天上 VS 不適合者③ 天上 VS 不適合者 Ⅱ
「爆ぜて、虚晶葬刃」
瞬間、カリスを中心とした周囲数十mが、爆ぜた刃によって斬り刻まれる。
本来この秘剣は、一対多を想定している。
そのため、効果範囲は数百mはくだらないのだが、永久の絶妙な調整によって、絞ることに成功した。
ただ、斬り刻む対象を選ぶことは不可能。
なのでそこは、恋敵でもある咲を信じることにしたのだが、その賭けにはひとまず勝ったらしい。
(まぁ、それはそれで、ムカつくけどね)
咲が張った障壁は、永久の秘剣から見事和人たちを守り抜き、全身から血を噴き出しているカリスに向けて、和人たちは追撃を止めていなかった。
「「はぁぁあああ!!」」
「くはははは! ここまでの傷を受けたのは始めてだ!! あの女、いいスキルを持っているではないか!」
笑いながらカリスは倉瀬と拓真、二人の剣を素手で受け止め、そのまま蹴り飛ばす。
同時に和人が召喚した式神たちを暴風で吹き飛ばした。
「んん? 巫女の障壁が消えているな。時間経過か?」
ピンッと、最後に残った、和人が振るった刀を素手で捕まえる。
そのまま同じように蹴り飛ばそうとしたが、和人はすぐさま刀を手放し、徒手空拳にてカリスに迫る。
超接近戦。
万雷の力で動体視力を強化。更に、エンデの重力操作で自身の身体にかかる重力を半減して身体速度を上昇させてから、迎え撃つ。
武器がなくとも戦えるよう、氷室から鍛えてもらっていたからこそとれる選択だった。
「いいぞ! 一打一打に、俺を殺そうという気概を感じる」
「元々殺すつもりだからだ!!」
(近接もこなせるのか、こいつ。……でも、まだ対処は出来るな)
技術という面で見れば、そこまで高いとは言えなかった。そもそも『消失』という恐ろしい魔法があるんだ。体術がそこまで得意じゃないというのも頷ける。
そうして何度も拳や蹴りを互いに繰り広げる中、カリスが放った甘い右ストレートを避け、足払いする。
そうして体勢が崩れた土手っ腹へ、魔力を集中させた肘打ちを行う。
「ごふっ」
(接近では、俺の方がやや不利か?)
そう考えながらも、カリスは肘打ちした腕を掴み、埒外の力で和人を持ち上げて、勢いよく地面へと叩きつける。
「がはぁっ」
勢いよく叩きつけられたことで、和人の身体はリバウンドして宙に浮く。
すかさずカリスは、和人を蹴り飛ばそうとするが──
「聖なる障壁!」
ドンッと、カリスの全力の蹴りを持ってしても、咲が張った障壁を蹴り破ることができなかった。
「っち、中々に厄介だな。巫女の方から潰す方がいいか」
そうして視線を咲へと向け、移動しようとしたタイミングで永久が割り込んできた。
「み~~ちゃった。近接弱いんだね、あんた」
「っ!?」
右腕から発生させた暴風を両腕に纏い、永久の剣戟を捌いていく。だが永久がいうように、近接では永久に分があり、次々とカリスの身体に小さな生傷が生まれていく。
更にはさっきの爆ぜる刃を受けた傷から、ズキズキと、鈍い痛みが遅れてやって来た。
「痛いよね? その小さな刃たちはね、身体の中に残って、長く苦しめる効果があるんだよ?」
「ほぅ? どうりで久方ぶりの痛みが続いている訳だ。だが、この程度の痛みで俺の動きが鈍ると?」
「鈍らなくてもさ、思考は少しだけ削れるよね? だって、もう和人を認識してない」
「っ!?」
言われて気づく。
星の守護者の気配が消えていた。
(奴は何処に?)
