エピローグ② 死闘の果てと出発
(………………なんだか、両手が温かい。俺は今、どこにいる?)
意識が覚醒し、ゆっくりと目を開ける。
(知らない天井だ)
まさか、このセリフを言う日が来るとは思いもしなかった。
天井の色からして、どこかの病室だろうか。
(それにしても、腕が動かないな)
腕を動かそうとするが、一向に動かない。
正確には、何かが乗っかっている感じだ。
何なのかと、左右を見てみれば──
「なるほど、これは動けないわけだ」
スヤスヤと気持ちよさそうに、俺の手を握りながら寝ている藤宮さんと永久がいた。
(無事で良かった……)
そんな二人の寝顔を見て安堵する。
さて、あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。
そして、この状態からどうしようかと思っていると、ボフンッと、コノエが俺の胸の上に現れる。
──キュル!
「コノエ、おはよう」
──キュルル♪
状況を分かっているのか、コノエは二人を起こさないよう、小さな声で相槌をする。
「はぁ……、生きてるんだな……」
時間にして30分にも満たない激闘だった。
その僅かな時間の中で、あれほどの激闘を繰り広げたと思うと、よくもまぁ生き残れたなと感心する。
そういえば、倉瀬たちは大丈夫なのだろうか。
「んんぅ……」
「うにゃ……」
「ん?」
ゆっくりと二人が目を覚ます。
そしてお互いにその存在を視界に収める。
「「…………」」
「えぇ〜と、おはよう?」
「和人!!」
「かずくん!!」
「ぐはぁっ!?」
ガバッと、二人から抱きしめられる。
それも首を圧迫してくるもんだから、本当にキツイ。
「ぎっ、ギブッ……、そ、それは、キツイ」
「「あっ」」
必死に伝えれば、二人はスッと、俺から離れる。
「はぁ、死ぬかと思った……」
「あ、あははは……、ごめんね、かずくん。だって急に倒れたんだもん」
「でもよかった。ようやく目が覚めたんだね、和人」
「ったく……。ん、ようやく? 俺、どれくらい寝てたんだ?」
***
「丸3日、俺は寝てたのか……」
「うん。先生が言うには、身体に負荷をかけすぎたのと……」
「右腕の欠損状態から復元したことによる、反動じゃないのかって。ねぇ、どうやって復元したの? 再生持ちだなんて聞いてないよ?」
「それか……」
目を覚ましてから、ひとまず二人からある程度の状況を教えてもらった。
倉瀬たちは五体満足で無事だということ。
カリスの手により、4等星以上の守護者が200名以上死亡したという事実。
俺たちの学校に籍を置いていた生徒で、カリスに挑んだ者たちのうち、50名以上が死亡。更に腕や足を欠損した者は、その倍はいるということだった。
これが全て、たった一人の者が行ったと考えると恐ろしくなる。
イーリスからは、分霊体でも『ゼロ』と同格と聞かされていたが、天上という俺たちの敵が如何に強大であるかを思い知らされた。
そして永久からは、欠損から復帰出来た理由を問われ、どう説明するべきかと悩む。
(まぁ、俺たちはイーリスという存在と話した訳だし、話しても問題はないか……)
「話してもいいが、あまり言いふらすなよ」
「どういうこと、かずくん?」
(かず……くん?)
不意に藤宮さんから、下の名前、それも愛称で呼ばれてしまい、ピクンと反応する。
(え? いつの間に?)
