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天上の不適合者~クソクラスと言われた式神使いで世界を歪めた者たちへ反逆する~  作者: 風間悟
第3章:幼馴染と不適合者

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天上 VS 不適合者② 天上 VS 不適合者 Ⅰ

「はははは! さぁ、絶望しろ!!」


 迫り来る和人と永久に向けて、カリスは最初に大盾を持った学生たちにやってみせたように、スッと小さく、左の人差し指で宙をなぞった。



 固有魔法『消失』。

 発動後、発動範囲より外側に存在する、ありとあらゆる物質は、触れただけで消え去る。

 ※発動有効範囲は1m。



 全方位への展開の他に、消失自体に指向性を持たせれば、特定の位置に対してのみ発動することも可能。



 だがこの魔法は、卵で例えるなら、薄い殻のようなもの。それより内側にいる者は、消失の影響を受けることがない。



(ここだ!)


 カリスの動作から、消失の位置を特定。

 和人と永久は、初見殺しの技を回避する。



「ほぉ?」


「こっちだ、カリス! 光輪:嵐《らん》!!」



 消失は最大で、持続効果が1分ほどある。

 そして一度発動すると、次の発動までのインターバルとして、10秒を要する。



 倉瀬はその隙を突き、スキルにて、魔力で構成されたチャクラムが射出される。


 その数は延べ20本にも及び、一つ一つが規則正しい動きをしながら、カリスへと襲いかかる。



(分かっていたことだが、俺の『消失』に対して、対抗策を考えてきているな。だが……)



 それは、さっきまで戦っていた奴らが既にやっている。同じことの繰り返しほどつまらないものはない。


 迫り来るチャクラムに対して、カリスは右手の指を鳴らし、それを触媒として暴風を発生させる。



 それによりチャクラムを吹き飛ばすのだが、暴風の流れに逆らわず、逆に利用することで、拓真が錬成した鎖刃《チェーンブレイド》が内側へと侵入してきた。



「考えたな。…………っ!?」


 再度カリスが『消失』を展開しようとした瞬間、頭上から紅(・)蓮(・)を(・)纏(・)い(・)し(・)大(・)蛇(・)が襲いかかる。



 第Ⅷ階位魔法、『紅蓮の大蛇(アポカリプス・ナーガ)』。



 カリスが発生させた暴風は、竜巻のように渦をなしている。であれば、拓真の鎖刃《チェーンブレイド》と組み合わせることで、カリスを捉える檻になると咲は考えた。



(神薙君が言ってた。遊び半分の人ほど、動きが分かりやすいものはないって)



 それは正しい。

 カリスにとって、これはただの遊びでしかない。

 子供相手に大人が本気になることはない。

 それと同じだ。



「考えたな!」


 カリスは構わず、左腕をかかげ『消失』を発動。

 そのまま咲が放った紅蓮の大蛇(アポカリプス・ナーガ)に飲み込まれ、暴風は猛火の如く灼熱の牢獄と化した。



「永久!」

「分かってる! 和人もタイミング外さないで!」



「来い、『エンデ』!!」


 和人は、永久の依頼を手伝っていた期間で新たに契約したゴーレム型の式神、『エンデ』を召喚する。



「串刺し、行ってみよう!」


 そして永久は、剣拓解放のスキルで無数の剣を召喚し、灼熱の牢獄へと無数の剣を射出する。


 だが、ただ射出された訳でない。

 和人が召喚した『エンデ』。

 この式神の能力は、重力操作。



 依然、和人の式神の格は3等級。

 それでも、現状の和人のレベルであれば、4倍程度の重力を変動させることが可能。


 それにより、永久が射出した無数の剣は、通常の4倍の速度と、重力加速による威力上昇を以て、カリスへと襲う。



「斬り裂け!!」


 同時に和人は、万雷とコノエ、更にキリカの力を式神借力で借り受け、キリカの特性である『風刃』に炎と雷を纏わせた斬撃を放つ。



 和人たちが選択した格上への対応。

 それは──



(対応しきる前に、殺しきる!)




