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成瀬さんからの連絡はあれから途絶えたまま、夏休みが始まった。
勉強でもしてみるかと思うけれど、集中もできない。代わりに絵でも描いてみようかと思えば、成瀬さんのトーク履歴を見てしまう。
あの日以来、わたしはまた一人に戻ってしまった。
寂しい。おかしなことだとはわかっているけれど、あの用具入れに入っている時だけはそれを感じなかった。
なんだか気分もすぐれないから家を出た。推しのVが表紙の雑誌も買いたいし。
駅ビルの中の大きな本屋にはよく来ていた。だから、雑誌とか漫画の新刊とかが並ぶタイミングもなんとなくわかってしまう。
狙い通り雑誌が並んでいて、周囲を見渡して雑誌を取り、表紙を開いた。
推しも活動歴が結構長いけど、いまだに人気でこうやって雑誌の表紙を飾っている。変わらないものがここにあるみたいで嬉しかった。
「あ」
と、隣から声がした。男の人の声だった。びくり、と露骨に反応してしまって、目だけでそっちを見た。
「あ」
わたしも声を上げた。
「よっす。小川さん」
佐久間湊だった。彼は、目を何度かぱちくりさせた、いつものようににっこりした。
この前のことがあったのに、普通に話しかけてくる、ある種の無神経さと陽気さがわたしには分からない。
「どうもです」
間の抜けた挨拶だな、と自分でも思う。すぐに雑誌を閉じたかった。
「あれ、小川さん、それ……」
彼が推しの名前を言った。現実でその響きを聞いたのは、本当に久しぶりだったと思う。
「知ってるの?」
「あ、うん。俺も好きだし」
「……そう、なんだ」
「うん。まあ……そうなんだよ」
気まずい。
「じゃあ……」
この辺で、と言おうとしたら、佐久間湊が先に言った。
「小川さんも好きなの?」
「す」
「す?」
「好きです」
「ああ、そっか。おんなじじゃん」
「はい」
「っていうか、なんで敬語。同じクラスじゃん」
「はい」
「どの辺が好きなの?」
「ひとりじゃないよって歌ってくれるところとか、声とかめっちゃすき」
「急にしゃべるじゃん」
「はい」
「急に黙るじゃん」
「えっと」
「っていうか、下のスタバ行かない?」
「えっと……」
佐久間湊の意図がわからない。わたしなんか誘ったって楽しくないだろうし、それに何より。
「佐久間さんは………成瀬さんの彼氏、なので、そういうのは、良くないと思います」
あかりが嫌がらないのかな。
そう思って、やっと口に出した言葉を彼はすぐに蹴散らした。
「そのあかりについて訊きたいんだよ。ここでおしゃべりしちゃ迷惑でしょ」
本屋の雑誌コーナー。
あたりは当然しんとしていて、さっきから隣のおじさんが白い目でこちらを見ている。
それに、と佐久間湊が付け足した。
「俺、小川さん全然タイプじゃないし」
彼はからりと笑った。
わたしは、そういう話題の対象になるということ自体にとても驚いた。




