エピローグ① 悪意と怨嗟
─── 霊子次元転移筐体《パラダイム・レイス・トランスファー・システム》管理室 ───
「っ!? はぁっ、はぁっ、はぁっ……。ぐ、ぐぅぅぅ……!?」
霊子次元転移筐体《パラダイム・レイス・トランスファー・システム》。
その中に入ることで神を専称する者たちは、自身の魂の一部を切り取り、他次元へと送り込むことが出来る。
もちろん、事前準備などは必要となるが、カリスの提案により完成した画期的なシステムである。
そして、分霊体を不適合者の手で殺されたカリスは、システムから開放され、力なくその場に倒れ込む。
ジュ〜〜と、全身から蒸気が立ちこめ、火傷したようなとてつもない痛みと、疲労感。
更に一部とはいえ、自身の魂が消失したことによる、気怠さなどが一度に襲いかかった。
それでも──
「ふ、ふふ、ふふははははは! これが……、これが死か! なんたる体験、なんたる生の実感か!」
カリスたちは永遠とも言える命を手にしている。
それゆえに、怒りよりも殺されたことによる、生への喜びの方が勝っていた。
だが次第に、喜びの感情から怒りの感情へと変わっていく。それは一重に、自身を殺しものたちへの、ある種の逆恨みであった。
「星の守護者に、星の巫女。更にはあの女! よくも俺をコケにしてくれたな!」
巫女には俺の『消失』が無効化された。
あの女には、顔を蹴られた。
そして、守護者には殺された。
ふつふつと、そんな怒りが湧いてくる。
「もう一度、あの世界に──『それは止めてもらいたいな』」
システムに再接続しようとしたタイミングで、聞き慣れた声が聞こえてくる。
そして、その方向へと顔を向けてみれば──
「アーク、それにエムルまで……」
「やっ、ずいぶんと楽しんできたようだね」
「へぇ〜、死ぬとそうなるんだ。魂が傷ついて、少し弱体化もしているね。これは興味深い」
「なんの用だ!」
二人はまるで値踏みをするかの如く、俺を見る。
それだけでも、嫌気がさす。
「俺は、もう一度、あの世界に……。今度こそ、守護者たちを……」
「だから、それを止めてほしいんだよね」
「どういうことだ、アーク!」
「君、少しはしゃぎ過ぎ。想定以上に力ある守護者を殺しちゃったからね。それ以外の被害も含めれば、防衛戦並みだ。これ以上は運営にも支障をきたす」
「この間のことを考えれば、十分間引きとしては機能したよ」
「それで俺が、はいそうですかと、納得すると思っているのか!」
苦汁を飲まされた俺にとって、それは許せないことだ。ましてや俺は貴族の当主でもある。
そんなことは断じて──
──カリス
「っ!?」
「僕を怒らせたいのか?」
アークが発した言葉が、そのまま圧となりてカリスを押しつぶす。
ただ押しつぶしているだけじゃない。
直接魂に働きかけて、重圧をかけている。
常人であれば、それだけで命を落としているだろう。
「カリス。君が提案した分霊体は確かに素晴らしい。僕たちもそのシステムで遊びたいと思うくらいにはね」
「な、なら……」
「でもね、それで余計な覚醒を促されるのも、困ったものなんだよ。分かる? 今回の件で星の守護者は、力を抑えた僕らを殺し得る力まで、手にしたんだ」
(奴が、俺たちを?)
あり得ない。あれはただ、俺が消耗していたにすぎない。俺はまだ、万全の状態では負けていない!
「このまま行けば、いつの日か、彼と同じ領域に立つ可能性が高い」
「だが、守護者にはプロテクトが! 巫女もそうだろ!」
「分かってないね。一度施錠した封印であれば確かに強固だ。けどひとたび解かれれば、それを起点にどんどん緩んでしまう」
アークの言いたいことは分かる。
だがそれでも、俺たちが施したシステム上の封印が完全に解かれるとは、にわかには……。
そう考えていると、呆れた表情を浮かべながらエムルが話し始める。
「あのさぁ、カリス。その封印を施すシステムだって、私が作ったんだよ?」
「エムル、貴様! 始めっから封印が解け易い設計にしていたのか!!」
「いやいや、それはない。私でも、そんな悪意あることはしないさ。通常なら絶対に解かれないプロテクトを掛けたつもりさ。とはいえ、それがシステム上許された範囲であったことは認めるよ」
「なにせ、モノリスが自動的に翻訳して、クラスの制約として封印措置をしているんだから」
「それと、私のシステムに介入している者がいる。守護者たちが突然現れたのも、それが原因だろうね。いやはや、どこの誰なんだろうね♪」
「…………」
ギリッと、歯ぎしりしながら睨みつける。
そんな言葉をおいそれと信じられるほど、俺は貴様を信頼していない。
「まっ、そういう訳だから、当面は変なことをしないでもらえると助かるね。君のおかげで面白い遊びも思いついたし」
(ふざけるな!)
グググと、奴の圧に耐えながら、立ち上がる。
「言ってるだろ。俺がそれを──」
──ポトンッ
「ぐ、ぐぁあああああああ!?」
不意に、右腕が地面へと落ちる。
何をされたかまったく分からない。
だが気づけば、右腕が斬られていた。
「カリス。これは命令だ。まさかとは思うけど、6大貴族と言っても、たかが序列5位程度が、序列2位である僕に逆らうのかい?」
「ぐっ……」
ジッとアークを見つめる。
分かっている。まともに戦って勝てるほど、こいつは甘くない。
腸が煮えくり返る思いではあるが、貴族の世界は序列が全て。
「…………分かった」
そう答えれば、フッと、身体にのしかかっていた圧が消える。
「いやぁ、分かってくれて助かるよ。じきに終焉を迎えるとはいえ、あの地球はまだまだ楽しめるんだから。それまでは楽しまないと勿体ない」
ケロリと、アークは普段通りの口調へと戻る。
それが余計に俺の神経を逆撫でしてくる。
「さっ、これからが楽しみだ。分霊体を使って、色々な世界でこれまで出来なかった実験をしないとね」
「やれやれ……、その調整をするのは私なんだがね、アーク」
「いいじゃないか。折角面白い玩具が増えたんだからさ! まずは適当な守護者を使って、本当に覚醒するのか、確かめてみないと」
「なるほど、それは少し興味深い」
「でしょ?」
『あははは』と笑いながら二人は去っていく。
そして俺は、斬られた右腕を再生させ、そのまま強く床を殴る。
「クソがぁぁぁぁああああ!!」
このままでは終わらせない。
いつの日か、俺が序列1位へと成り上がってみせる。
そしてヴァーミリオン家当主として、必ず貴様らを殺す。
「精霊使いぃぃぃいい!!」
カリスは吠える。
その怨嗟が、いつの日か奴らの喉元へと喰らいつけると信じて。




