少し長めの序章 4.主人公による異議申し立てと告発
主人公の少女――クリスというらしい――がステータス画面を眺めて考え込んでいる最中にも、巡察使による口上は続いていた。
「……とにかく、【光魔法】と【闇魔法】に加えて【火魔法】と【木魔法】まで持っているとなると、これは近年に無い……事によると、王国始まって以来の人材となり得るかもしれません。是非とも王都の総教会に連れ帰りたいのですが……」
「も、勿論でございますとも。このような鄙の地からそのような人材が出たとなれば、このグノア村教会を預かる身としても無上の誉れ。素より否やはございません。その旨、王都の総司教様にも宜しくお伝え戴きたく……」
巡察使に対して揉み手をせんばかりの態度で、そう答えた――答えようとしたグノア村の司祭であったが、
「勝手な事をほざいてんじゃないよ!」
――その台詞を、当の少女の声が切り裂いた。
「な、何を言うのだ。お前のような子供が教会に……それも王都の総教会に召し上げられるなど、滅多にある事ではないのだぞ? 感謝して行くのが当たり前だろうが」
「はんっ! 子供子供ってお言いだけどね、あたしみたいな子供でも、辺地の村じゃ大事な労働力なんだ。教会の勝手な都合とやらでそれを取り上げるって言うなら、然るべき代価ってやつを払ってもらおうじゃないのさ!」
「な、な、何という事を……神を恐れぬ不届き者が……」
年端もいかない小娘に、それも中央からの客人の前で顔を潰されたとあって、司祭は満面を朱に染めて立腹している。握り拳がワナワナと震えているところを見ると、巡察使と聖騎士が見ていなければ実力行使に訴えていたのだろう。
だが、そんな司祭をものともせず、件の少女による弾劾は続く。
「大体この教会が、あたしたちの村に何してくれたって言うんだい! 頼んだ時にはちっとも来てくれないくせに、忙しい時に三下を寄越しちゃあ、散々飲み食いした挙げ句に、村のなけなしの銭を巻き上げて行きゃあがって……何かしてくれた例が無いじゃないか!」
「な、な、何を……」
指弾された司祭たちは顔を赤くしたり青くしたりして、言葉も無くプルプル震えている。……〝百面相〟の第二幕だろうか。
その一方で、中央から派遣されて来たという巡察使と聖騎士たちは、厳しい視線を司祭に向ける。王都の教会本部からは、毎年然るべき額の維持費などが届けられている筈。その中には担当する村々のための公益費も入っている筈だが?
チラリと視線を聴衆に向ければ、少女と同じ村から来たと覚しき者たちが黙って頷いているし、それ以外の村の者たちも――我が意を得たりとばかりに――首を縦に振っている。……どうやら、グノア村教会ぐるみでの公金横領は間違い無いようだ。
そして……それとなく辺りの様子を窺っていた騎士長の目に、問題の少女が微かな合図を送るのが見えた。その合図を受けたのは……同じ村出身の子供だろうか。そっと列から離れると、小走りに表の方へと急いでいる。
無言でそれを見ていた騎士長が、これも微かな合図を送ると、軽装の部下――騎士ではなく従士というやつらしい――の一人がやはりそっと列を離れて表に向かう。
(「表で第二幕……いや、第三幕が始まるんですかね?」)
(「結果は孰れ判るでしょう……いや、既に始まっているみたいですよ?」)
見ればグノア村の者と覚しき者たちが、外から続々と詰めかけている。どうやら少女による弾劾劇を見に来たらしい。
ややあって戻って来た従士が、村の子供が司祭弾劾について触れ廻っている旨を報告した。
(「これは……何というか……」)
(「我々にとっては思いもよらない援軍でしたな」)
(「同じ村の子供とは言え、あぁも見事に動かすとはねぇ……」)
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「教会巡察使」とは、教会が布教状況を査察するため各地に派遣した神官の事を指す。国王の代理人として地方に派遣されて地方行政の査察・監督に当たった「国王巡察使」と区別するために「教会」の名を冠しているが、教会内では単に「巡察使」とだけ呼称している。
その任務は、先に述べた布教状況の確認の他にも、教会関連施設の老朽化や信徒の健康状態、経済の状況、魔物の出没や道路状況の確認など多岐に亘り、巡察使の報告に基づいて地方予算の割り振りや聖女・聖騎士団の派遣などが決定されるため、地方の教会にとっては下に置く事のできない重要人物である。
そしてまた、大っぴらにされる事は無いが「国王巡察使」と同様に、地方教会の査察や監督もその任務である。……例えば、グノア村教会の汚職の噂を耳にして、その真偽を確かめるため「祝福の儀」の手伝いという名目でやって来ていた、この時の彼らのように。




