第一章 エンリー小隊からの報告 3.少女クリスについての報告(その2)
「幸いにしてと言うか、不始末をしでかしたのは我々ではなく、グノア村教会の馬鹿どもだ。監督不行届の誹りは免れ得まいが……」
「うむ、早急に事態の収拾を図り、こちらの誠意というやつを見せねばな」
「レック村には何らかの形で補償すべきだろう」
そのタイミングでエンリー聖騎士が、
「その、補償の件ですが――」
ここが手札の切り時とばかりに、クリスに結ばされた諸契約の事を報告する。
彼女の交渉術の手並みには一同驚かされたようだが、それも或る意味ではクリスの才能を示すものに他ならない。
そして、肝心の契約内容については、
「……それでいいのではないかな?」
「うむ、概ね問題は無いように思える」
「強いて挙げるならば、デイル辺境伯への説明の件だろうが……」
「それはもう、こっちで引っ被るより仕方がないだろう」
「実際にどこまで収穫量が落ちるのかは判らんのだし」
「いや……エンリー聖騎士の見解に鑑みると……これは〝収穫量が若干落ちる事にする〟――という意味に取るべきではないのか?」
巡察局の長官であるパトリック枢機卿が指摘した可能性に、一同が思わず息を呑む。たかが十歳の子供が、言外にその要求を含ませたというのか。
そして――教会はそれを呑むしか無いと?
「……まぁ、減ると言っても常識的な範囲だろう」
「多分……な」
「どうせレック村には補償する必要があるんだ。辺境伯にも何らかの形で、配慮を示すべきだろう」
――というところに落ち着いた。
他には無いかと訊かれた――クリスの埒外っぷりに鑑みて、きっと他にも何かあると思われたらしい――ので、エンリー聖騎士は自分たちが不可解と思っている事を報告する事にした。一体何の事かと言うと、クリスの子供らしからぬ博才の件である。
だが……総教会上層部はその前に、別のところを問題視したようだ。
「苟も聖騎士団の団員が、聖女候補の少女を相手に、昼間から博奕に打ち興じて、挙げ句に財貨を巻き上げられたと言うのか!?」
エンリー聖騎士を前にして激昂しているのは、事務局を束ねるレイモンド枢機卿であった。例の、細かいところに気の付く御仁である。
「いえっ! 巻き上げられたのは小銭だけで、金貨は死守した……との事です!」
「自慢にならぬわ、戯け!」
〝金貨は死守した〟という言い回しから、〝金貨以外は死守できなかった〟のだろうと、正しく察しを付ける枢機卿たち。恐らくは、銀貨くらいまで巻き上げられたのだろう。
そして――枢機卿たちは別の事にも気付く。
恰も他人が巻き上げられたかのように言っているが……恐らくはエンリー聖騎士も巻き上げられた側なのだろう。そこで幾ら巻き上げられたのかは、追及しないのが教会の優しさというものである。人とは迷える子羊なのだ。……銀貨二枚? 何の事です?
――と、まぁ……例によってレイモンド枢機卿のせいで、あわや主題を外れたところで議論が紛糾しそうになったが、エンリー聖騎士が気にしたのはそこではない。彼が気にしたのは、クリスがどこで、そしてどこから、そういう知識を得たのかという点なのだが……これに答える術は誰一人として持ち合わせていない。つまり――問題として検証の俎上に上せられない。
ただし――
「……まぁあれだ。交渉で見せたという弁舌といい、従士たち相手の……その……博才といい、彼女には些か早熟なところがあるように思える。今後彼女と付き合っていく上で、エンリー聖騎士による指摘は有益なものだろう」
――というところに、話の落ちが付けられたようだ。




