天上 VS 不適合者① イーリス
なぜ青森にいたはずの和人がこの場にいるのか。
それはカリスが地球へと現界を果たす30分ほど前まで遡る。
─── カリス出現 30分前 ───
─── Sランクダンジョン 残響の間 ───
「Fuaaaaaaaa!!」
「このままたたみかけるぞ、和人!」
「あぁ! 拓真!」
「分かってる!」
敵ボスの周囲には既に拓真のマーカーが多数設置されている。それらを一斉に起動し、大魔法を発動する。
「終わりの絶氷!!」
パキンッと、ボスが氷晶へと封じられる。
喰らった身としては、恐ろしい魔法だ。
それを見た俺と倉瀬、比嘉さんが一斉に走り出し、それぞれの最大火力を乗せる。
相手はSランクボス。第Ⅷ階位の魔法といえど仕留めきるには火力が足りないからだ。
そして後方では、森山さんと山口さんが、藤宮さんと永久にバフをかける。
「いいよ!」
「やっちまえ!」
「紫滅雷吼炮!!」
「輝きしは星の剣!!」
「っ!?!?!?」
二人が放った、凄まじい破壊の一撃により、敵ボスは消失した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと終わったか」
「どんぐらい戦ってたよ」
「疲れたぁぁ」
ペタリとその場で座りながら、歓喜よりも疲労感によるぼやきが出る。
「1時間くらい? ここのボス、特別硬かったね〜」
「こんなのを、1等星たちは討伐してんのかよ。まだまだだな……」
平川ダンジョンへ入った俺たちは、そのままイリーガルダンジョンへと突入した。
道中は魔物は出ず、罠だけだったのだが、ボスが中々に硬い敵で、長期戦を強いられることになった。
それでも永久によれば、まだ優しい方だったらしく、AランクからSランクによる初見殺しこそが、このダンジョンの醍醐味と言っていた。
「これで、永久の依頼は達成だな」
「そうだね〜。いやぁ、中々に楽しかったよ。ねぇねぇ、この際だからさ、岩手の方に来ない? そうすればずっと一緒だよ?」
「断る」
「ぶ〜〜。いいじゃんか〜〜」
「永久さん。その時は私も行くからね?」
「咲は来なくていいよ!」
「はぁ……」
倉瀬たちの方を見てみれば、そんな俺たちのやり取りを他人事のように笑っていた。
こっちは他人事ではないというのに……。
「ははは! 和人お前、そういう星の下に生まれたのか?」
「煩い」
「まぁいいや。それより、和人たちは初のSランクダンジョンなんだからさ、報酬見なよ。きっと驚くよ」
「おっと、そうだったな」
ダンジョン攻略の醍醐味である、報酬確認。
それを皆で確認しようとした時──
"神薙和人"
"今すぐ、貴方たちの学び舎へと戻りなさい"
「………………は?」
「神薙君? どうした……の…………」
藤宮さんも、俺のウィンドウを見て固まる。
ぞろぞろと俺の元へと皆が来れば、藤宮さんと同様に固まる。
それもそのはず。本来表示されるはずのない内容がそこには書かれていたのだから。
そして俺は、これを知っている。
「お前、あの時の天上か!」
──!?!?
この場でそれを知ってるのは俺が直接伝えた倉瀬と、藤宮さんだけ。
それでも驚きは隠せないでいた。
「おい和人、お前が言ってたのはこれか!」
「あぁ、そうだ」
(1年後にまた会おうとか言っていたにも関わらず、一体どういうことだ?)
"その通り"
"1年後という約束だったけど、事情が変わった"
"貴方が通っている学び舎付近に、もうじきカリス──天上が現れる"
"急いで向かわないと、間に合わない"
「は?」
(天上……だと?)
そこにはあり得ない単語が表示されていて、余計に混乱する。
こいつの意図がまったく読めない。
「あぁ? こいつはどういうことだ」
「天上が来るってほんと? にわかには信じがたいんだけど」
拓真たちも疑惑の声をあげる。
"私もリスクを負って通信している"
"今は私を信じて"
"学び舎へと通じるゲートを開ける"
"そこを通ればすぐに目的の場所へと行ける"
次の瞬間、パァッと、光の門が俺たちの前に現れた。
(どういうことだ。こいつは味方なのか? だが、いきなりこれを信じろと言われても……)
何もかもが分からない。
だが、確かなのは──
「ふざけるな。いきなり現れて、天上が来るから、お前を信じろだと? どこにそんな根拠が!」
"なら、このまま貴方の平穏が消えてもいいの?"