次の瞬間、トンッと、胸の辺りから違和感が生まれる。
「な……に?」
ごふっと、口から血が流れる。
視線を違和感のある胸辺りに移してみれば、俺の身体から刃が突き出ていた。
正確には、後ろから突き刺されていたというのが正しい。
(バカな。後ろには、誰も……)
そして、突き刺した張本人が誰かいえば──
纏:クロウ────幻想と現実の混沌
和人、ここで切り札を投入。
漆黒の和装を身に纏い、後ろから襲撃した。
クロウは幻惑系の式神。
対象の認識を少しの間狂わせることができる。
そして『纏』中における技、『幻想と現実の混沌』は、マジックでいうところのミスディレクションを更に強化したようなもの。
和人の存在を強く認知させたり、認知できなくすることを可能とする。
(これは、精霊装!? 奴と同じスキル。やはり星の守護者とは……)
後ろにいる和人に向けて、腕を勢いよく振るおうとするが、和人の存在が認知できなくなり、振った腕は空振りで終わる。
同時に、蹴り飛ばされた倉瀬と拓真が帰還。
『消失』が防がれる現状。カリスは回避を選ぶが、不意に和人の存在を強く感じ取ってしまい、その足が止まる。
その間に、カリスを逃さぬよう足を潰すため、倉瀬がカリスの足を斬りつける。
「このまま抑えつけるぞ!」
すかさず拓真は、カリスの足元からを鎖刃作り出し拘束。更には地面を液状化させてから固定化することで、完全に足を止めさせる。
(しまっ、守護者に意識が……)
続けて永久が輝きしは星の剣を発動。力の限りカリスを薙ぎ払う。
「ぐぅぅぅっ!?」
「どうした? 余裕が消えてきたな」
「貴様!」
ジュゥーと、全身に焼けどを負いながらも、カリスは目の前にいる和人に向けて『消失』を発動させる。
が、スゥゥッと、和人の存在が再度消え、不発で終わる。
次に和人の存在を認知したころには、カリスの6枚ある翼のうち1枚が、斬り落とされていた。
「ぎゃぁぁああああ」
「咲ちゃん、今だ!!」
「はい!」
更に追い打ちをかけるべく、咲が紅蓮の大蛇を放てば、残り5枚のうち、2枚の翼を燃やし尽くす。
「あ、がっ……」
「和人が作ったチャンスを無駄にするな!」
「ラストチャンスだと思って行くぞ!」
「はい!」
「だね!」
全員が一斉に動き出す。
『纏』発動から30秒経過。
『纏』解除まで、残り時間90秒。
当初の予定通り、『対応しきる前に、殺しきる』を遂行すべく、全霊を込めた攻防が始まった。
***
─── 守護者協会 関東支部 ───
「まだ部隊の編制は出来ないのか!!」
「至急手配をしています! ですが先ほどの攻撃で、集結していた3等星以上の守護者たちの大半が戦闘不能で……」
「こうしている間も、柊1等星を筆頭に、たった5人だけで天上と戦っているんだぞ!」
葉隠7等星たちが報告してくれたおかげで、初動こそ救援を送れたが、それ以降が絶望的だった。
大月1等星たちの敗北に、集結していた200名以上の守護者部隊が一瞬で壊滅した。
(山口3等星たちからの報告では、『ゼロ』と同格だと言う。このまま素直に勝てるとは到底思えない)
「ソフィアが乗ってる飛行機は?」
「報告では、急な天候悪化で出発に遅れが発生したようで、こちらへ来るにはまだ……」
「機長に、案内人がスキルの有効範囲に入り次第迎えに行くと連絡を入れてくれ」
案内人は、距離とマーキング数に制約はあれど、マーキングをしている所であれば、自在に自身を含めた人間を転移させることができる。
そして『ゼロ』には有事の際を考慮し、マーキングが施されている。
だがそれ以外の場合、正確な位置と魔力を知っていなければ、まともに転移が出来ないデメリットが存在する。
「等級が低くてもいい。少しでも戦える守護者たちに連絡を入れるんだ!! 場所が離れてる者たちには、案内人が迎えに行くと!」
──はい!