「か〜ず〜と〜?」
「っ! わ、分かった、話すから……」
永久の目からハイライトが消える。背筋が凍るほどに恐ろしかったので、急いで二人に何があったのかを話すことにした。
***
「まっ、こんなところだ」
「かずくんも、私と同じ所に?」
「…………ま、まぁ、そうなるな」
「光の空間と、そこにいる変な奴、ねぇ。……和人、頭おかしくなった?」
「なるか! ……俺だって信じ難い。だが『纏』が強化され、右腕で復元されたのは、そいつのおかげだ」
「それに、あいつは色々と知っているようだった」
こっちの状況に、俺や藤宮さんの存在。
星の守護者に、星の巫女。
そして──
(裂け目の突破……)
──何、裂け目を突破できれば、いずれ会える
あいつはあの時、確かにそう言った。
これまで誰一人として、突破はおろか、中がどうなっているのか、確認すら出来ていないというのに。
だが、突破という言葉を使ったということは、何らかの手立てがあるということだ。
「どうも、俺と藤宮さんには、不適合者というだけじゃなく、特殊な役割があるっぽいんだよなぁ」
「藤宮、さん?」
「っ!?」
ビクンッと、身体が震える。
視線だけを藤宮さんへと向ければ、永久と同様、目からハイライトが消えていた。
「ど、どうした?」
「ねぇかずくん、私のこと──『あら、ちゃんと目を覚ましたようね』」
藤宮さんが何かを言おうとしたタイミングで、ガラガラと病室のドアが開き、ソフィアさんと笹倉さんが中へと入ってきた。
「ソフィアさん、それに笹倉さんも」
「ソフィアが目を覚ますと言っていたからね。話は倉瀬2等星や藤宮1等星たちから聞いてはいたが、君からも色々と話を聞きたくてね」
「なるほど……。んん? 藤宮さんが1等星? それに倉瀬も2等星?」
「君が知らないのも無理はない。分霊体とはいえ、天上を倒したんだ。それくらいはしないと示しがつかないだろ? 君も既に1等星として再登録されている」
「んなっ!?」
まさかすぎる言葉を笹倉さんから聞き、思考が停止する。
ついこの間、2等星になったばかりだというのに、もう限界点の1等星に上がってしまうとは、これいかに……。
「ふふっ、これが日本文化でかの有名な、『成り上がり物』というものなのね。初めて見たわ!」
「ソフィア、それは創作の話だ。……と、言いたいのだが、僅か数ヶ月で10等星から1等星へと上り詰めた者はいない。それも、不適合者ともなれば尚更」
「────」
「す、凄いよね。私たちこの間まで10等星だったのに……」
「和人が私と同じ等級ってのは、不服だけどね〜」
開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。
まるで浦島太郎になった気分を味わいながら、笹倉さんたちにも、さっき藤宮さんたちに話した内容を伝えることにした。
***
「ふむ、裂け目を突破……。確かにそう言ったんだね?」
「はい。間違いなく、そう言いました。それに、俺のことを『星の守護者』とも……」
「聞いたことのない名前ね。咲ちゃんみたいに、クラス名という訳でもないのでしょ?」
「そ、そうですね。それに、私には『星の子』とも言ってました」
「意味わかんないね、それ。というかあいつも和人のことを『星の守護者』って呼んでたよね」
「ふむ……、天上としても神薙1等星たちの存在はイレギュラーというわけだろうか」
きっと、全員の頭の上にクエスチョンマークが出ていることだろう。
それほどまでによく分からないんだ。
だけど、やるべきことだけは明確だ。
「気になることは多いですが、裂け目をどうにかできる可能性があると分かっただけ、儲けものだと思います」
「そうね。これまで何一つとして手がかりがなかったことを踏まえれば、かなり前進したと考える方が得策ね。それに、天上が神気取りのただの人間だというのも分かったのだから」
そう、あいつらは人間だった。
赤い血を流し、感情があり、そして醜い心を持っている。まさしく人間のソレだ。
「ソフィアの言う通りだな。これまで見えてこなかったものが、ようやく鮮明に見え始めてきたようだ」
「まさに、天上に反逆せし、不適合者だね」
「だいそれた意味ですね。俺はただの、不適合者で良いです」
