少し長めの序章 3.「祝福の儀」と神官による説明(その2)
十歳の子供が【火魔法】と【木魔法】のダブルホルダーなのはまだ解る。珍しい事には違いないが、過去に前例が無かったわけではない。
それに加えて【光魔法】を持っていたのも、まぁいいとしよう。過去の聖女の中にも、複数の魔法を使い熟していた者はいた。その魔法を「祝福の儀」以前に得ていたかどうかは定かではない――多分違うような気がする――が、全て物事は結果が肝心。最終的に【光魔法】以外に複数の魔法を使う聖女がいたのだから……この子がそうであったとしても、おかしくはない。……ないったらない。
だが……それらに加えて――【闇魔法】?
聞くだに不穏な【闇魔法】という単語に、居並ぶ者たちが不安を覚えた……かと言うとそんな事は無く、不安より前に意味が解らず当惑しているというのが実情であった。まぁ、「火」と「木」、「光」と「闇」が一人の少女に宿っていると聞けば、そんな反応も解らないではない。……何かの間違いではないのか? そう考える方が健全だろう。
そういう皆の動揺を見て取ったのか、中央の総教会から派遣されたという神官――確か「巡察使」とか呼ばれていた――は、徐に口を開いて説明を始める。
「……極めて稀な事ではありますが、【光魔法】と【闇魔法】の双方を身に着けた者がいなかったわけではありません。有名なところでは、伝説の大賢者と呼ばれた彼のソロン師がそうでしたし、師以降にも何名かが存在しています」
〝有名どころ〟の名に心当たりがあったのか、おおっと響く聴衆たち。彼の大賢者ソロンが修得していたとすると、【闇魔法】とはそこまで邪悪なものではないのか? 聞くからに不穏な名前だが。
「魔術的に言えば、【闇魔法】は【光魔法】と同様に、属性魔法の一つでしかありません。過去の宮廷魔導師にも、その使い手がいたくらいです。あまり目にする事が無いので、不安ばかりが掻き立てられる傾向にありますが」
落ち着いた様子で解説する巡察使を見て、聴衆の一人が恐る恐るといった体で質問する。
「神官様……そうすっと、【闇魔法】ってのは別におっかないもんじゃないんで……?」
「恐ろしいかどうかについては、他の属性魔法と同じ程度に恐ろしい――としか言いようが無いですね。名前が名前なので、尚更不安を掻き立てられるんでしょうが」
「その……だったら何で『闇』なんつー名前が付いたんで?」
「……先に名付けられた【光魔法】とは対照的な面が多かったんですよ。既に【光魔法】の名が定着していたので、対比的な意味で【闇魔法】と付けるしか……」
「ははぁ……」
拍子抜けしそうな説明を聞いて、聴衆たちも納得したらしい。まぁ、仮に【闇魔法】が危険なものだとしても、この子は同時に【光魔法】をその身に宿しているのだ。未だレベルも低いそうだし、況してこの場には神官も聖騎士もいるのだ。それほどビクつく必要は無いのではないか。
「【光魔法】と【闇魔法】を持っているだけでも稀少ですが、この子は他にも【火魔法】と【木魔法】のスキルを得ています。こちらは前々から使っていたのか、レベルも少し上がっているようですが……何にせよ、この歳で四属性持ちというのは極めて珍しい……控えめに言っても逸材と言えるでしょう」
巡察使の言葉に再び響く聴衆たち。
そんな彼らから取り残されたように、肝心の少女はポカンとした表情を浮かべて黙っている。事態の推移が理解できていないのだろう。
――と、巡察使も聖騎士も聴衆たちも思っていたが……
(〝四魔法持ち〟ねぇ……どうやら【鑑定】とやらは誤魔化せてるみたいだし……それ以前に、この妙ちきりんな画面も見えていないみたいだね)
そう内心で独り言ちる少女の目の前には、半透明な画面が浮かんでいる。そしてそこに表示されているのは……
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名前:クリス(緋牡丹お駒)
種族:人間(転生者)
性別:女
年齢:十
魔 力:60 [<10][魔術師50]
生命力:67 [50] [兵士70]
筋力値:12 [15]
防御値:19 [10]
敏捷値:29 [8]
器用値:29 [7]
知力値:26 [5][魔術師15]
スキル:【剣術】【体術】【投擲術】【火魔法】【木魔法】【光魔法】【闇魔法】
固有スキル:【鉄火場渡世】
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(……魔力とか生命力とかのところで[]の中に示してあんのが、この世界の平均って事かい? ガキにしちゃ随分と張り込んだ値になってるもんだねぇ……)
「やっとう」:斬り合いや試合の際の掛け声や気合いから、剣術の事を指す。




