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成瀬さんとは中学生になるまではよく喋っていた。
一緒に下校したり、お互いの家に行ったり、一緒に同じアニメを見たり、漫画をみたり、当時好きだったVシンガーの話をしたりもした。
別に何かあったわけじゃない。次第に彼女はどんどん別の友達を作って、知らないメイクの話をし始めて、彼氏ができて。
わたしはずっと、彼女が話しかけてくれるのを待っていた。
「こはる。本当に気持ち悪いね」
息ができないわたしにキスをしながら成瀬さんは言った。
次に呼び出されたのは六月のじめじめしたある日だった。
キスが終わった後の掃除用具入れの汗とか、涙とか、そういうのが混ざった匂い。
そこに成瀬さんの匂いが混ざって、それでどこかほっとしてしまう。
そんな自分は本当に気持ち悪いと思った。
「うん」
それでも、こうやってキスをされるたびわたしは嬉しいと思ってしまう。
「ぜんぜん髪型変わらないじゃん」
彼女がわたしの頭を撫でた。髪の毛一本一本をまさぐるように、指を通していく。
「結んであげよっか」
自分のヘアゴムを外して、わたしの後ろに立った。
それから、指で髪を梳いていく。
彼女の指の間から、髪がひらひらとこぼれた。
うなじに指が触れて、それから少し髪を引っ張られるのを感じる。
「一つ結びにしといたから」
後ろから彼女の手が、わたしの頬に触れた。
それから、白い指が降りてきて、わたしの鎖骨をゆっくり撫でた。
わたしの制服の胸元は、彼女とは違う、どうしたって貧相な骨が浮かび上がっている。
「成瀬さんは。佐久間くんのことが、好き」
わたしは尋ねた。
「そりゃそうだよ。大好き。ぜんぶ」
彼女のうっとりとしたような声が首にかかった。
「そう、なんだ」
「それでも、こはるはいいんだよね」
確かめるような成瀬さんの声がする。
「……うん」
「いいんだ」
成瀬さんが、後ろからわたしの頬をつねった。
「ぎゅってしてほしい」
「あかりって呼ぶならいいよ」
「あかり」
そう言った時の胸は、どうしてか分からないけれど、ちくりと痛かった。
「仕方ないなあ。ほんとこはるは昔と変わんないね」
成瀬さんが小学生の時と同じような、弾む声で言った。本当にきれいな声だった。
後ろからお腹に手を回されて、ゆるく抱きしめられる。
こうやって、ぎゅっとしてもらえるならわたしはそれでいい。
そう思えて、お腹に回された彼女の手に、わたしの手を重ねた。
翌日はやっぱり彼女からの連絡はなくて、普通に学校に行った。
LINEでしかつながってなくて、成瀬さんから個人的なメッセージが届くのも週一回あればいい方。
相変わらず彼女はクラスの中心にいる。佐久間湊と付き合っていることを隠すこともいつの間にかやめていて、わたしはそれを井戸の底から見上げている気分になる。
「おはよう。小川さん」
「おはようございます」
成瀬さんと交わした言葉は、今日はそれぐらい。
わたしは次の連絡が来るのを、ただ待っていた。




