第一章 エンリー小隊からの報告 2.少女クリスについての報告(その1)
少女クリス――改めクリスタル――の為人についての報告は、グノア村教会における「祝福の儀」から始まったのだが……
「遺憾ながら自分たちの隊は、その時には教会の外で警戒に当たっておりまして、事の次第を直接に目撃したわけではありません。なので、飽くまでリュモン騎士長から伺った話になりますが……」
そう言ってエンリー聖騎士が話したのは、ぐうの音も出ないまでにグノア村教会の司祭をやり込めたという顛末と、その時に彼女が同じ村の子供に事態の煽りを指示したようだという一件であった。
「ふむ……子供ながら中々の曲者のようだな……」
「詳細については、リュモン騎士長かエミリオ巡察使が帰還した時にお訊ね下さい」
「ふむ……解った。では次に、君たちから見た感想や、気付いた点について話してくれ」
「諒解しました。是非ともお話ししておくべき事があります」
そう言ってエンリー聖騎士が真っ先に報告したのは、帰路の戦闘で少女クリス――繰り返すが正式な名前はクリスタル――が子供離れした殺人の手際を見せた事と、その言動から察するところ、既に何度も賊の類を仕留めているらしい事であった。
エンリー聖騎士の主観では、これこそが最大の懸案事項であると思われたのだが……案に相違して本部の感覚では、それはそこまで重大な問題ではないらしい。
いや――十歳の子供がそこまでせねばならない境遇に置かれたのは痛ましい事だと考えているようだが……
「無辜の旅人を襲っているというならいざ知らず、自衛のために盗賊を撃退しているというのなら、これは責められるような事ではあるまい」
「はぁ……それは確かにそうですが……」
幼い聖女候補が聖騎士と協力して、民を苦しめていた賊を成敗した。どこに問題があると言うのだ。第一、聖騎士団自体がそういった任務のために存在しているのではないか。
そう言われてしまえばエンリー聖騎士としても、立場上それ以上の抗弁はしづらい。下手をすると自分の存在意義が問われそうではないか。彼にしても、〝聖女が聖騎士と協力して賊を成敗する〟事に異議を唱えているのではない。ただ、当の少女がまだ十歳というのが気に懸かるだけである。しかしこれとても、〝栴檀は双葉より芳し〟――と言われてしまえば何も言えない。
もやもやした感情を持て余し気味のエンリー聖騎士を尻目に、教会本部は別の視点からこの案件を眺めていた。
「どちらかと言うと、僻地の村がそこまで厳しい境遇に置かれている事の方を問題にすべきだろう」
「しかし……レック村界隈の警備となると、領主たるデイル辺境伯の専管事項になる。我々が口を出すのは筋違いだろう」
「【光魔法】を持っているからとは言え、早々に彼女を連れ去った事で、幾らか臍を曲げている可能性もあるしな」
「有為の人材――この場合はその候補者と言うべきかもしれんが――は領主だって欲しいからな。中っ腹を抱えているだろう事は間違い無い」
「まぁ、レック村には借りができたわけだ。巡回に事寄せて見廻りの頻度を上げるくらいはしてやれるだろう」
他にあるかと訊かれたエンリー聖騎士が、クリスが教会に不信感を抱いている節がある事を報告したのだが……こちらは大問題だと捉えられた。
「……それもこれも、万事はグノア村の連中のせいだ」
「うむ。彼奴らの罪は重いと言えるな」
「それで……クリスタル嬢は、聖女就任を嫌がるような素振りは?」
「いえ、それはありませんでした。ただ……」
「ただ――何だね」
「はぁ……これは私見でありますが、信仰とか信頼とかではなく、〝契約を交わした以上はそれに従う〟というような態度にも思えました」
「「「「「「「「「「ふむ……」」」」」」」」」」
エンリー聖騎士の見解に、複雑な表情を禁じ得ない教会上層部。
有能な、少なくとも幾つかの意味で規格外の人材が、雇用主たる教会に隔意を抱くというのは好ましくない。早急な関係改善を図りたいところだが、なまじ相手が子供なだけに、打算で丸め込む手が通じにくい。少なくとも不信感をどうにかしないと、洗脳……教育の効果にも影響しそうだ。




