動き出す思惑と悪意④ 生き抜く選択と死闘後の休息
─── ボス討伐4時間前 ───
「……提案がある」
既に何度目からすら分からないほどに魔物と戦ってきたからなのか、記憶があやふやになってきている。
永久も藤宮さんも、表情からしてキツイのが見て取れる。
「……神薙君、提案って?」
「和人、何かいい案でも浮かんだの?」
正直、いい案とは呼べない。
むしろ苦肉の策と言ったほうがいい。
それでも、三人で生きて帰るためには、この方法しか思いつかなかった。
「藤宮さん、途中誰かに見られてる気がするって言ってたよな?」
「え? う、うん。多分、言った気がする」
「それに永久も、魔力の流れがおかしいとも言ってたな?」
「う〜ん、多分?」
魔力はあれど、既に気力が限界なんだろう。二人の記憶力もあやふやになり始めていた。このままでは、本当に死ぬ。
「俺はそこまで魔力を詠めるわけじゃない。だから2人の証言から1つの仮説を出した」
それは、このダンジョン自体が俺たち全員を生きて返すことを前提としていないという、荒唐無稽な仮説だ。
「多分、最後の1人にならないと、ボス部屋には到達出来ない。じゃないと、わざわざボスを配置する必要がないからだ」
正確な条件は分からないが、ボスが一人になったことを確認する。それが条件だと思いたい。でなければ、俺たちの負けだ。
「じゃあ、何? 3人の中から2人を殺せって?」
「そんなの、認められないよ!」
「当たり前だ。…………だから、2人には俺の式神の中に避難してもらう」
俺の式神には、『ミドリ』という亀型の式神がいる。そいつの能力は、俺を除いた少数であれば、専用空間へ招くことが出来るというもの。
そういう能力があってもいいなと思い、創ってはみたのだが、後からいつ活用するんだ?と気づき、色々と悩んでいたのだが、絶好の機会が訪れてくれた。
だが当然、こんな案なんて──
「ダメだよ、神薙君! それってつまり、たった1人で戦い続けるってことだよ!?」
「和人、いくら式神がいるからって、無謀すぎない? 死ぬよ?」
「だが、それ以外の打開策が思い浮かばない。永久、お前の一撃で、全部を吹き飛ばせるなら話は別だが」
「……それは無理。和人の式神を見て思ったけど、空間を繋げてる可能性が高いから、変なところに飛ばされるのがオチ。それと、天上とかをぶち抜けば生き埋めになるよ?」
「つまり、そういうことだ」
その言葉に、二人は黙る。
もうやれることがこれしかないと、本能的に理解しているからだ。
そして少ししてから、藤宮さんが口を開く。
「死なないで……。また、神薙君だけに無茶をさせちゃう……」
「大丈夫だ。絶対に生き残る」
「死んだら赦さないよ、和人」
「分かってる。2人はその間ゆっくりと休んで、本命を頼む。必ずその場に連れていく」
暗い表情を浮かべながら二人は頷く。
そうして次の魔物の群れが襲いかかるタイミングで目眩まし用の式神を召喚し、ダンジョン全体を煙幕で覆い隠す。
その間に二人をミドリの中へと収納し、式神を互いが邪魔にならない程度の数まで召喚する。
(残り魔力も少ないが、やってやる)
そうして地獄のような戦いが始まった。
***
「疲れたぁ……」
バタンと、大の字に倒れ込む。
藤宮さんたちが隠れていないかを確認するために、1度は必ず魔物をけしかけるとは思ったが、おかわりの2度目が来た時は、本当に絶望した。
だが奮闘の甲斐もあり、こうしてボスをはめ殺しすることには成功した。
これで死んでいった仲間たちも報われる。
「和人!」
「神薙君!」
タタッと、二人は俺の元へと走り出し、ガバッと抱きつく。
「いだだだだだ」
「無事だよね!? そうだよね!?」
「和人のくせに無茶しすぎだよぉ」
「だ、大丈夫だ! 自動回復があるんだから、そうそう死なないって」
まぁ自動回復といっても、10秒につき1回復だから、本当に雀の涙程度しか回復しないのが残念ポイントだ。
「こんなにボロボロになって……」
涙目になっている藤宮さんを見て、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、グッと我慢する。
「これくらいしか方法が思いつかなかったからな」