「はははは! 兎も角、君たちが無事で本当によかった」
軽く笑ったかと思えば、スッとどこか重苦しい表情を浮かべる。
まるで、大人としての責任を背負ったような顔つきで、そのまま笹倉さんは言葉を続ける。
「……さっきは等級を上げないと示しがつかないと言ったが、本当は別の理由がある」
「先の天上との戦い……いや、蹂躙により、有望な守護者が多数死亡した。それに、我々が守るべき国民だってそうだ」
「行方不明者も含めれば、その数は7000人は下らないし、今後更に増える見込みだ」
「国民は今、否応なく不安に押しつぶされようとしている。だからこそ、少しでも安心させる必要があった」
「だから、俺たちを……」
「汚い大人で申し訳ない。君らを体の良いプロパガンダとして利用したのだから……」
笹倉さんは、スッと頭を下げる。
「すまなかった」
「……俺は気にしてないですよ。いずれは1等星になる予定だったんですから」
「そうですよ。私たちは守護者。戦えない人たちが安心して過ごせるよう、戦ってるんですから」
「まぁ、名前が売れればそれだけ英雄に近づくしね〜。むしろ私にとってはメリットしかないよ」
「ね? この子たちなら大丈夫って言ったでしょ?」
「……そのようだな」
苦笑いを浮かべながら、笹倉さんは元の表情へと戻る。なので今度は俺の方から気になったことを尋ねることにした。
「ところで、ソフィアさんはどうしてここに?」
「元々別件で来日するつもりだったの。それで向かってる最中に、天上が現れたと笹倉さんから聞いて、急いで飛んで来たの」
「まぁ途中からは案内人に運んでもらったけどね」
「「「飛んできた?」」」
三人で声を揃える。
向かってる最中と言っていたから、飛行機に乗っていたのは、なんとなく分かる。
だが、その後の飛んで来たとは?
「ふふっ、文字通りよ。魔力を足に収束させて、一気に放出する。それを断続的に続けることで、一時的に飛行機を超える速度での滑空が可能なの」
「これを応用すれば、水の上を滑りながら移動することも可能ね♪」
「「「────」」」
改めて、『ゼロ』と呼ばれる人たちの規格外に脱帽する。
普通、そんな方法思いつかないだろうに……。
「やっぱり『ゼロ』って、頭1つおかしいよね」
「ちょっと、分かるかも……」
「さてと、私たちはそろそろ行くわね」
「別件というやつですか?」
「そうね。まぁ、それはもう少し落ち着いてからになるだろうけどね」
「そうそう和人君。貴方はついに入り口に立った。これからは、より期待しているわ」
それを伝えて、ソフィアさんは病室を後にする。
そして笹倉さんも、『頑張ってくれ』と激を入れ、同様に病室を出ていった。
「はぁぁ、疲れたぁ〜」
「そ、そうだね」
「永久でも緊張するんだな」
「そりゃね。それより、私たちは退院の手続きしてくるから、和人は帰る準備しててよね」
「へいへい」
「すぐに戻ってくるからね!」
そう言って二人も病室を後にする。
なんというか、仲良くなったのか?
(まぁ、今はいいや……)
生きて帰ってこれた。
それだけで、今はいい。
それから俺はすぐに退院となり、三人で家へと帰っていった。
永久の依頼も終わった以上、俺たちの不思議な共同生活も終わりを迎えようとしていた。
***
「本当に帰るんだな。お前のことだから残るとか言いかねないのに」
翌日の朝。
永久はいきなり、『今日帰るね』と言い出したので、俺たちはタクシーが来るまでの時間で、別れの挨拶をしていた。
「まぁね。和人に会いに来たのもそうだけど、元々こっちに来たのは依頼目的だったわけだしね。終われば地元に戻るよ」
「そっか。少し、寂しくなるね」
「こっちに来てもいいんだよ?」
「悪いけど、断る。やることが出来たからな」
「やること?」
「あぁ」
昨日の夜、永久が寝ている時に藤宮さんと二人で話して決めたことがある。それを永久に伝えた。
「……海外に行こうと思うんだ。俺たち以外の不適合者。その人たちに会おうと思う」
恐らく不適合者と呼ばれるクラスには、なんらかの役割が存在している。それを確かめるためにも、俺はその人たちに会わないといけない。
そんな気がしてならなかった。
それにあいつは、今度は二人で来いと言っていた。
