第二章 異才の処遇 3.教導局
「それで面倒を押し付けられたんですか?」
教導局の長官室で、局の長たるグラント枢機卿を冷たい目で眺めているのは、金髪を短めに切り揃えた壮年の男。若い頃はさぞや美男子だったろうと思われる好男子だが、ラピスラズリのような青い瞳の奥には酷薄な光を宿している。
「仕方が無かろう。あの腹黒ハラルドのやつに、あぁも正論で捲し立てられたんではな」
「まぁ、正論と言えば確かに正論ですね」
「そうだろうが」
我が意を得たりというように勢い込んだグラント長官であったが、
「正論であろうとなかろうと、我々が面倒を背負い込む事に変わりは無いんですけどね」
――と、こっちも正論で斬り返されて凹む事になった。
「……ともかくだ、教導局として彼女の教育を受け持つと決まったからには、担当者は君という事になる」
「……私に面倒を押し付ける気ですね?」
「他に適任者はおらんだろうが。魔導研究部を抱えるアレックが適任のように思えるかもしれんが、あそこは学術研究部門だ。あんなところに放り込んでみろ。教育の対象ではなく、実験観察の対象として扱われるぞ? 頑是無い十歳の女児に、そんな心無い仕打ちをするというのか?」
半ば喧嘩腰――グラント長官のデフォルト設定である――で言い返されて、金髪の男も黙り込む。この場合、一理は長官の方にあるのだ。
「クリスとかいう少女の身柄は、とりあえず修道会の方で預かるそうだ。一応は聖女候補者という事で、新米聖女たちと一緒に面倒を見るつもりらしい」
「……まぁ、そうした方が無難でしょうね。男所帯の教導局では、十歳の少女の世話などできかねますし」
これが四~五歳の幼児とかなら、まだしも世話ができたかもしれない。しかし、そろそろ思春期も間近という少女の世話・指導など、教導局の男連中に務まるとは到底思えない。ならば聖女たちに任せるのが一番である。
ついでにそのまま聖女たちに、万事を丸投げできたら万々歳であったのだが。
「向こうだって子供の世話ばかりしているわけにはいかんからな。少しは手伝えという事なんだろう。その見返りに、魔術関連の指導を任せるという事なんだろうが」
「どうせ魔術の指導はこっちでやるしか無いんでしょう? 向こうに忖度する必要があったんですか?」
「聖女としての実践的な魔法だけなら、修道会の聖女たちにも教えられる。あそこには【光魔法】持ちの聖女だっているんだからな」
「それ以外の魔法はどうなんです? 特に【闇魔法】は?」
「聖女として必要の無い魔法など、修道会としては育てる必要を感じない――そう言いおった。例の如く柔やかに嗤ってな。……ヴラディクが納得すると思うか?」
「思いませんね。職域を自分勝手に拡大解釈してでも、ハラルド枢機卿の許へ押し掛けるでしょう。向こうはそれを待っているだけでいい」
「そういう事だ」
これで話は着いたとばかりに、グラント長官は椅子に深く座り直し、その背凭れに身体を預ける。
「司教エドワード、教導局教育関連部門の部門長として、聖女候補者クリスタルに対する基礎教育を行なうよう命じる」
「拝命します」




