少し長めの序章 6.エンリー聖騎士による少女の見立て~レック村での一幕~(その1)
何のかんので本隊と別れ、一躍時の人となった少女クリスを護衛して、その村まで戻ったエンリー聖騎士の一行であったが……村までの護衛任務などよりも、村へ戻ってからの仕事で消耗させられるとは思っていなかった。
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「……そんなに交渉が難航したんで?」
見るからにげっそりと消耗した様子で少女の家から出て来た小隊長・エンリー聖騎士を見て、スリーダス従士長は――やや引きながら――問いかけた。
スリーダス従士長が垣間見た限りでは、少女の両親は純朴実直な人柄のように思えた。教会の側だって別に彼らを罠に嵌めようとしているわけではないし、普通に念書を取り交わすだけで終わると思っていたのだが……?
「……ご両親の方はともかく、あのクリスって子がね……」
「……あのお姫様が、何か?」
利発な子供のようではあったが、とにかく痩せっぽちのチビ助だった。王都へ連れ帰ったら、まず何よりもちゃんとした食事を与えてやらないと……
「……なんて考えてるんなら――甘いよ、従士長。あの子はそんな殊勝なタマじゃない」
「……どういうこってす?」
普段から気品と節度ある振る舞いを標榜している小隊長――一応は貴族の出――にここまでの発言をさせるとは、あの少女は一体何者だ?
「話し合いに時間がかかったのは気付いてるだろ?」
「そりゃまぁ……大事な愛娘を手放そうってんだから、名残を惜しんでたんだとばかり……違うんで?」
「違う……いや、ご両親が名残を惜しんでいらしたのは事実だけど、時間がかかったのはそのせいじゃない。……あの子だよ」
「……あのお姫様が名残を惜しんで……ってんじゃなさそうですな」
一体全体、家の中で何があったのかと不審顔のスリーダス従士長に、エンリー聖騎士が疲れた口調で、事の顛末を説明する。
……書面の文言の一字一句に至るまで、少女からの鋭い突っ込みがあり、それを受けた教会代表のエンリー騎士との間に、丁々発止の熱い舌戦が繰り広げられたのだと。
「……実家が国務系の法衣貴族なのは知ってるだろ? 〝門前の小僧、習わぬ祈祷を諳んず〟というぐらいで、僕も少しは契約関連の文章が扱えるんだけど……彼女は、強敵だったよ」
「……そこまで――だったんですか?」
その現場を見ていたわけではないスリーダス従士長にしてみれば、直ぐには信じかねる話である。たかが十歳の小娘が、総教会の聖騎士を相手に、そこまでの交渉戦を繰り広げられるものか?
「……こんな僻地で、どうしてあんな才能が芽吹いたのかは解らないけどね。……もしかしたらあれこそが、彼女が聖女である証なのかもしれないって……そう思えるほどに手強かった」
「………………」
「あれが神の思し召しだとしたら、少しだけ神への信仰が薄れる気がする……不謹慎にも、そう思ってしまうくらいにね」
「………………」
「言い回しを意図的にあやふやにして、後の抜け道に使えるようにしてある箇所を……全部潰されたよ……」
仮にも聖職者がそんな悪巧みをしてどうするのかと言いたくもなるが、教会だって商人相手の交渉は必要である。その交渉相手の商人が生き馬の目を抜くようなタイプである事も珍しくはないので、自己防衛のためにも或る程度の技術は必要なものと見做されている。
ただ……今回はそういった箇所を悉く指摘され、〝法律的に有効な形式〟での訂正を要求されたのだという。




