少し長めの序章 5.巡察使たちによる任務の修正【地図あり】
あの後、千載一遇の好機とばかりに教会の腐敗堕落ぶりを告発したグノア村の住人が続出した事もあって、巡察使の一行は背徳者一味の捕縛と証拠の押収に成功。この後は罪人たちを領都デイラードの本部教会に引き渡すと同時に、領主であるデイル辺境伯の許に説明と釈明に行かねばならないのだが……
「あの少女はどうします? 領都まで連れて行くんですか?」
難しい顔で問いかける騎士長に、巡察使も渋い表情を隠せない。
「それもねぇ……」
巡察使一行の本来の任務は、グノア村教会による汚職を糾明する事と、場合によってはその捕縛であった。よってこちらを最優先にせざるを得ないのだが……予定外の聖女(?)候補の出現が、その判断を難しくしていた。
「あの少女の件は既に村中に知れ渡っていますからね。辺境伯の許に噂が届くのも時間の問題ですよ?」
そんな状況で噂の少女を帯同して領都に行けば、人材の引き渡しでなんのかんのとゴネられるのは目に見えている。辺境伯だって有為の人材は、喉から手が出るほどに欲しいのだ。
「おまけに少女の出身だというレック村は、領都とはほぼ真反対ですからねぇ……」
[デイル辺境伯領略地図]
領都デイラードは辺境伯領の中心、レック村は領土の端にあるとすれば、その中間にあるグノア村から見て、両者が反対の方向になるのは自明の理である。
少女の主張を容れてレック村へ赴き、そこで少女の両親に事情を説明して、少女の身柄の代わりに然るべき対価を約束する必要があるとなると……領都とは反対方向にある目的地まで、余計な足を運ばねばならない。
おまけに、罪人の連行も少女の護送も一刻を争う任務だとすれば――
「……あっちとこっちへ立ち寄って、時間を浪費するわけにはいきませんか……」
「況して、彼女を領都に連れて行くのは下策となると……」
「二手に分かれるしかありませんな」
背任者一味の数は多いので、その連行にはそれ相応の人数を確保しなくてはならない。一方で少女を安全に王都まで護送するためには、夜営時の交代人数も考えれば、最低でも四人以上は同行させねばならないだろう。
「……已むを得ません。一個小隊を彼女の護衛に割きましょう」
「誰を付けるね?」
「エンリー聖騎士が適任かと。彼と、彼の右腕のスリーダス従士長なら、上手くやり遂げるでしょう」
聖騎士団は聖教会に附属する騎士団であり、その前身は騎士修道会であったという。基本的には教会関係者の護衛を任務とするが、盗賊や魔物の討伐のために派遣される事もある。尤もそういったケースでは、ほぼ例外無く派遣地の領軍や国軍との共同任務となるのだが。
聖騎士団は教会附属の組織であるという性格上、騎士団長以下の聖騎士は教会の信徒である事を要求される。ついでに言っておくと、ほぼ全員が貴族家の出身である。
聖騎士の下に就く者は従士と呼ばれ、彼らが騎士団の主戦力を担う。実戦部隊として何より実力が重視されるため、平民や冒険者上がりの者も多い。従士は必ずしも信徒である必要は無いが、聖騎士団という職務の性格上、基本的に離職は許されない。
従士は五人で一分隊を構成し、ベテランの従士が従士長として彼らを統率する。
基本的に聖騎士一人の下に一分隊から二分隊の従士が就いて、作戦行動に従事するのが普通である。
そして――今回少女の護衛任務を任されるエンリー聖騎士は駆け出しの二級騎士ながら、歴戦かつ曲者揃いのスリーダス分隊を預けられた事からも解るように、騎士団上層部からはかなり期待されているようである。
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巡察使に同行している聖騎士団が屯している一画に、如何にもベテランという風格を纏った男が入って来た。軽装を身に着けているところを見ると、聖騎士ではなくその下の従士。それも記章から判断すると、下士官に相当する従士長のようである。
その男は落ち着いた……と言うか、面倒臭そうな足取りで一隅に足を運ぶと、
「グウタラども喜べ、仕事だ。勿体無くも我が分隊は、王都までお姫様を護衛する特別任務を仰せつかった。今からガキどものお守りをしながらお姫様の村へ向かい、そこから王都にお姫様をお連れする。――ケイリー、カルビー、リドルジョン、タルカー、一緒に来い」
「「「「うぃーす」」」」




