少し長めの序章 15.王都への道中~聖女とは何か~【組織概略図あり】
自分たちの村には聖女どころか司祭・助祭すら来た事が無いが、聖女があちこちの村に出没しているという噂は聞いた事がある。してみると、「聖女」というのは危険な場所に行く事も多いのではないか?
「〝出没〟……」
「あ、いや……聖女と司教・司祭では、そもそもの役回りが違うからね」
「へぇ?」
[王都総教会 組織概略図]
少なくともこの国の教会組織においては、司教や司祭は「司教局」に所属する「聖職者」で、基本的に担当する教会や教区を離れる事は無い。教会の無い村などには、一応は助祭などが巡回する事になっているのだが……まぁ、レック村は僻地過ぎて、そのリストからも漏れていたようだ。
一方で「聖女」は、修道士や修道女と同じく「修道局」に所属する「信徒使徒職(単に使徒職とも)」で、特に治癒系などの魔法を身に着けた者を指す。教会から各地に派遣されて、非常時の救難や平時の医療・衛生指導・農業指導などに携わる事も多い。なお、男性は戦闘系や生産系のスキル取得を目指す事が多いため、この職に就くのはほぼ女性である。ちなみに、「聖女」に対して男性版の「聖者」というカテゴリーも一応はあるのだが、前述の理由でほぼ有名無実化している。
「へぇ……仕事の中身どころか、身分や所属からして違うんだ……」
「一般にはあまり知られてないけどね」
「レック村に聖職者が来なかったのは、多分だが『巡回教区』の指定から漏れていたんだろうな。……その実は面倒だから忘れたふりをして、意図的に外したんだろうが」
聖女がそういう危険な場所に行く時は、護衛として騎士団が随行するのだという。今回クリスの護衛が一個小隊だけだったのは、これがイレギュラーな任務である事、捕縛したグノア村教会関係者の護送に人手を取られた事、この街道筋はそこまで危険だと思われていなかった事――などが複合した結果らしい。
クリスを領都に帯同しなかった理由は(なぜか)説明されなかったが、時間がかかるのを嫌ったんだろうな――と、クリスなりに推察していた。正確な位置までは知らないが、確か領都――名前は知らない――は王都――こっちも名前は知らない――とは別方向にあった筈だ。
「そっかぁ……聖女様とか巡察使様の護衛っていう名目があれば、騎士団を動かす事もできるんだ」
「「「「「「………………」」」」」」
エンリー聖騎士の説明と、グノア村教会関係者捕縛の一件から、聖女や巡察使の派遣が騎士団動員の口実に使われる事もあるのだと察したらしい。
(「……思った以上に聡い子だね……」)
(「或る意味で厄介なんですが……それを口に出すところがまだ子供ですな」)
(「敢えて口に出したのかもしれないよ? どういうつもりかまでは判らないけど」)
「ま、胸クソ悪い教会のやつらがお縄になったんで、あたしとしては文句は無いけどさ」
「あの……グノア村教会は、言ってみれば特殊な例だからね? 教会全部があぁだなんて、誤解しないようにね?」
「ふ~ん? ……そうなんだ?」
(「……てんから信じてねぇって口調ですな」)
(「グノア村のやつらが余計な事をするから……罪状に追加してやろうかな……」)
(「碌でなしどもの方はともかく、この嬢ちゃんの態度は報告しておくべきでしょうな……〝殺し〟の手並みと併せて」)
どうにも問題含みの〝聖女候補〟に頭の痛いエンリー聖騎士であったが、僻地出身という事には利点もあったようだ。
・・・・・・・・・・
「……前から思ってたけどよ、その歳にしちゃ随分と野営に慣れてんな?」
「そりゃ、野良仕事に駆り出される事もあったからね。野良での飯の支度なんて、大体こんなもんだし」
粗食に文句を言わないどころか、下手をすると護衛の騎士や従士より、野営支度の手際が良い。先程の戦闘の技能は別にしても、或る意味で外廻りには向いた人材なのかもしれない――と、認識を新たにする一同であった。
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