小さな偉業② 攻略
─── 鎌倉ダンジョン ボス部屋 ───
「はぁぁあああ!!」
オークの群れを斬り裂き、斬ったそばからコノエの炎で肉の内側を焼き尽くす。何度も戦ってきたことで気づいたが、どうやら内部からの炎が弱点らしい。
いや、そんなの生きてる奴ならみんな一緒か!
「いい加減飽きてきたんだよ!! さっさとボスを出しやがれ!」
ここに来るまで何十体のオークと戦ってきたと思ってやがる! 少しはバリエーションを増やしやがれ!
ザシュッと、オークを縦に斬りつければ、バキンッと、2本目の刀が折れる。
「っち。コノエ、カバー!」
コノエに注意を引きつけてもらいつつ、急いでバッグを置いてる所へと戻り、最後の刀を抜く。
そして後ろから、オークを斬りつける。
「ぐぁ、が……」
ドスンと、最後の一体が倒れ、灰へと変わる。
「はぁはぁはぁはぁ……、終わったか……」
まさかとは思いたくないが、ここもモンスターハウスってオチじゃないよな?
(いや、ようやくか……)
ズンズンと、赤い皮膚を纏ったオークが奥からやって来る。恐らく、あいつがここのボスだろう。
そして、それは正しいようで、ブゥンとウィンドウが出現する。
その内容はと言えば──
"BOSS:レッドオーク レベル20"
(レベル20。……確かオークがレベル12相当って話だったな。いや、そんなのこの際どうでもいいか)
和人は小さく笑みを浮かべる。
そう、レベル差なんて考えて仕方ない。
どうせ──
「どうせ、一度でも当たれば死ぬんだから」
やることはなにも変わらない。
手持ちのポーションを飲み、体力を回復させる。そして一度コノエたちを帰らせてから、再召喚する。
(体力は満タン、武器は最後の1本。気力は尽きかけ。けど……勝つ!)
「すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁ」
息を整え、集中力を極限まで研ぎ澄ませる。
泣いても笑っても、これが最後だ。
(見て、考えて、動く)
──キュルルルゥ
──チュンチュン!
コノエたちもやる気十分のようだ。
「行くぞ!」
チュンはレッドオークの射程外まで飛び立ち、和人とコノエは一斉に駆け出す。
名前が変わろうと、結局はオークであることに変わりはない。手持ちの武器が棍棒であることから、対処法も変わらないだろうと考える。
(初動を避け、硬直時に斬る!)
刀を構え、レッドオークの射程内へと侵入する。すると和人に反応したレッドオークが棍棒を持ち上げる。
そして──
(振り下ろし! みぎ…………)
──ぐがぁぁぁああああああああ!!
オークの何倍もの速度をもってして、絶命の一撃が和人へと振り下ろされた。
***
「なあ永久。お前、なんでそんなに英雄になりたいんだ? というか、まだ守護者でもないだろ」
10年前の第二次東京防衛戦。
その影響で親を喪った俺たちは、施設へと入れられることになった。そこには同じく親を喪った子供が大勢いた。
もう顔も名前も覚えていない。
だけど、永久のことだけは今でも覚えている。
「えぇ〜、だって英雄だよ? カッコいいし、皆から崇められるんだよ? 最高じゃん! それと、私は才能に溢れてるんだから絶対になるよ!」
「はいはい。でも俺は、それを英雄とは思えないな」
「なんで?」
「形だけの英雄に意味なんてないだろ。人知れず誰かを救い、偉業を成した者が、遠い未来で英雄って呼ばれるんだよ」
我ながら頭のおかしいことを言うもんだ。
だけど、俺はそれしか知らない。
知り得ない。
あの日、家族を喪い絶望していた俺の目の前で、大量の魔物に食われながらも、俺を救ってくれた名も知らない守護者。
俺にとって、彼こそが英雄だ。
命を賭して、俺という存在を救う偉業を成した。
だからこそ、無力な己を呪い続ける。
「そんなのカッコ悪いよ! いぃい? 英雄はね、強くて美しくて、どこまでも最強なの!」
「……それで、天上を倒せるのか?」
「倒す必要ある? 私は守って崇められる。そのために神様を倒せって言うのならやるけどね」
「傲慢だな」
「傲慢だよ! だって、和人みたいな無能とは違うから!」
思えば、俺と永久の道は決して交わることがないんだよな。考え方もそうだが、俺と永久とでは、見ている景色が違う。
俺は──
***
「ゴフッ、ゴフッ! こひゅー」
(意識を、失っていた、のか?)
