動き出す思惑と悪意⑤ 動き出す悪意
─── 第一宇宙 神の惑星:地球 ───
─── 終境戦記機構開発ラボ ───
ここは、今では唯一の娯楽ともいえる絶対機構、終境戦記機構の管理及び、拡張の全てを統括しているエムルの開発ラボ。
かの者たちは、宇宙の破滅から抜け出し、悠久の時を生きることに成功した。だがその代償として一つの問題に直面した。
それは、娯楽の消失。
娯楽がなければ、人は生きた心地をしない。無気力となる。
それを憂いた王は、一つの方策を取った。
そうして稀代の発明家であるエムルに要請を送り実現したのが、終境戦記機構である。
多元宇宙から、生物の死から生じる魂のエネルギーを抽出し、摂取する。それこそが究極の娯楽と成った。
だが、そのための調整やアップデートは、ほとんどエムルの手で行われているため、実質的な実権は、エムル一人が握っている。
とはいえ、運営自体はエムルではない者が担っており、様々な宇宙を管理する運営者たちは、日夜どのような絶望を与えるかなどで盛り上がっている。
「エムル」
そんな稀代の発明家に会うため、一人の男がラボへとやってきた。
「んん? なんだ、カリスか」
「俺が来て、何か問題が?」
「いやいや、そんなことは言ってない。ただ私が、お前のことが大嫌いなだけだ」
「ッチ、喧嘩を売ってるのか、エムル」
「さぁ? 殺りたいなら別に構わない。それはそれでいい体験になるし、退屈が紛れる」
俺もこいつが嫌いだ。
昔からそりが合わず、俺と同じ貴族出身でありながら、くだらないガラクタを創ることに熱中していた。
そんな奴が、なぜ王の目に止まる。
なぜそんな奴が、我々を生きながらえさせるためのシステムの開発が出来た。
そんな怒りがふつふつと湧いてくるが、王の寵愛を受けているこいつを八つ裂きにするなぞ出来ない。
グッと怒りを堪える。
「へぇ〜、我慢を覚えたんだ」
「黙れ、貴族のゴミめ」
「そのゴミのおかげで生きてるのに、笑えるね」
「…………貴様に、用があって来た」
これ以上こいつと話していると、本気で間違いを犯しそうになる。だからさっさと用件を済ませようと思った。
「用? それこそ珍しい。…………それで?」
「俺が飼っていたペット、ノクトースを覚えているな?」
「…………あぁ。あの気持ち悪い造形の。もちろん覚えているとも。今は亡き世界で、魔物に自我を与えた実験の産物。アレは中々に興味深い内容だった」
こっちに顔を向けず、ひたすらに画面を見ながら何か作業をしているかと思えば、ピコピコとゲーム音らしき音が聴こえてくる。
少しは俺の方を見ろとさえ思う。
「そいつが死んだ」
「ふぅ〜ん。どこの宇宙、どこの星に送ってたの?」
「129400013番目の地球だ」
それを告げた途端、エムルの手が止まる。
「それはまた、中々熱い所に送ってたね。そうか、そういえば君はトロンと同じ所の運営者だったね」
「あぁ。5大貴族の者として、有意義にあの星の恐怖を味わらせてもらっている」
「そっ。で、そのペットが死んだから何?」
依然として顔色すら変えない。
だが、これを知ってもその平然とした気に食わない顔のままでいられるか?
「そいつを殺したのは、星の巫女と、星の守護者だ」
「────」
ゆっくりと俺のことを見る。
ようやく貴様の驚く顔が見れたことで、俺の溜飲が下がっていく感覚があった。
「それはまた……」
「この間の防衛戦でもそいつらは活躍した。いいのか? 力をつけさせて。少なくとも、奴と同じ『星の守護者』は消すべきだと思うが?」
「構わない。それはそれで面白そうだから。言っておくが、私は誰一人として送る気はないよ」
「そんなのは知っている。だからこそ、わざわざ貴様に会い来たんだからな」
こいつはアトムと同じくらい、奴と親交があった。
であれば、同じ星の守護者に想い入れを抱いてる可能性は捨てきれない。
(いつまでも思い通りになると思うなよ?)
「はぁ、どんな用件?」
「上級貴族、ヴァーミリオン家当主として、『星の守護者』を野ばらしには出来ない。例え運営方針に背くことになろうとも」
「……で?」
「貴様は、我々自らが次元を超えて、多元宇宙の生物への直接介入を良しとしない。それは俺たちが圧倒的な力を持つが故に」
「そうだね。そんなの、ゲームとして面白くないだろ?」
「そのゲームを、面白くする案を持ってきた」
「……へぇ。言ってみなよ」
(かかった)
それから俺はエムルに、とある提案を伝える。
システムとしても、運営側としても、そして国民としても、更に面白くなる案であると自負する。
同時にそれは、より我々の退屈を埋めるはずだ。
***
「へぇ〜〜〜。カリスにしては面白いことを言うじゃないか。少し見直したよ」
エムルの目つきが変わる。
その目は、好奇心を刺激されたかのような眼差しだった。
「なるほど、考えたね。確かにそれは盲点だった」
「そう言うということは、ゲーム的にも許容範囲と考えていいんだな?」
「そうだね。結構面白そうだし、組み込んであげるよ。けど、もう1つについては専門外だ。でもここに来た以上、もう終わらせてるんだろ?」
まったくもって鋭い洞察力だ。
「あぁ。キーヤの所で、既に魂の変性は済んでる」
「やれやれ、そういうのはモルモットとかにやらせればいいのに。貴族の考えは理解したくないね」
「黙れ!」
ほんと、こういう考えだからこそ嫌いだ。
我々貴族の本分すら忘れ、研究に没頭するコイツが。
「はいはい」
「それで、どれくらいかかる」
「そうだなぁ……、ざっと1〜2週間といったところかな」
「2週間……」
その辺りの時期だと、確か中国に防衛戦を仕掛けて、観察しながらトロンたちと楽しんでいるな。
(そこで死んでもよし、終わった後に殺すもよしか)
「分かった。であれば、検証は今回の防衛戦が終わった後にする」
「それ、私や王が決めることなんだけど……。まぁいいか。王も楽しんでくれるだろうし」
コイツも乗り気であるため、もうここに用はない。
出入り口の方へと歩き出す。
「帰るのかい?」
「もう用は済んだ」
「そうかい。もう来ないことを祈るよ」
「……ふんっ」
互いに嫌悪感を出しながら、カリスはラボを後にする。そして残るはエムルだけ。
「やれやれ。貴族らしい考えは嫌いだ」
(君がいた頃は、どれだけ退屈せず過ごせていたか)
想い返すは、彼がいなくなる前までの、輝かしい青春の記憶。
彼女を否定し、魂のエネルギーを摂取するという、醜悪な存在へと成り果てることさえなければ、今でも君は……。
カタカタと、画面を操作する。
カリスの提案を反映する作業へと入ったからだ。
そして作業しながら、小さくつぶやく。
「彼と同じ『星の守護者』……か。君は、私の退屈を埋めれるような存在になれるかな?」
小さく笑みを浮かべながら、誰もいないラボで一人、作業に没頭していった。