「おいおい、何(・)処(・)を(・)見(・)て(・)い(・)る(・)? 星の守護者」

「っ!?」


 咄嗟に全魔力を右腕に集中。

 突如隣に現れたカリスに殴られた衝撃で、和人は数百m先まで吹き飛ばされた。



「和人!? ……っ」


 カリスの拳を、咄嗟に召喚した絶氷剣(グラキエール)で受け止める。



(分かってたけど、絶氷剣(グラキエール)で凍結しないだなんて……)



「ほぉ? 貴様、さっきの奴らよりも強いな」

「そりゃそうでしょ。なんたって、未来の英雄なんだから!」


 ガキンガキンッと、カリスの拳を数回弾きながら、消失の射程外である、1mの距離を取ろうとする。


 だが、それを分かってるカリスは、むざむざと距離を離させる訳がない。


 トンッと、永久ですら反応できない速度で、右手を永久の胸に当てる。



「ヤバっ」

「まずは1人……、ん?」


「柊ぃぃぃ!!」


 右手に収束された魔力が解放される前に、拓真と倉瀬の二人がスキルによる攻撃を放つ。


 それらの攻撃がカリスへと直撃する直前で、カリスが発動した『消失』によって消え失せる。


 とはいえ、それは永久を助ける目的で放った攻撃。役割は十全に果たしていた。



「大丈夫か!」

「いやぁ、今のは危なかった。助かったよ、拓真さん、倉瀬さん」


「クソっ、どうやって咲ちゃんの攻撃を避けたんだ」



「貴様ら程度では分からんよ。なぁ、星の巫女」


 カリスが左手を前に突き出し『消失』を発動。


 遅れてカリスに襲いかかるのは、咲が放った第Ⅷ階位魔法、『紫滅雷吼炮《ジガジルグ・ディザスター》』。


 莫大な熱量を持つ紫電の砲撃が、再度カリスを飲み込んだ。



(どうやって私の攻撃を避けたのかは分からない。だけど間違いなく飲み込んだ。後はこのまま消失のインターバルが来るまで、私の砲撃で…………)



「なぁ。なぜどいつもこいつも、『消失』発動中の間、俺がその場から動けないと、勘違いするんだ?」



(うそ……、砲撃の中を、移(・)動(・)し(・)た(・)の(・)!?)



 紅蓮の大蛇(アポカリプス・ナーガ)も、紫滅雷吼炮《ジガジルグ・ディザスター》も、それ単独であれば、消失は可能。


 そのためカリスは、全周囲を『消失』で覆い、風魔法でその中を突き進んでいたにすぎなかった。


 『消失』という、圧倒的な性能を持っているからこそ出来る、唯一無二の戦法だった。



「まずは貴様から死ぬか? 星の巫女」


 魔の手が咲へと襲いかかる。



(神薙……君……)



 永久たちはまだ、カリスが砲撃の中にいると想定し、抜け出した際に、いつでも追撃出来るよう構えている。


 それもそのはず。咲が放った膨大な魔法により、魔力感知が機能していないからだ。


 結果三人は、既にカリスが咲の目の前まで接近していることに気づいていなかった。


 それもこれも、砲撃の中を突き進むという、埒外の戦法を取っていたとは、想像すらしていなかったのだから。



 そう、この場にいないた(・)だ(・)一(・)人(・)を(・)除(・)い(・)て(・)。



「咲ぃぃぃ!!」



──ゴキメキッ



「ぐぅぅ!?」


(重い!! さっきもそうだったが、この技、奴が使うものに似ているな)


 万雷による脚の強化と、コノエの炎をジェット噴射の要領で足元から放出。


 それにより得た圧倒的な推進力を以てして、和人はカリスの顔面を力の限り殴る。


 更にその一撃には、ヤカデとイズナの魔力操作による肉体強化の重ねがけに、万象の重量倍化。ダメ押しにエンデの重力操作すら重ねた。



「あああぁぁああ!!」



──ドゴンッ!!



 結果、瞬間的にではあるが、その一撃は『ゼロ』に迫るもので、そのままカリスは100mほど先まで殴り飛ばさることになった。



「神薙、君」

「無事か、咲!?」

「え!? あっ、う、うん!」

「そうか。良かっ……ごふっ」



 ぶしゃあっと、身体中から血が吹き出す。


 『纏』と違い、式神の一部の力を借り受ける『式神借力』。如何に小さな力でも、身一つで異なる力を複数同時に行使すれば、反動が来るのも当然の帰結。


 現状の和人では、リスクなく同時に行使出来るのは3体までだった。



「神薙君!? なんで血がっ!?」

「気にするな!」



(一度に大量の式神の力を借りると、こうなるのか)



 だが、そうでもしないと満足に戦うことすら出来ない。まったくもって理不尽だ。



「エンデ、重力展開。ドグモグラ、あの周囲を砂に変えろ」


──シィィィン!!