「和人の言い分も分かるけど、弱っちいんだから、無茶しないで」
「はっ、その弱っちい奴の機転で攻略出来たんだ。感謝してほしいな」
「何だよ、心配してあげてるのに!」
怒りながら永久は俺から離れる。
まぁこいつが心の底から心配しているのは、分かっている。
「心配してくれて、ありがとな」
「ふぅんだ! ……それより、本当に良かったの? ボスの経験値、私が総取りして」
俺はここに二人を連れてきただけで、戦闘には参加していない。そして藤宮さんに経験値という概念はない。そうなれば必然的に永久が総取りとなる。
「構わない。命あっての物種だ。それに、雑魚の魔物とはいえ、それなりの数がいたからな。トータルでみればプラスだ」
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守護者:神薙和人
クラス:式神使い
契約式神:300体
契約可能数:0 → 26体(魔抽:300/5000)
レベル:100 → 113(EXP:13000/2000000)
称号:ジャイアントキリング
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ステータスを開き、現在のレベルを確認してみれば、113となっていた。かなりの死闘ではあったけど、それに見合うだけのリターンがあって安堵する。
(まぁあれだけ戦ってたんだ。これくらい上がってもらわないと、困るな)
「経験値ブーストのアイテムを持ってるって聞いてたけど、めっちゃレベル上がってるじゃん! ズルだよズルっ! 私もほしい〜〜」
「諦めろ。同じやつは二度と手にはいらないからな」
不服そうな表情を浮かべるが、仕方ないだろうと思う。それから少しして、俺たちの前にウィンドウが現れ、報酬についての内容が提示された。
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『仙道酒』 Bランク
飲むことで30秒間、全ての威力を10倍にする
その後10分間、ステータスが半減する
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「いらない」
「売るか」
「未成年だから無理」
「「「はぁぁ……」」」
報酬については、あまりにも労力に見合わない。
見たところ、ボスからはアイテムすらないしな。
そうしてダンジョンが光に包まれ、俺たちは外へと帰還する。もう朝日が登ろうとしていた。
「う〜ん! ほぼ1日使っちゃったね」
「だな。とりあえずどこかの宿に泊まって、ぐっすり眠りたい」
「そうだね。私たちは少しだけ休ませてもらったけど、もう色々限界」
「さんせ〜〜」
もう何も考えたくなかった。
方針を決めた俺たちは疲労困憊の中、近場の宿へと足を運び、すぐさまシフォンの上で爆睡した。
目を覚ましたのは翌日の朝で、それから協会へと戻り報告を済ませる。
そこで俺と藤宮さんの2等星昇格の通達が、笹倉さんから直接告げられる小さなイベントがあったりと、最初のイリーガルダンジョン攻略としては中々に刺激的な流れだった。
***
「次はいつ行くんだ?」
「う〜ん、滋賀に4日後かな。少し舐めてた部分もあって、準備を最小限にしてたから、次は万全にしようかなって。それに、来週末には防衛戦の話もあるだろうし」
「それがいいね。私も、スキルポイントを使って新しい魔法を覚えるつもり。神薙君は式神との契約?」
「そうだな。やれることはやらないとだな」
三人で今後の方針を決め、家へと帰ろうとすると、『その前にさ』と、永久はつぶやく。
「和人たち、2等星に上がったんでしょ? それに昨日は和人の誕生日だったんだし、お祝いにどっかで食べようよ。奢るから」
「あっ、そういえばそうだった!! 神薙君、17歳のお誕生日、おめでとう♪」
「ちょっ、それ私のセリフだから!」
「あんがと。藤宮さんは来週だろ? それも含めて、肉にするか」
──さんせ〜〜〜!!
行き先を変えて、焼肉屋へと向かう。奢りとなれば、遠慮なくいかせてもらおう。
それから三人で高めのお店へと入り、焼肉パーティーを始める。死闘から日常への帰還として、これ以上ないほどに充実した1日だった。




