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スタバではいつも座っていた窓際のカウンターが空いていたから、並んでそこに座った。
クラスの人気者の男子と並んで二人。
嬉しいとか、そういうのはなくただただ不安だった。
何を訊かれるのだろう。成瀬さんについてって何。
そんなことをごちゃごちゃ考えながらいつものようにわたしはフラペを買った。彼はコーヒーだった。
座るなり、佐久間湊が言う。
「んで。なんで見てたわけ本当のところは」
いきなり本題だった。この人はあまり気を回すとかしないらしい。
「みたかったからです」
わたしは後ろの髪を触って少しねじった。
「ふーん。この前も言ってたけど、なんか嘘くさいんだよな。俺の目、見て言ってみ?」
「え……」
目を見た。1秒で視線を逸らした。成瀬さんの目だって真っすぐ見れないのに、ろくにしらない男子の顔なんて見られるわけがなかった。
「あ、逸らした。つーか普通に考えて、よくないことじゃん?」
「はい」
「小川さんはそういう趣味? 見るのが好き、とか」
「ち、違います」
恥ずかしすぎたから、思わず答えてしまった。
その後で、苦い物が胸から上がってくるようだった。
「ほら、違うんじゃん。わかんないんだよな」
彼が一度コーヒーを飲む。早く逃げたい。とにかく早く逃げたい。
「なにがですか」
「あかりってさ、めっちゃ美人じゃん。明るいし、いつもニコニコしてるし」
「そうだと思います」
「だからさ、俺付き合えた時めっちゃ嬉しかったんだよ」
「……はい」
「わかんないんだよな。普段のあかりって怒ったところすら見たことない。ずっと笑顔で、俺がキスしたいって言ったらああやって応じてくれるじゃん? でも、それって、本当のあかりなのかって」
そこまで言って佐久間湊は照れたように頭をかいた。「ごめんなんか、俺きっしょいこといってるけど」
「別に」
「わかんないってのは、あの時あかりが、自分から見せたって言ったじゃん。なんていうか、開き直った感じ。別に趣味とかってんなら、それはそれって感じじゃん?」
「気持ち悪いと思わないんですか」
「うーん。さすがにどうかとは思う。でもまあ、これって俺らだけの話だし、別にそれであかりのことを嫌いになるわけでもないなぁ。小川さんのことも含めて、ぶっちゃけ今は別にそんなでもないかな」
「そう、なんですか」
気持ち悪くない。わたしは、そうなんだろうか。わからない。
「あかりって普段ならごめんね、相談するべきだったよねそういう感じで返ってくるのかと思ってた。前置き長かったけど、要するに、小川さんってあかりの何? 好きだった子ってどういう意味?」
「なに」
友だち、だった。でも違う。恋人。全く違う。
「幼馴染、です」
やっぱりそう答えるしかなかった。
「好きだったって言うのは?」
本当に佐久間湊は容赦なく踏み込んでくる。
わたしには知らないコミュニケーションの取り方だった。
きっと、これまでの人生であまり否定されたことがないんだろう。
明るい場所に引きずり出されたネズミみたいに、答えるしかなくなってしまう。
「わたしが、好きだったんです」
「へぇ、そうなんだ」
佐久間湊はあんまり驚かなかった。興味すらなさそうだった。
耳が熱かった。
恥ずかしかった。
イラストにいいねが1件もつかなかったときのような、まるで価値がないのだと無言のうちに言われたような、そんな感覚に似ていた。
無神経にわたしの心を吐き出させておいて、興味すらもたない。
わたしは彼があまり好きではない。
「別に女同士でも良いと思うけど。あかりは俺の彼女だからね」
彼は素直そうに歯を見せて笑って、コーヒーをもう一度飲んだ。
返してください。そんなこと、言えるはずなくてわたしは、ただ彼が飲むコーヒーを見つめた。
「てかさ、小川さん。あのV好きなんだ?」
「え?」
「雑誌の。さっき好きって言ってたじゃん。あれいいよな。付き合う前振られたらどうしようとか悩んでた時すっげえ勇気もらったわ。今も部活が辛いときとかめっちゃ聞くし」
「え、あ、うん。いいよね。わたしも好き。辛い時、聞くかも」
「だよな。え、辛い時ってどんなん?」
「えっと……ゲームで負けたときとか? 絵が上手く描けない時とか」
家が荒れてるときとか、成瀬さんがかまってくれない時とか。さすがに言わなかった。
「絵かくの!? すっげえじゃん。見せてよ」
「え……あ。うん、どうぞ」
素直にスマホの画面を見せてしまった。彼の勢いに押されていたのもあったし、単純に現実でまた推しの話ができてうれしかったんだと思う。
「うっま。えやば。これあのVっしょ? めっちゃうまいじゃん。小川さんさ、もっとクラスで自我出したほうが良いって。髪だってちゃんとすればめっちゃモテると思う。おすすめの美容院教えよっか?」
「うん。いや、うん。いい。大丈夫」
はしゃいだ佐久間湊の声がスタバに響いて、さっきまでの感情に焦りが上乗せされて、しどろもどろになる。
「えー。なんか普通に感動したわ。連絡先交換しとこうよ。クラスでもまた声かけるわ。あのVの話できるやつって貴重なんだよね。なんか普通に友だちになりたいわ」
「友だち」
友だち。
そういえば、昔もこういうことがあった気がする。その時の男の子は、彼ほどみんなから好かれる人物ではなかったような気がする。もう、あまり覚えてないけれど。
『お下がりの服をあげる』と成瀬さんからメッセージが来たのはそれから数日後で、その日はお昼過ぎに隣の家に行った。
チャイムを鳴らすと、成瀬さんの母が出て、ちょっとだけ怪訝そうな顔をされた。
前回来た時は会えなかったから、彼女の母に会うのはかなり久しぶりだった。
「あら、こはるちゃん。ずいぶんご無沙汰ねえ。ごめんね最近挨拶にも伺えなくて」
あまり歓迎されてないのはわたしでもわかる。
それは仕方のないことだと思う。
時折怒鳴り声が聞こえる家なんて、わたしだって隣にあったら嫌だ。
「はい。成瀬さん……あかりちゃんいますか」
「ああ、そう。あかりに会いに来たんだ。えっと、部屋にいるけど……あがる?」
「ママ」
階段から降りてくる音がして、成瀬さんの声がした。
「ああ、あかり」
「上がってもらって」
「まだ友だちだったんだねぇ」
何気なく成瀬さんの母がそう言った。成瀬さんは鼻を鳴らして答えた。
「何言ってるの。ずっと友だちだよ」
部屋のドアを閉めるなり、成瀬さんは振り返って微笑んだ。
「こはる。寂しかったでしょ。連絡なくて」
「うん」
「そっかそっか」
彼女が満足そうに微笑んで、前から軽くハグをした。柔軟剤系の香水の匂いがした。
「サイズ、変わってなさそう」
彼女が腰とお腹のあたりに手を触れた。
「あんまり、変わってないと思う」
「うん」と言って彼女が体を離す。
「服、脱いでね。着せてあげる。髪もちゃんとしてあげる」
彼女が鼻と鼻を合わせる距離でそう言った。
彼女はベッドに座り、わたしを見上げている。
言われるがままに、服を脱いだ。
下着だけになると彼女は足先から頭のてっぺんまで、ゆっくりと視線を送った。
「ほんと、かわらないね」
「恥ずかしい」
「どうして? 服が合うか見てるだけだよ」
そう言って彼女はわたしの髪に触れた。