それから無線の回線を、飛行機に乗って、こちらへ向かっているソフィアへと繋げる。現在ソフィアは、こちらとリアルタイムで状況が知れるよう、機首で待機してもらっているからだ。
『ソフィア、聞こえていたな?』
『えぇ。観測できる未来では、12分後に案内人のスキル有効範囲内へと入れる』
(12分……)
あまりにも、短くも長い時間だった。
『他には?』
『未来がいくつも分岐していて、正確には……。だけど、和人君たちの頑張りが命運を分けるのは確かね』
『そうか』
『辛いようだけど、我慢して頂戴。それと、12分もかけるつもりはない』
『何?』
『案内人に伝えておいて、10分……、いえ8分で有効範囲に入ってみせると』
─── カリス戦域 ───
─── 『纏』解除まで、残り30秒 ───
「グランド・ダッシャー!」
咲が魔法を唱えると、カリスの足元の地面が砕かれ、大地すら破壊する爆発的なエネルギーがカリスへと襲い掛かる。
「はははは、まさか、ここまで追いつめられるとはな!」
不測の事態が続き、想像以上の傷を受けたカリスではあったが、元の余裕を取り戻す。残り3枚の翼を羽ばたかせ、咲の魔法攻撃を回避する。
だが本人すら気づいていないことだったが、とうとうカリスは、空へと逃げる選択を取っていた。
それを見た永久と倉瀬は、輝きしは星の剣と、グランシャリオで追撃を入れる。
カリスは左腕を前に出し、『消失』を発動。
そのまま二人の攻撃を消し去る。
そして──
「貴様が後ろにいることくらい、もう分かっているぞ、星の守護者!!」
すぐさま後ろを振り向き、暴風を纏った右手で貫き手を放つ。
カリスは空中にいるが、和人は式神使い。
式神に乗れば空を飛ぶことは、お手の物。
例え存在が認識できなくとも、確実に不意打ちを仕掛けてくると、カリスは詠んでいた。
そしてその予想は正しく、グジュリと、肉を貫く感触があったことで、カリスはニヤリを微笑む。
が──
「貴様……」
「ごふっ……。和人、だと……、思ったか?」
式神に乗り、後ろから挟撃をしかけた者は、和人ではなく拓真だった。
これまでのカリスの行動から、二人はある推測を立てた。
『消失』は左腕。
『暴風』は右腕。
それぞれ片方でしか発動していなかった。
であれば、片方を潰せば戦局は傾く。
そう考えた二人は、ある作戦を実行した。
「肉を、斬らせて……骨を断つ、ってな!」
グッと、拓真は自身の身体を貫いてる右腕を掴む。そして錬成で、自身の血を利用して固定する。
「くっ、離せ!」
「嫌だね! 俺らを舐めたツケ、払ってもらうぞ!」
「っ、上か!?」
上空から飛来するは、式神使い、和人。
(拓真が作ったチャンス。無駄にはしない!)
『纏』解除まで残り15秒。
咄嗟にカリスは『消失』を発動するが──
(しまっ、巫女の障壁……)
痛恨の判断ミスを犯す。
カリスはここで、もっとも信頼する『消失』を使用してしまった。
発動した『消失』は、完璧なタイミングで発動した、咲の聖なる障壁にて防がれる結果となった。
そして──
「はぁあああああ!!」
ザシュッと、和人渾身の一刀がカリスの右腕を斬り落とす。
「星の……、守護者、がぁぁ!!」
「永久、咲ぃぃぃ!」
意識を失ってガルダから落ち、転落する拓真を救出しながら、叫ぶ。
カリスの周囲に、半透明の虚空の刃が出現する。
同時に、地上からは光の剣が召喚されていた。
現在、『消失』はインターバル中。
腕を斬られた痛みから判断が鈍る。
ゆえに、カリスに防ぐ手立て無し。
「空中なら被害はないね。爆ぜて、虚晶葬刃!!」
「貫いて、救済と断罪の剣閃!!」
「俺もいるぞ! グランシャリオ!!」
「────────」
右腕を斬り落とされ、『消失』すら使えないカリスは、そのまま三人の最大火力を防ぐことが出来ず、直撃を受けることになった。
***
「拓真!」
「意識を失ってるだけだ。翡翠、回復を頼む!」
──!!