身体中が痛い。
辛うじて骨は折れてないようだが、ところどころヒビが入ってるはずだ。
辺りを見れば、壁際まで吹き飛ばされたらしい。
(一体、何が……。そうだ、俺は)
意識が戻り、さっきの光景を思い出す。
レッドオークが振り下ろした棍棒の速度は、オークの比ではなかった。何倍もの速度をもってして、俺を殺そうとした。
けど、咄嗟にチュンの障壁が間に割り込み、それからコノエの炎が棍棒のほんの少しだけ位置をズラした。
そのおかげでなんとか回避することが出来た。
出来たまでは良かったが、その後の余波が凄まじく、俺はここまで……。
「こ、コノエは……」
ボワッと、奥の方で炎が見える。
それも一度じゃない。
二度、三度と炎が見える
(まさか、お前だけで?)
「ぐぅぅぅ……」
ぐぐぐと、起き上がろうとするが、足に力がまったく入らない。
──チュンチュン!!
「ち、チュン……。お前、何で……」
──チュン!
その言葉と共に、バサバサとコノエの方へと飛んでいく。チュンがいた所に視線を向ければ、何本ものポーションが置かれていた。
(ほんと、いい奴だよ、お前らは……)
契約したばっかりだというのに、コノエを危険に晒してでも、俺の元へポーションを運んで来てくれていたらしい。
「主人が、この様じゃ、カッコ、つかないよなぁ」
グイッと、ポーションを3本一気に飲み干す。
「ぐぅぅ!?」
ビキバギ、ボギと、治癒による治癒痛が襲う。
けど、この痛みがあるからこそ、俺はまだ生きているんだと実感する。
「すぅぅぅ、あ゛あ゛ああぁぁぁ!!」
自身を奮い立たせるか如く雄叫びを上げ、刀を手にしてコノエがいる戦場へと駆け出していった。
──キュルルルルル!
ボウゥッと、レッドオークの射程内に入らない立ち回りをしつつ、コノエは炎を浴びさせる。
が、レッドオークの表皮が分厚いのか、大したダメージにはならず、時間を稼ぐので精一杯だった。
けど、その時間こそが最も大切だった。
「ぐがあぁぁああ!!」
「お前の相手は、こっちだ!!!」
駆けつけてきた和人が、後ろから刀を振り下ろし、背中を縦に斬りつければ、僅かながらも血が流れる。
──キュッキュル!!
「不甲斐ない主人ですまない! 勝つぞ」
──キュルゥゥ!!
コノエと合流し、高いに覚悟を決める。
「グググるる」
(速度はパッとみ、オークの3倍はあった。モーション開始直後で判断しろ!)
ダッと、再度レッドオークの射程内へと侵入する。レッドオークも、再現と言わんばかりに棍棒を振り上げ、下ろす。
(左!)
振り上げの瞬間から軌道を詠み、回避する。だがその後の余波について防げる手段は、和人にはない。
──チュン!
ガガガガガンッと、チュンが張った障壁に、風圧と余波による抉れた地面の礫が無数に当たる。
オークの直接的な攻撃ではないため、余波による追加攻撃に限れば、完全に防ぎきることが可能だった。
「はぁぁあああ!!」
防ぎきったことを確認する間もなく、棍棒を足場に跳び上がる。絶対にチュンが守ると、そう信じての行動だった。
それから刀をレッドオークの両目に目がけて一閃。
「ぐがあぁああああ!!」
(浅い!)
──キュルゥ!!
