


「くそっ!」


桐谷が剣を振り、噛みつこうとする頭を牽制した。


小野寺が次の魔法を放つ。


今度も当たった。


しかし、敵は倒れない。


むしろ、さらに激しく攻撃してくる。


「……まずい」


俺は通路を見回した。


桐谷が前に立ち、小野寺が後ろから攻撃する。


初心者ダンジョンでは、あれだけ簡単にモンスターを倒していた二人だ。


なのに、今は明らかに様子が違う。


桐谷は攻撃するよりも、防ぐことに追われている。


小野寺の魔法が当たっても、敵の動きは止まらない。


俺が割って入ったところで、何もできない。


なら。


「俊太郎! 周りを調べてくれ!」


「キィ!」


俊太郎が耳を動かす。


ドローンを操作し、逃げ込めそうな場所を探す。


後方の通路。


左右の壁。


曲がり角の先。


だが、どこへ逃げても、あの足の速さでは追いつかれそうだった。


「桐谷さん! 少しずつ下がれますか!」


「やってます!」


返事と同時に、鋭い爪が桐谷の剣を弾いた。


桐谷が一歩、後ろへよろめく。


「っ、危な……!」


モンスターが牙をむく。


桐谷は身体をひねり、ぎりぎりでかわした。


その横を、もう一度爪がかすめる。


「タクマ!」


小野寺が攻撃魔法を放った。


敵の身体に命中する。


今度は、桐谷が距離を取るだけの隙ができた。


「助かった!」


「まだ来る!」


モンスターが向き直る。


二人は後退しながら応戦した。


最初のころのように、勢いに任せて突っ込んだりはしない。


桐谷は小野寺の前を離れず、攻撃を防ぎながら少しずつ退いている。


小野寺も、無闇に魔法を連発しない。


敵が迫ったところで攻撃し、桐谷が下がる時間を作ろうとしていた。


ちゃんと、考えて戦っている。


でも。


「……っ!」


桐谷がまた、押し込まれた。


敵の爪が、次から次へと振るわれる。


一撃を防ぐ。


次をかわす。


また防ぐ。


その繰り返しだ。


相手の動きに、剣が追いつかなくなってきている。


「リク! まだ撃てるか!」


「撃てる! でも、あと何発も続けられない!」


小野寺の声が切迫していた。


魔力が減っている。


このまま戦い続ければ、いずれ魔法を使えなくなる。


そのとき、桐谷が一人であのモンスターを止められるとは思えなかった。


俺はドローンの画面に視線を落とした。


逃げ道。


逃げ道を探さないと。


「キィ!」


俊太郎が鳴く。


俺は指された方向へドローンを向けた。


走査する。


通路の形を確認する。


だが、まだ決め手が見つからない。


後ろでは、剣と爪がぶつかる音が続いていた。


「くっ……!」


桐谷の声。


振り返ると、剣で受けた爪に押され、片膝をつきかけていた。


小野寺が魔法を放つ。


敵が一瞬ひるむ。


桐谷はその隙に立て直した。


しかし、もう余裕はなさそうだった。


「……佐倉さん!」


桐谷が叫んだ。


攻撃を受け止めながら、こちらを見る。


倒せない。


このままでは、全員が危ない。


それを、二人とも分かっている。


桐谷はもう一度、剣を構え直した。


そして。


「佐倉さん! 逃げ道は!?」

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