↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

第四章 クリード騎士長の困惑 2.不審な傷痕

「木の幹に何か刺さったような痕(あと)……?」



 部下からの報告に戸(と)惑(まど)ったような声を上げているのは、王都総教会の警備を担当するクリード騎士長である。敷地内の見廻りを行なっていた者からの報告なのだが、これだけでは一体何の事やら見当が付かない。



「もう少し詳しい状況を」

「は。担当者からの報告に拠(よ)れば、木の幹に何かが刺さったような痕(あと)が複数見られたそうです。傷痕の深さは――仮に人体に同じくらい刺さったとしますと、致命の一撃には足りないものの、当たりどころ次第では、行動に若(じゃっ)干(かん)の支障を来(きた)す事はあり得るだろうと」



 だとすると、威力としては微妙である。その程度の攻撃であれば、下手をすると敵愾(てきがい)心(しん)や殺意を煽(あお)るだけに終わりかねない。その程度の威力で敵の行動を阻害し得る条件は、騎士長の思い付く限り一つだけ。



「……手裏剣、か?」

「そのように考えられると。ただ、傷痕の形や深さから見て、投げナイフのような大きなものではなく……」



 部下の口調が躊躇(ためら)うようになったのを、騎士長は視線で続きを促す。



「は……例えば、釘のようなものではないかと」

「釘……か」



 なるほど。部下が発言を躊躇(ためら)ったのも納得できる。釘を投げて敵を牽制、もしくは無力化できる人物と言えば、つい先日その報告を受けたばかりである。



「……噂の聖女候補者どの、か?」

「はぁ……。報告に拠(よ)ればもう一つ、傷痕のあった位置は低かったそうです。……丁度、子供が投げたかのように」



 駄目押しとなる報告を受けて、クリード騎士長はがっくりと項(うな)垂(だ)れた。もはや疑いの余地は無い。犯人は聖女候補者のクリスタルという少女だろう。



「……修道会で身柄を預かる時、武器の類(たぐい)は取り上げたと聞いたが?」

「そうは言っても古釘の一本や二本、隠しておくのも手に入れるのも、然(さ)して難しくはないでしょうから」

「安全を保証された教会内にあっても修練か。〝治(ち)に居て乱を忘れず〟とは殊勝なものだな」

「はぁ……そうとも言えますが……どうします?」

「どうもこうも……現時点では単なる疑いでしかないんだ。……そうだな……気の利いた者にその場を見張らせろ。まずは犯人……いや、この言い方は良くないな……実行者が彼女かどうかを確かめねばならん」

「は、承知しました」



・・・・・・・・・・



 斯(か)くいった次第で、斥候の中から適当な者を選んで三日ほど見張らせてみたのだが……案に相違してそれ以降、現場でクリスの姿を認める事は無かった。


 前世仕込みのスキルと持ち前の用心深さで監視に気付いたクリスが、練習の場所を転々と変えたためである。しかも念の入った事に、傷痕は【木魔法】でその都度(つど)治癒するという用心深さであった。こういう目的で【木魔法】を使用した者など嘗(かつ)ていなかったであろうが、クリスは使えるものは何であろうと使う主義である。なお、損傷の痕跡も残さずに治癒してのけた事には、ひょっとすると治癒や回復を得手(えて)とする【光魔法】が、そこはかとなく影響を及ぼしていたかもしれないが。


 ともあれ――



「尻尾(しっぽ)を掴ませませんね……」

「諦めたのか、飽きたのか。それとも……」

「我々の目を掻(か)い潜(くぐ)る術(すべ)を持っているのか……どうします?」

「……大規模な監視網を布(し)くかどうかという意味なら、これは一介の騎士長の判断には余る。一応上に上げてみるが……多分却下されるだろう。現状で本部に対する危険は認められない――としてな」

「はぁ……」

「ま、それでも修道会に一報を入れておくぐらいは、やっておいた方が良いだろう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。