第二章 異才の処遇 2.或る提案
「……光だけでなく闇・火・木の、計四属性持ちとなると……このまま光の魔術師として育てていいものか……」
「それ以前に、どの属性が本人に最も適しているのか、言い換えれば伸び代のある属性は何なのかが判らない」
「エンリー聖騎士の言に基づくなら、闇が最も適しているという可能性も……」
「そうだとしたら、尚更他所へ渡すわけにはいかん」
「【光魔法】持ちの聖女として育てるべきか、それとも魔導師として育てるべきか……」
「そもそも、聖女や魔導師として育つのに充分な魔力を持っているのか……」
「エミリオ巡察使の見立てでは、通常の聖女・魔術師として育てるだけなら、充分な見込みがあるそうだが」
「詳細な鑑定の結果を待つしか無いか?」
「いや……四属性を持つというのが事実なら、現時点での鑑定結果など参考にしかならん。今後の成長次第でどう転ぶか判らんからな」
ウンザリと頭を抱える枢機卿たちの中から、コホンという控えめな咳払いが聞こえた。一同が思わずそちらに目線を向けてみると、咳払いの主はハラルド枢機卿、修道会の長官をつとめる人物であった。
「老生が思うに、まずは彼女を担当する部署を決めるのが先ではないのかな? 今のままでは〝船頭多くして船山に上る〟で、意見が錯綜するばかりであろう」
それはそうだと頷く一同。さっさと責任者を決めてしまい、そこに全てを丸投げして、自分たちは高みの見物。時折余計な差し出口を挟む――というのが理想形なのは間違い無い。
「しかし……担当も何も、聖女候補者である以上は、修道会が受け持つのが規則ではないのか?」
怪訝そうに口を挟んだのはニクラウス枢機卿。聖騎士団の団長を務めており、クリスを引き取る可能性が低い立場という事で、第三者的な目で事態の推移を眺めていたようだ。
しかし、一見好々爺然とした――それが上辺だけなのは全員が知っている――ハラルド枢機卿は柔和な嗤い――〝笑い〟ではない――を浮かべると、どこか黒いものが混じったような好~い声で、
「いやいや。修道会も手を引くつもりは勿論無いが、将来的に魔導師として立つ可能性が捨てきれぬ以上、教導局にもお手伝いをお願いしたい」
「何だと!?」
いきなり迷惑な話を振られて当惑の声を上げているのは、その教導局を率いるグラント枢機卿である。他人事然と高見の見物を決め込んでいたところを、いきなりドラマの現場に引き摺り降ろされたのだから無理もない。
「おや? それほど意外な事だったかな? クリスタル嬢に魔術師としての素養、それも稀少な【闇魔法】の素養が備わっており、教導局が魔導研究部を擁している以上、無関係とは言えないと思うが?」
「むぅ……それは……」
「教導局は魔術師としての彼女を手放すつもりであると? 仮にそう決めたところで、あのヴラディク司祭長を納得させる事ができるとでも?」
「むぅぅ……」
「それが無理なら、いっそ最初からこの件に噛んでおいた方が、後々何かと都合が好いと思うが?」
「………………」
「何、そう難しく考える事は無い。我々修道会は、十歳の聖女候補者を指導した事など無いのでね。教育の専門家からの助言が欲しいのだよ」
「………………」
「エンリー聖騎士の報告に拠れば、クリスタル嬢の知識には些かならぬ偏りがあるそうだ。まぁ、僻地の寒村育ちでは、それも無理のない事なのかもしれんが……そうなると、どのみち基礎的な教育は必要だろう?」
「………………」
「使徒職としての教育と指導は修道会が受け持つ。教導局にはそれ以外の面を指導して戴きたい」
条理を尽くした正論で攻められると、グラント枢機卿も頷くしか無い。
「……承知した」
――斯くして会議は解散となった。




