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第三章 ハラルド枢機卿の困惑 4.就寝時間確保の訴え

「……まだあるのかね」

「はい。ただしこちらはそこまで無茶な話ではありません。一日の時間割の事です」

「時間割? ……あぁ、そういう事か」

「はい、そういう事です」



 参考までに王都総教会の一日の時間割を書き記しておくと、以下のようになる。


・午前三時  起床・朝課

・午前四時  賛課

・午前六時  一時課

・午前七時  朝食

・午前九時  三時課

・午前十一時 六時課

・正午    昼食

・午後三時  九時課

・午後六時  夕食

・午後七時  終課

・午後九時  晩課

・午後十時  就寝


 個々の日課の内容についてここでくだくだしく述べるのは差し控えるが、要するにクリスの言いたいのは、



「子供の身で午前三時起床は辛いだろうな……」

「睡眠不足は健全な成長に差し障ると申しておりましたわね、あの子は」

「この件もそっちへ関わるのか……」



 何でもかんでも「子供の成長」に託(かこつ)けているような気がしないでもないが、



「この件もアンベール修道士に確認したのかね?」



 この抜け目の無い修道女総管なら、とっくにそのくらいの事はしているだろう。



「一応は。若干専門を外れるので、確かな事は言えないそうですが……古来〝寝る子は育つ〟と云われてきた事を考えると、強(あなが)ち無関係とは言えないだろうとの事でした」

「ふぅむ……いや、そうだろうな……」



 話に聞いた限りでは、レック村はお世辞にも裕福とは言えない村であるらしい。

 灯りの燃料だって節約しなくてはならないだろうし、態々(わざわざ)火を灯(とも)してまで未明に起きて何かをする――という習慣は根付いていないだろう。夜更かしは無論、夜明け前に起き出すのも、或る意味で贅沢(ぜいたく)な行為なのだ。


 燃料を消費しての活動が、燃料代を上回る収益に結び付かなければ、こういう習慣が根付くわけが無い。仕事の内容が限られる僻(へき)地(ち)の寒村では、夜明けと共に起きて日暮れと共に寝るというサイクルが普通であったろう。だとすれば、今の修道院の時間割は、クリスにとっては馴染(なじ)みの無い苛酷なものと映るかもしれぬ。

 それに……



「以前からそういう声はあったのだよ――灯火の費(つい)えにも事欠く筈の平民の方が、子供の成長は良いのではないかと」

「そんなお話があったのですか……」

「実際には栄養失調だの何だのが絡んでくるから、そこまで簡単な話ではないのだがね」



 そういった要因を全て除外した上で比較してやると、睡眠時間という要因が浮かび上がってくるそうだが、それとてかなりあやふやな傾向であるらしい。

 其(そ)れかあらぬか、修道女総管であるミセス・ロッテにとっても、この話は初耳であったようだ。



「まぁ、飽くまでそういう傾向がある――というだけの話で、それも確かなものではなかったからね。あまり広まってはいないだろう」



 そう言って話を打ち切ったハラルド枢(すう)機(き)卿(けい)は、



「ともかく、クリスタル聖女候補生の日課については再考すべきだろう。未(いま)だ年(とし)端(は)もゆかない子供に、大人と同じ時間割を押し付けても駄目だろうからな」

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