少し長めの序章 7.エンリー聖騎士による少女の見立て~レック村での一幕~(その2)
「……僕が聖騎士である事を盾に取られてね……神と信仰の名に賭けて誓えと言われたら……僕としても頷くしか無いじゃないか」
「………………」
エンリー聖騎士の曝露話にドン引きのスリーダス従士長――この男には珍しい――であったが、それはまだ序の口であったらしい。
「……彼女の実家だけでなく、村の扱いについても配慮を求められてね……」
「村の扱い?」
従士長が訝しげな声を上げたのも宜なるかな。教会が関与できるのは、飽くまで「聖女候補」である少女のみ。村への采配は領主の権限であり、教会と雖もその権利を侵す事はできない。……いや、教会として教区にある村の扱いに配慮する程度ならできなくもないが、それくらいならこの聖騎士殿がここまで憔悴する筈が無い。
「……彼女が【木魔法】持ちなのは聞いてるよね?」
「そりゃ、水晶による鑑定でそうなってた……待って下さいよ? ひょっとして……?」
「多分、従士長の想像どおりだよ。子供とは言え【木魔法】持ちが一人いなくなる事で、今年以降の出来高に影響する可能性がある。その点については、教会の方で領主に説明してもらいたい――ってね。……確り言質を取られたよ」
「……聞いてる限りじゃ真っ当な言い分に思えますが……それを〝教会の責任において領主に説明しろ〟――ってなぁ……」
筋が通っているだけに却下しづらいが、七面倒臭い事この上無い案件である。
悪い事に、この場にはその案件を裁可する権限を持つ者がいない。上司のリュモン騎士長も、巡察局のエミリオ巡察使も、ともに領都へ向かっている最中である。
王都の総教会に持ち帰るしか無いだろうが……本部のお偉方の渋面が幻視できるようだ。
「……居合わせた村長は何か言いたそうにしてたんだけどね……あの子が視線で黙らせていたよ……」
「そりゃあ……また……」
……確か騎士長殿と巡察使殿は、グノア村での騒ぎの裏に彼女がいるような事をおっしゃっていた。ただの考え過ぎか冗談だろうと思っていたが……違うというのか?
だとしたらひょっとして、部下が報告してきたアレも……
「……何かあったのかい? 従士長」
「……隊長が家ん中に入ってからの事ですけどね、部下どもが報告してきたんですよ。グノア村に出てたガキの一人が、上等そうな酒壜を何本か抱えてどこかへ走って行った――ってね」
「酒壜? ……従士長、それって……」
「えぇ。グノア教会の碌でなしどもを取っ捕まえた時、教会の一室にパーティっぽい支度の跡があったでしょう? ……酒も料理も無かったが」
「……グノア村の連中が目敏く持ち去ったんだろうと思ってたが……」
「ここのガキどもも一枚噛んでたみたいですな。それに、騎士長殿が経験なさったっていうお姫様の悪知恵っぷりを重ねると……」
「……子供たちに指示を出したのは彼女……という可能性も低くはないね……」
・・・・・・・・・・
後にクリスを問い詰めたところ――
〝聖騎士さんたちゃ立場上、グノア教会からの饗応は受けられないんだろう? だったら冷めたり傷んだりする前に片付けた方が、酒も料理も本望だろうし、第一巡察使さんたちだって、面倒が減って好いじゃないか〟
――と、生真面目に返されたのに反論できず、一同打ち揃って天を仰いだのだが……それも無理のない事であったろう。