「おまえ……」
「待って、神薙君!」
スッと、藤宮さんは俺の手を握る。
そして小さく笑みを見せ、俺の変わりに話しかける。
「本当に、来るの?」
"本当よ、星の巫女"
"一部とはいえ、覚醒した巫女にも会えたのは幸運"
「…………色々聞きたいことがあるけど、事情があるんだよね。でも私たちには、いきなりあなたの言葉を信じれるだけの判断材料がないの」
「何でもいい。信じれるものはないの?」
その問いに、天上は黙る。
少しの間、沈黙が続くと──
『確かに。貴女の言う通りね、星の巫女』
──っ!?
突然、ウィンドウから女性の声が聞こえてくる。
この声の持ち主が天上?
「貴女が、さっきまで話してた人?」
『そうよ。改めて、イーリスと言います』
「イーリス、さん」
『神薙和人。全てを信じろとは言いません。それでも、それでも今だけは、私のことを信じてほしい。もうこれ以上……、誰かが悲しむのは見たくないの』
「…………」
その声色からは、後悔や悲しみ、無念。そういった感情がこもっていた。
でも、分からない。
「……何で、俺に接触した」
『貴方だけなの。彼と同じ、真に星の守護者としての力に覚醒しうる人は』
「星の、守護者?」
『…………今は言えない。でもいつか、貴方はそこに至ると信じている。だからどうかお願い。貴方の世界を救って。そして──』
「そしていつか、無数に存在する世界を、天上の暴虐から解放してほしい。自由にしてあげて」
誰もいない神殿で一人、滅びた空を見上げながら、女性は願う。
幾星霜、イーリスは何度も世界が滅びていく様を、その目で見てきた。
何も出来ず、無力な自分を呪い続け、いつ奴らに捕捉されるのかと怯えながら、それでも観測を止めなかった。
それは一重に、いつかこの負の連鎖を壊す者が現れると信じて……。
「私は──」
『私は、ただ見ることしか出来ない。だから、どうか……』
「…………永久」
「何?」
「俺を殴れ」
「へ?」
「神薙君!?」
一旦頭をクリアにする必要があった。
そのためにも、永久に俺を殴るよう頼む。
そして、俺のことを理解している永久は『いいの?』と、確認する。
「あぁ、一思いにやれ。ぐはぁっ!?」
「「「─────」」」
「神薙君!?」
「「和人!?」」
「これでいい?」
即断即決とはこのこと。永久のやつ、やれとは言ったが、ノータイムで殴るとは……。
(まぁいい。ひとまず頭がスッキリしたし)
どうやら、何でもかんでも天上と決めつけ、色々頭が固くなっていたようだ。
先生から教わった大原則、『見て、考えて、動く』。それを怠っていたのだから。
「イーリスと言ったな」
『えぇ』
「本当に俺たちの学校に通じてるんだな?」
『そこは信じてとしか言えない』
「分かった。お前を信じる」
『…………感謝します』
ゆっくりと立ち上がり、手持ちのポーションなどを飲んで回復する。
すると皆も立ち上がり、同じくポーションを飲み始めた。
「和人、さっさと準備していくぞ」
「本当に来るってんなら、殺してやらねぇとな」
「50年分の怨みは怖いからね」
「天上殺したら、それこそ英雄だよね〜。それに、和人の夢が叶うわけなんだし」
「お前の動機だけはおかしいけどな。……でもま、ありがとな」
「頑張ろうね、神薙君!」
「あぁ」
『良い仲間ね。では私から、あなたたちに《情報》を渡します』
「情報って?」
『ここまで介入したのです。これからやって来る天上について、システムに介入したことで得た情報を、口頭で話しましょう』
ブゥンッと、ウィンドウに映像が映る。
そこには6枚の翼を持った人間が映っていた。
「こいつが……」
『名を、カリスと言います』
ついにこの目で捉えた天上の一人。
翼が生えていて、いかにも天使や神と名乗りそうな風格だった。
「ふぅ〜ん、神様というよりも、天使っぽいね」
「空を飛ばれるのは、面倒だな。現状、和人しか対応出来ないぞ」
『空を飛ぶことは、そうそうないと思います。彼らは私たちのことを、下等生物と呼んでいますから』
「舐めたもの言いだな」
『そうですね。そろそろ彼について話します。心して聞いてください』
それからイーリスはカリスという天上について語り出す。