──!!



 エンデに指示をすると、カリスがいる周囲数十mに重力場が形成される。そして重力場の地面は砂地へと変化し、辺りの物質を飲み込んでいく。


「ダメ押しだ。『フワンテ』、奴の上空から氷柱を落とし続けてくれ」


──フルル!



 更に鳥型の式神『フワンテ』を召喚。そして上空へと高く飛び立てば、エンデの重力圏外から氷柱を落とす。


 その氷柱はエンデの重力場に捕まり、加速しながら、未だに動きのないカリスへと襲いかかる。



(これで少しは、時間稼ぎになるか?)



 そう考えていれば、『和人、咲!』と、永久たちがこっちへとやって来る。



「なんであいつがこっちにいる!」

「私の砲撃の中を、突き進んで来てたんです」


「なるほど。『消失』っつう圧倒的な性能があるから出来るやり方だな。失念してたな、くそっ」


「やっぱり、咲単独じゃ『消失』の突破はできそうにないね。私と同時併用でようやく上回れるって感じかぁ。となると……」


「俺たち三人で隙を作るしかないな。藤宮さんと永久は、その隙に乗じて火力を乗せるしかない」



「だね。倉瀬さん、剣って扱える?」

「それなりにだな。一応『魔刃』のクラスにも、近接用のスキルはあるから」


「じゃあ私の『サクヤ』を、拓真さんと倉瀬さんに貸すね。速度10倍補正が入るけど、2人はベテランだから大丈夫だよね♪」



「ったく、生意気なこと言いやがって」

「すばしっこい敵とは何度か戦った経験はある。付け焼き刃だとしても、やってやるさ」


 永久は『サクヤ』を2本召喚し、そのまま倉瀬と拓真に渡す。


 そして藤宮さんは、何か考え事をしているのか、小さく何かをつぶやいていた。



「消失の特性……、もしかしたら……」



「永久、お前は?」

「もちろん、私も前に出るよ。けど、咲の攻撃とも合わせないといけないから、完全な前衛は無理」


「お前、切り札が4本あるんだろ? 残りの2本は?」


 この場で俺たち以上に強いのはこいつだ。

 火力面で期待しているから、できれば相手に通用する手立てがあると助かる。



「3本目は、一対多を想定した武器でね。和人たちにも被害が出ちゃう。それと4本目は、今の私じゃ発動までにかなりの時間が必要なの。アレ相手には難しいかな」


 どれも通用しないと言わない辺り、かなりの性能があることが察せられる。


 なら──



「俺ら──「皆は遠慮しないで前に出て」」



 拓真たちも同じことを考えていたようだ。だけど、気にするなと伝える前に、藤宮さんが遮り、あることを告げる。



「私が皆(・)を(・)守(・)る(・)。だから永久さんは遠慮なく使って。それと……、何となくだけど、消失もどうにかなると思うの」


 その目は一つの覚悟をした目をしていた。

 まさか──



「永久さん。私にも倉瀬さんたちと同じ剣を貸して。まだ射程が短くて、遠距離で使うのは無理だから、少しでも素早く移動したいの」

「ちょっ、それ本気!?」


「うん」

「待ってくれ! それは……」


 スッと、人差し指で俺の口を塞ぐ。



「大丈夫だよ。私も守護者《ガーディアン》。覚悟は決めないと」

「…………」


「咲ちゃん、いいのか?」

「はい! それに神薙君なら、私がピンチになっても必ず助けてくれるから」


 そんな風に笑われたら、止めろなんて言えない。


「…………分かった。必ず守る」

「うん!」



「っ、どうやら作戦会議は終わりのようだぞ!」



 ドンッと、エンデの張った重力場が崩壊していく。同時に上空にいたフワンテは、暴風により掻き消されてしまった。


 そうして聞こえてくるのは、カリスの笑い声。



「そろそろ作戦会議は終わったか? いやはや、さっきの一撃は良かったぞ。まともに殴られたのは、1000年ぶりだ」



 ここまで、まだほんの数分の出来事。

 にも関わらず、俺たちに切れる手札はそれほど多くない。



「永久、頼むぞ!」

「まっかせて!! 咲、これ」

「ありがとう」


 永久が藤宮さんに剣を渡す。

 ダッと、永久を残した全員が走り出し、永久は魔力を練り始める。



「この剣出すの、久々だなぁ」



「虚空は刃となり、弔いしは剣の塚」





      第三秘剣(サード・オフ):虚晶葬刃(グラス・レクイエム)





