少し長めの序章 8.王都への道中~小さな賭博師~
さて――
レック村での一件から少女クリスの評価に微妙な修正を加えた一行であったが、そうは言っても護衛対象は十歳の少女、しかも【光魔法】を持つ聖女の候補者である。首尾好く聖女の任に就く事になれば、孰れ治癒や回復の魔法を習得するだろう。そうなれば、その恩恵を蒙るのは自分たち騎士団員だ。できる事なら今のうちから良好な関係を築いておきたい……という打算や思惑は別にしても、純真な少女の教育に悪影響を及ぼすような不首尾は避けたいのが人情である。ゆえに、日頃から素行に問題のある隊員からは隔離しておいた方が良いだろう……
……などと最初は考えていた彼らであったが、直ぐにそんな配慮は吹っ飛んだ。何しろこの少女ときたら、分隊一番の悪を向こうに廻して一歩も引かないどころか――
「ちょちょいのちょいっと、これで銅貨七枚戴き」
「かぁーっ! またかよ!」
「嬢ちゃん、聖女様なんだろ? もちっと貧者にお恵みってもんを垂れ下さってもいいんじゃねぇか?」
「お生憎。こちとらまだ聖別も就任もまだなんでね。俗塵に塗れてたって仕方ないのさ」
――その悪から博奕で小銭を巻き上げる有様なのだ。どっちがどっちの〝教育に悪い〟のか、知れたものではない。
・・・・・・・・・・
「おぃカルビー、騎士団切っての悪が形無しじゃねぇか」
「分隊長、ありゃ手が着けられませんや。サマならまだ何とかなるんですけどね」
――カルビーの言う〝分隊長〟とはスリーダスの事である。「従士長」が階級で「分隊長」が役職というわけだ。
「……イカサマじゃねぇってのか?」
「違いますね。こっちだって昨日や今日の駆け出しじゃねぇんだ。大抵のサマなら見破って見せまさぁ。けど……どんだけ目を凝らして見ても、それらしい動きが見つけられねぇんで」
まぁスリーダスも、〝十歳の少女が自分たちの目を欺くほどの高度なイカサマを使って見せた〟――などと本気で考えていたわけではない。……ただそうすると、問題は更に不可解の色を強めてくる。あの少女は一体どうやって、悪ども相手の博奕で勝ち続ける事ができたのか?
「今日という今日は神様とか……聖女様ってのを信じる事にしましたよ、俺ぁ」
「いや……仮にそうだとしてもだ――」
仮に百歩ないしそれ以上を譲って、少女が神のお告げで勝機を掴み続けたとしても……
「……俺の気のせいなのかもしれんが……何かあの娘っ子、妙に場慣れしているように見えなかったか?」
座り方、位置取り、目の配り、賽子の振り方……そういったものが妙に堂に入っていたように思えた。幾ら神様の助言があったとしても、一朝一夕にそんなところまで身に着くものだろうか? 昨日や今日身に着けたものでないとしたら、長年に亘って神様の教えがあったという事になるが……頑是無い少女にそんなアドバイスを与え続けるというのは、神様として如何なものだろうか? いや、ひょっとしたら博奕の神様というのも存在するのかもしれないが。
「あ、そりゃ俺も気付きました。何つーか、仕草の一つ一つが豪く様になってるっていうか……ありゃ、一年や二年で身に着くようなもんじゃねぇですよ」
「あぁ、俺もそんな印象を受けた。……しかし――だ。だとするとあの村は……」
二人の印象が的を射ているとすると、そして神様が関与した可能性に目を瞑るとすると、あの少女は物心付いてからこの方、博奕に明け暮れてきたという事になる。しかしパッと見た時の印象では、両親はそこまでの極道者には見えなかった。
(いや……金を賭けるとかじゃなくて、単に娯楽としてやってるだけかもしれんが……)
これが博奕の件だけと言うなら、そういう解釈も一応は可能であろう。しかし、エンリー聖騎士による証言――少女が大人顔負けの交渉術を発揮したという話をここに加えると、どうしても〝少女は大人の間に交じって、あれやこれやの経験を積んだ〟と考えるより他は無い。
となると……
「……あの村じゃそこまで博奕が盛んなのか? 十の子供が大人顔負けの博才に目覚めるくらいに?」
「そんな感じにゃ見えなかったんですがねぇ……」