再度ガルダを召喚し、拓真を乗せてこの場から離れさせる。流石に意識がない拓真を、この場には居させられない。
「和人、あいつは? 魔力が感知できないんだけど」
「分からない。『纏』も切れた。これで終わってほしいんだがな」
「咲ちゃんたちは、魔力は大丈夫なのか?」
「私は、残り1割程度です。ようやく『心意の階位』の魔法を放っても、魔力が切れることはなくなったので。一応、星月霊杖で魔力は回復出来るけど、それでも2割かな」
「私も似た感じ。輝きしは星の剣の連発もそうだけど、短時間に虚晶葬刃を2発も撃ってるからね」
「なら……、まだ魔力に余裕があるのは、俺と和人だけか。まったく、力不足にもほどがある」
「倉瀬だってよくやってるだろ。兎に角、周囲を警戒して、奴の生死を確かめるしかない」
空中にいたあいつが、地面に落ちてこない以上、まだ空中にいるのだろうか。
索敵に長けた式神たちを召喚し、周囲を警戒する。更にチュンやシフォンといった防御系の式神たちも合わせて召喚する。
奴の右腕を斬り落とし、かなりの傷を負わせたことで、僅かばかりの余裕が生まれている。
今なら十分、式神たちでも対応できる踏んでいた。
そうして周囲を警戒しながらいると、『もう終わったのか?』と、聞き慣れない声が聞こえてきた。
振り向けば、数名の守護者たちがやってきてた。
「今更救援? 遅くない?」
「あなたたちは?」
「狭間2等星だ。こっちは弥七郎2等星と、佐々木4等星。それと遅くなって悪いな。俺ら新潟で活動してたからよ」
「案内人にここまで運んで貰ったんです」
「笹倉さんから伝言。あと数分で救援が来るって話だ」
救援が来ると聞いて、ドッと緊張が解れる感覚があった。それは藤宮さんたちも同じで、安堵の表情を浮かべていた。
「助かります」
「現状を伝えておくと、天上にかなりの深手を与えたと思う。けど、姿が見えなくてな……」
倉瀬がそう説明すれば、三人の目つきが変わる。
すると佐々木さんが、『なら、私のスキルで探しますね』とつぶやく。
「クラス『鷹の目』の力、お見せましょう」
(鷹の目……、山口さんと同じクラスか)
「それは助かるな」
「ねぇねぇ、マジックポーション持ってない? 私と咲の魔力、残り的に少し厳しくてさ」
「悪い。何分急いでたから、そこまでは……」
「ぶぅ〜〜」
「仕方ないよ、永久さん。来てくれただけでも助かるんだから」
そんな軽口を叩きながらも、永久は周囲を警戒する。まだ終わっていないと、直感的に理解しているんだ。
──クルゥ!?
「リリス?」
どうやらリリスが何かに反応したらしい。それと同時に、佐々木さんも『見つけました!』と叫ぶ。
「距離300m。5時方向。かなりのダメージを負ってるようですね。聞いてた通り、本当に翼がある」
「っ、そいつだ!」
リリスはその方向だと、コクリコクリと頷く。
「ずいぶんと、遠くにいたね」
「逃げたっつう訳か? はっ、天上様もみっともないな」
「万全の俺らが前に出る。お前らは少し後方にいて、少しでも回復してくれ」
「分かった」
「えぇ〜。まぁしゃあないか」
永久も渋々了承する。
このまま逃がすわけにはいかない。
方針を固め、行動に移す。
その時──
「待ってください! 奴が、消えた」
──っ!?
それを聞き、ザッと、円陣を組む。
「チュン、周囲に障壁。スイ、俺らの周りに水のドームを」
式神にそう指示をして、迎撃体制を整える。
「藤宮さん、俺の傍を離れるな」
「うん」
「和人、私には?」
「お前は、今のままでも──、永久っ!!」
「へ?」
「驚いた。よく俺の存在を感知したな。星の守護者」
チュンの障壁は破壊されていない。
スイの水のドームだって、どこも突破された形跡すらない。
にも関わらず、全身血だらけのカリスが既に水のドーム内にいて、永久を自身の射程内に収めていた。
「まずは貴様からだ、女」
(やば、油断とかしてなかったのに、なんで目の前に……)
奴が左手をかざす。
『消失』を発動するのが分かった。
だけど、全員が意表を突かれたことで、何もかもが間に合わない。
永久の脳裏に浮かぶは──
(死んじゃう。まだ和人のお嫁さんにもなれてないのに……)
時がゆっくりと動く中、そんな無念が湧き上がる。だけど、次第に私の身体が横へとズレていく。
いや違う。
押し飛ばされた?
(え? かず……、と?)
私の視界に入って来たのは、私を庇うかのように、右腕を突きだして、私を押し飛ばした和人の姿。
そして次の瞬間。
和人の右腕から右胸までが、一瞬で消失した。