最も柔らかい部分であろう両目を斬りつけ、怯んだ隙にコノエが炎で切り口を焼く。
例え傷が浅くとも、少しでも肉の内側に炎が入り込めば、それなりのダメージになると考えた。
「がぁぁぁああああ!?」
そしてそれは正しく、コノエの炎はレッドオークの両面を焼き、激しい激痛を味あわせることに成功する。
「たたみかけろ!」
コノエが作ったこの一瞬のチャンスを逃さない。
逃してはいけない。
すかさず、レッドオークの後ろに回り、次に柔らかいであろう左足のアキレス腱に対して、袈裟斬りと逆袈裟斬りを行い、その図体を地に伏せる。
更にコノエの炎で継続ダメを与え、反撃の暇を与えない。
だがレッドオークはお構いなしに、後ろに向けて棍棒を振り回す。
それを地面スレスレまでしゃがむことで回避し、今度はレッドオークの前に回り込み、左肩の腱を同じ要領で斬りつける。
(図体の利点も、その武器も、絶対に使わせねぇ!!)
だらんと、棍棒を持っていた左腕が力尽きるように、動かなくなる。
(ここだ!!)
地面に伏しているレッドオークの顔面が、ちょうど和人と同じ高さに位置していた。
そしてレッドオークの両面は、コノエの炎で焼かれたこともあり、多少なりとも脆くなっている。
「はぁあぁああああ!!!」
和人はそこに目がけて、刀を突き刺す。
グジュリと、肉を貫く音が聞こえたかと思えば、これまでにないほど、レッドオークが暴れ出す。
「がっ!!」
流石に体力が保たず、少し後方に吹き飛ばされるが、この程度なら問題ない。
それに──
「王手だ!」
──キュルルルルゥゥゥン!!
小さなチュンを足場に、レッドオークの頭上へと飛び上がったコノエが突き刺さった刀に目がけて炎を吐く。
炎に炙られた刀は熱せられ、刃を伝って内部へとその熱を浸透させていく。
「がああああああ!」
内部から焼かれる痛みに悶絶しながら、レッドオークは更に暴れる。
その結果バキンッと、刀を折るが、その目にはまだ、突き刺さった刃が残っていた。
そこに目がけて和人は走り出し、飛び上がりながら拳を突き出す。
「これで、終わりだぁぁぁ!」
ゴリッと、拳で折れた刃をより奥深くまで突き押すと、柔らかい部分、つまりは脳の奥にまで刃が到達した。
「ぐ、がぁ、ああ、あ、ぁぁ……」
掠れた断末魔と共に、レッドオークの身動きが止まる。さらさらと、その巨体が灰へと変わっていった。
つまりは絶命。
レッドオークは和人たちの前に敗北を期した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
それから訪れるは静寂。
まるで、さっきまでの攻防が嘘のように、静かな空間だ怪我広がっていた。
「か、勝ったぁぁぁぁ」
力ない言葉と共に、大の字になって倒れ込む。
ここまで死ぬかと思う戦いは、生まれて初めてだと、和人は心の中で感想を述べる。
「は、はは、あははははは!!」
そして次第に笑いが込み上げてくる。
流石に笑うしかない。
なぜなら、和人は不適合者。
本来、攻略することは不可能な人間なのだから。
オークの情報を知っていた。
称号の効果が式神にも適用された。
それらを差し引いたとしても、不適合者である和人が、Fランクダンジョン、それもデッドダンジョンを攻略した。
これを笑わず、いつ笑えばいい。
──キュルキュル
──チュンチュン
「あぁ、コノエ、チュン。お前らがいなかったら死んでたよ。ほんとにありがとう」
俺が気絶している間、必死にヘイトを自身に向けていたコノエ。俺のためにポーションを届けてくれていたチュン。
こいつらがいなければ、この勝利は叶わなかった。
「はぁぁぁぁ、やっっったぁぁぁぁ!!」
そう、この勝利は俺だけのものじゃない。
俺たち全員での勝利だ!!