固有魔法『消失』のこと。
得意魔法『暴風』のこと。
分霊体であることと、『ゼロ』と同格レベルの強さである可能性が高いこと。
『どのような手段で分霊体を創ったのかまでは分かりませんが、これが奴の情報です』
「消失、ねぇ……。私と咲の攻撃なら何とかなるかな?」
「どうだろう。やってみないと分からないかな」
「そっちは咲ちゃんたちに任せて、俺らはインターバルと、射程距離に注意だな」
「だな。式神たちも闇雲に出すのはまずそうだ」
「それもだけど、暴風もヤバくない? これ、私は戦闘に参加しないほうが良いかも」
「俺と森山もだな。対策手段が乏しい」
「だな。悪いが怪我人たちの救護と救援要請を頼む」
「そもそも『ゼロ』と同格って……、勝てんのか?」
「勝たないと意味がないんだ。死ぬ気でやるしかないだろ、倉瀬」
「まぁ、それもそうだな」
それから俺たちは、現状分かる範囲での情報から、作戦を立てていく。
『最後に、これを貴方たちへのクエストとして依頼します』
「依頼?」
『えぇ。私が持つリソースを少し削りますが、この反則ギリギリの行為に対して、然るべき報酬が必要であるべきでしょう』
ブゥンッと、俺たちの前にウィンドウが表示される。そこには──
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SSSランククエスト 『天上討伐戦』
神を専称する『カリス(分霊体)』を排除せよ
報酬1:経験値200万の獲得
報酬2:SSSランクアイテム『鳳凰の羽』を授与
報酬3:SSSランクアイテム『星核』を授与
※神薙和人のみ
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「はぁ!?」
「SSSランクなんて、初めて見たよ……」
「す、凄い……」
SSSランクというのも驚きだが、俺専用のアイテムというのが気になる。
『私が天上のシステムに介入してできる、ギリギリの報酬となります。きっと皆さんの役に立つはずです』
『それと神薙和人。貴方に贈るそのアイテムは、それ単独では使い物になりません。ですが、いつの日か役立つ日が来ます』
「……分かった。きっちり殺してくる」
「いやぁ、それっぽい雰囲気になってきたじゃん」
「うっし! んじゃま行くか!」
『ご武運を祈ります。…………っ、予測よりもずっと早い。急いで。どうやらカリスは既に現界を果たしています』
『そして既に、かなりの被害が出ているようです』
「そんな!?」
「悠長にしてる暇はねぇな。さっさと行くぞ、お前ら!」
「「「おう!」」」
「うん!」
「イーリスさん、行ってきます!」
「んじゃね〜」
そうして一人また一人と、光の門を通っていく。
「神薙君?」
「すまない。先に行っててくれ。すぐに行く」
「う、うん!」
藤宮さんにそう伝えて、最後に残ったのは俺一人。確認したいことがあったからだ。
『早く貴方も』
「イーリス。次に話せるのは、厄災後なのか?」
『…………分かりません。もしかしたらこれが最後になるかもしれません。ですが、私はいつでも貴方のことを見ています』
「そうか。なぁ、出現位置を上空に設定することは出来るか?」
『出来ますが……、どうする気で?』
「まぁ見てろよ。…………ありがとう、手を貸してくれて」
『礼には及びません。私は傍観しかできない、無力な存在。また、話せる日が来ることを祈ります』
「あぁ。行ってくる」
それだけ伝えて、俺も少し遅れて光の門を通っていく。
(待っていろ。天上)
『勝利を願っています、星の守護者』
「見ていますか、ゾフィー。貴方と同じ『星の守護者』が、神の喉元へとナイフを突き立てる。その最初の戦いが始まりましたよ」
─── そして現在 ───
「会いたかったぞ! 『星の守護者』!!」
「天上ぉぉぉおおおお!!」
ミシミシと、奴の腕が悲鳴をあげる。
上空からの完全な不意打ちだったにも関わらず、笑いながら受け止める奴の表情は、まだまだ余裕であることを告げていた。
「くははは、このまま貴様を……」
「余所見してていいのか?」
「何? っ!?」
──紫滅雷吼炮!!!!