俺たちはまだ弱い。そのためにも、あいつに何としても会わなければならない。
「ふぅ〜ん。それも面白そうだね」
「来るか?」
「ううん。私はいいや」
「珍しいな。お前のことだから、進んで来ると思ったんだが」
「まぁね。でも今回のことで、まだまだ力不足なんだって分かったから、私は私で鍛えなおすよ」
「だから、次会う時にはもっと強くなってるからね!」
ある意味、永久らしい回答だった。
であれば、俺が返す言葉は決まってる。
「安心しろ。俺も、その時にはもっと強くなってやる。今度こそ、お前に勝つためにな」
「あははは、弱っちい和人には無理だよ。でもまぁ、期待しておくね♪」
「あぁ」
それからも三人で話していれば、タクシーがやってきた。連絡は取り合えるとはいえ、当面永久とは会えないだろう。
次の防衛戦開催日も、未だに分からないらしいからな。
「永久さん、またね」
「気をつけろよな、永久」
「うん、咲もじゃあね! それと、和人」
「ん?」
にっこりと笑みを浮かべながら、永久は俺に近づく。
そして、そのまま──
──チュッ
「っ!?!?」
「へひゃ!?」
「へへへ、世界で1番愛してるよ、和人♪ 咲には渡さないんだから! じゃあね〜〜」
「────」
「永久さん!!」
呆然としている中、永久はタクシーに乗り、帰っていく。
そして残されたのは、俺と──
「かずくん?」
「き、気にするな!」
「む・り♪」
(あいつは、本当に……)
ぐぬぬと拳を握りしめていれば、プンプンと怒っていた藤宮さんが、『ところで……』と、あることを尋ねてくる。
「いつになったら、呼んでくれるの?」
「……呼ぶって、何を?」
「……咲って、カリスと戦ってた時に、呼んでたよね?」
「え? あっ、いや、あれは……」
そう言われて、思い返してみれば、確かに呼んでいた気がする。
(いや待て、そういえば、防衛戦でも……)
無意識だったのだろう。
それなりに、『咲』と、呼んでいたことに気づく。
「もう、呼んでくれないの?」
「え? あぁ〜と、それは……」
「私はかずくんって呼んでるのに……」
「────」
そんな風に、上目遣いをされては、呼ばないという選択肢はなかった。
「え、えぇ〜と……、さ、咲」
「うん!これからもずっとよろしくね、かずくん♪」
「……あぁ、よろしく」
なんというか、改めて名前で呼ぶというのは、むず痒い感じだ。でも、悪くはないな。
「帰るか」
「うん!」
そうして俺たちは、家へと帰る。
永久との再会から始まった不思議な共同生活は終わりを迎えた。
次にやるべきことは決まった。
であればまっすぐ突き進もう。
そう考えながら咲と二人で、日常へと帰っていった。
***
(和人、強くなったなぁ……)
タクシーで岩手へと戻りながら考える。
ステータスでは依然として私の方が優位だ。
だけど、総合的にみれば、今の和人と私に、そこまでの差はないかもしれない。
特に、あの『纏』というスキル。
あれが私との実力差を埋めている。
このままでは本当に……。
「天使……ねぇ」
あのカリスとかいう天上。
分霊体という話だったけど、それにしては強すぎた。一体あれだけの力、どのようにして手にしたのだろうか。
もし私にも、あの力を手に出来たら、英雄への道がより鮮明となると思う。
(まっ、ないものねだりしないで、レベル上げ頑張るしかないかな)
「あっ、そういえば、いつレアダンジョンに行くか決めるの忘れてた。……まぁいいや。それは和人たちが戻ってきてから話し合お♪」
(和人……、私の愛しい愛しい未来の旦那様)
「私が英雄になったら、絶対に結婚しようね♪」
第3章:完
本作品を読んでいただきありがとうございます!
さて、既にお気づきかと思われますが、本作品はここまでで完結とさせてください
というのも、フォローや、視聴数からみてもこれ以上の変化は見込めないような気がして、果たしてこれ以上続ける意味があるのか、怪しくなってきたからです
既に、今の倍以上の話は作ってあるのですが、キリが良いのがここだったので、この作品はここまでにしようかなと思いました
力足らずで申し訳ありません……
別ジャンルですが、執筆中のものがありますので、いずれそちらを投稿して復活しようかなと思いますので、気長にお待ちください
それではまた!




