第五章 エドワード司教の困惑 2.シスター・ダニエラの報告(その1)
「早速だがどんな按排だったかね、彼女は?」
クリスとの顔合わせを問題無く済ませたシスター・ダニエラ。彼女が総教会の一室に引き取ると、そこにいたエドワード司教が待ちかねたように問いかけた。
軽く一礼したシスター・ダニエラが司教に答えて曰く――
「思った以上に聡い娘です。書字に少しばかり難がありますが、読み書き計算は人並み以上。特に記憶力はずば抜けています。恐らくですが、教会内に彼女と並び立てる者はいないかと」
「そこまでか……」
聖女候補者という肩書きに子供という条件、それにずば抜けた記憶力を兼ね備えるとなると……巡察局のパトリック枢機卿辺りが、喉から手を出すほど欲しがりそうだ。修道会のハラルド枢機卿との間で、面白い駆け引きが見られるかもしれぬ。
思わず黒い嗤いを漏らしそうになったエドワード司教だが、いかんいかんと気を引き締める。今はシスター・ダニエラの報告に、耳と注意を傾けるべきだ。
「ただ、僻地の寒村にいたせいでしょうが、知識量が絶対的に足りていません。古典は無論、地理や歴史などもお寒い限りです」
「うむ……まぁ、それは仕方あるまい」
〝井の中の蛙、大海を知らず〟の喩えもある。僻地の寒村に引き籠もっていた子供に、広い知識を要求するのが無茶というものだ。
独りそう納得していたエドワード司教は、前掲の警句の後に続く〝――されど空の高きを知る〟という言葉に思い至る事は無かった。
「……あと、これは飽くまで仄かな違和感程度のものですが……」
「……何か?」
やや躊躇うように続けたシスター・ダニエラの言葉に、エドワード司教は注意を向ける。教会内で長きに亘って教鞭を執ってきたシスター・ダニエラが感じた違和感となると、これは軽々しく聞き流すわけにはいかない――明確な根拠が無いとしても。況してその〝違和感〟の対象があのクリスとなると尚更である。
「何と言いますか……自分の知っている内容と違って戸惑っている……そういう風な印象を何度か受けました。主に礼法や習慣の説明の時に」
「ふむ?」
辺境から出て来た少女が、見るもの聞くもの珍しく感じる。それは別段おかしな事ではないだろう……と、軽く流しかけたエドワード司教であったが、シスター・ダニエラの言っている事の意味に気が付いて、やはり怪訝な表情を浮かべる。
〝初めて聞いた話に驚く〟というのと、〝聞いていた話と違っているのに驚く〟のとは、同じ驚くでも意味合いが異なる。……僻地の寒村に引っ込んでいた筈の少女は、〝事実と異なる話〟をどこで聞いたのか。況してそれが「礼法」となると……?
「単に村の常識と違うのに驚いた……それだけの事なのかもしれませんけど……」
「……念のために確認しておいた方が良いかもしれんな」
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学力や知識の水準に関しては一とおり訊き終えた――そう判断したエドワード司教は、教導局として或る意味で最も気になる点を質す事にした。即ち、クリスの為人である。
何しろ既にエンリー聖騎士から、クリスが教会に対して不審を抱いている可能性が指摘されているのだ。クリスが優秀な逸材であればあるほど、その為人には注意を向けねばならぬ。
「そうですね……まず、神の御座します事については疑ってはいないようです」
「それは重畳」
どうかすると〝神などいない〟とか〝神は死んだ〟などとほざく不信心者がいたりするのだ。新たな聖女候補者がそうでないという事は、これは何より喜ばしい。
……そう考えていたエドワード司教であったが、直ぐにその考えが甘かった事を知らされる。
「ただ……神のご意志が正しく伝えられているのかについては、些か含むところがあるようです」
「む……?」