──輝きしは星の剣!!
(俺と諸共だと!?)
突如として、二つの巨大な一撃が迫りくる。
アレらは流石に消失では消しきれない。
故にすぐさま回避を選択。
この場から離れよとした瞬間、頭上にいた奴が俺よりも先に、忽然とその姿が消えた。
更には足元にいた男すら消えていた。
「何!? しまっ!?」
その一瞬が命取りとなる。
消えた式神使いに気を取られた瞬間、二人の尋常ならざる一撃がカリスを飲み込んだ。
和人たちが消えた原理は簡単だ。
メキシコ跡地防衛戦で得たアイテム。双想のイヤリング。
その二つ目の効果である、同じ物を身に着けた者の近くへと瞬時に移動出来る能力。
それを使用したのだ。
そして大月1等星が消えたのは、カリスが和人に気を取られていた隙に、プランを召喚し、地中へと退避させていたからだ。
そうして和人は、双想のイヤリングを身に着けている、咲の所へと帰還を果たす。
「お前ら……」
「……来んのが、遅いのよ」
「葉隠ちゃん、鈴木君、大丈夫!?」
「…………想像以上に被害が大きいね。大月さんたちがやられてるだなんて」
永久たちもこの場へとやってきて、辺りの惨劇に言葉を喪う。
「浩子、比嘉、森山。打ち合わせ通り救護と救援要請を頼む!!」
「死ぬなよ、お前ら!!」
「山口、行く前にバフをかけておくぞ!」
「うん!!」
二人が身体能力のバフをかける。
これがどこまで効果あるかは分からないが、ないよりはマシだ。
「和人、気を抜くなよ」
「分かってる。もう誰も殺させやしない。やるぞ、拓真、倉瀬!」
「咲ちゃん、魔力は惜しむなよ?」
「分かってます! こんなことをして、絶対に赦さない!!」
「というか、今ので死んだら嬉しいんだけどなぁ〜」
「永久。それはフラグだぞ。…………ほれ見ろ」
砂煙が、暴風でかき消される。
その中心には、右腕に小さな傷が出来ている天上が立っていた。
(あの攻撃でその程度か)
「えぇ〜、全然ダメージ入ってないじゃん」
「魔力での防御かな? もっと魔力を練らないと」
「ははははは!!!!」
そうして聞こえてくるは、歓喜にも近い笑い声。
そしてそいつは、悠然と語りかける。
「一体どういうことだ? どうやってここに来れた! 貴様が遥か遠方にいたのは知っていたんだがな?」
「まぁいい。貴様がここにいる。それこそが重要だ。なぁ、『星の守護者』!!!」
(『星の守護者』。さっきも言っていたな。それにイーリスも……)
守護者という単語からして、何かを守護する役割を担っている? そして星という言葉がある以上、星の巫女と何らかの関係性があるとみるべきか。
(まぁ、今はそんなのどうでもいいか)
パリパリと、万雷の力を纏わせる。
そして後ろにいる傷だらけの二人に声をかける。
「葉隠、鈴木。後は俺たちに任せろ。お前らも救護に回っててくれ」
「絶対に勝つからね」
「気をつけなさい。……あいつの情報は?」
「もう知ってる」
「じゃあ、完膚なきまでにボコしなさい!」
「頼む! 仲間の、仇を……」
「うん!」
「あぁ!!」
バッと、負傷している大月1等星を連れて、二人も山口さんたちと一緒にこの場をは離れる。
そしてこの場に残った、俺を含めた五人が天上を睨む。
こんな惨状では、救援がいつ来れるかなんて分からない。であれば、俺たちだけでこいつを殺すつもりで行くしかない。
「良いぞ。巫女もいるなら好都合。2人まとめて絶望の海に沈めよう」
「来るがいい、『星の守護者』!」
──『カリス・シンセシズ・ヴァーミリオン』が、貴様たちを裁く!!
「やれるもんならやってみろ。俺たちが必ず、殺してやる」
「ついて来れるよね、和人」
「もちろんだ。……行くぞ、永久!」
武器を構え、永久とともに、駆け出す。
天上対守護者、その第2ラウンドが始まった。