「ほう、見ない技だな」


(これが永久の、3つ目の切り札……)



 カリスの頭上に現れるのは、無数の半透明の剣。

 剣拓解放とは違い、ただ射出しないところを見るに、そういう能力ではなさそうだ。



「どれ、ではまずは小手調べで……」


 パチンッと右手の指を鳴らして暴風を生み出す。


 そうして永久が生み出した剣へと襲い掛かるが、パキパキとヒビが入るだけで、完全に破壊されることはなかった。



──キィィィィィィィン!!!



(ん? 剣が、鳴(・)い(・)て(・)い(・)る(・)?)



「余所見をしてていいのか!」

「いいや? ちゃんと見ているさ」


 瞬時にカリスへと接近した三人は、同時にカリスに向けて斬りかかる。



(『消失』を恐れず来るとは……、何を考えている?)



 とはいえ、向こうから来るのであれば、それはそれでいい。


 興覚めではあるが、終いにしようと思い、『消失』を発動させる。



「死ね」


「死なせない!!」



(この距離ならいける! 私が守る!)



 杖を前に突き出しながら、とある魔法を告げる。

 この魔法に詠唱は必要としない。


 た(・)だ(・)願(・)う(・)。


 それこそがこの魔法の詠唱であり、これまでの私に持ちえなかった手札。


 敵を倒すだけじゃない。

 自分が守りたいと思う人たちを守る。

 そのために得た、新たな『心意の階位』に属する魔法。


 その名は──





        聖なる障壁《セイクリッド・ウォール》!!!





 その名とともに、眩い光の障壁が和人たちのすぐ目の前で咲き開き、そのまま『消失』へと接触する。


 本(・)来(・)であれば、障壁は消え去り、そのまま和人たちは死んでいたであろう。


 そう、本来であれば……。



「バカな!? なぜ『消(・)失(・)』が(・)効(・)か(・)な(・)い(・)!?」


「「「はぁぁぁぁあああ!」」」



 ザシュッと三人は、目の前の光景に放心していたカリスの腕や肩を斬りつける。


「っち」



(ようやくまともに入ったか! 牛頭鬼、馬頭鬼やれ!)


 すかさず式神を召喚し、拓真たちと一緒に追撃をかける。


 その間もカリスは、『消失』や暴風を発生させ攻撃してくるが、そのすべてが咲が張った障壁に阻まれ、和人たちに攻撃が届くことはなかった。



「目障りな力だな、星の巫女!!」



(私が守る。絶対に!!)



 『消失』は、触れたものを消し去るが、それにも許容量が存在する。

 消しきれない力とぶつかれば、その分だけ突破されるし、防ぐこともできる。


 攻撃面では、咲と永久、二人の攻撃を合わせないとその許容量を超えることは出来ない。


 だが、防御面では違う。

 聖なる障壁《セイクリッド・ウォール》はただの防御魔法ではない。誰かを守りたいという気持ちが強ければ強いほど、不浄の力を否定する。


 もちろん、それに見合うだけの魔力は消費するし、障壁を上回る破壊力があれば崩せる。


 が、力が抑えられている今のカリスでは、咲の障壁を突破できるだけの火力が不足していた。



──キィィィィイイイン!!

──パキンッ、パキパキ!!



 和人たちとの攻防を繰り広げることに煩わらしさを感じ、ギリッとカリスが歯ぎしりしていると、遂に永(・)久(・)の(・)秘(・)剣(・)が(・)発(・)動(・)す(・)る(・)。



「っ!? なんだ、これは……」



 その秘剣は脆く壊れやすい。

 外部から魔力を受ければ、それが起爆剤となって、内部に濃縮されていた力が外部へと一気に解放される。


 つまり永久の3本目の秘剣とは──



「爆ぜて、虚晶葬刃(グラス・レクイエム)」



 周囲を斬滅する爆(・)ぜ(・)る(・)刃(・)である。

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