イレギュラー① 嵐の前
─── 守護者協会関東支部 ───
「既に一部の者たちは知っているようだが、今回我々は中国の防衛戦には参加出来ない。向こうから、参加拒否の打診が来たからだ」
12月5日に行われる防衛戦。
その1週間前となる11月28日の日に、俺たちは守護者協会へとやってきた。
ちなみに、滋賀のイリーガルダンジョンは攻略済だ。高ランクのボスが鎮座するだけであったため、1等星の永久がいる時点で、そこまで苦戦することなく、攻略することが出来た。
なのでこうやって協会へと足を運ぶことが出来たのだ。そして永久が言っていた通り、笹倉さんの口から、俺たちは参加出来ない旨が伝えられた。
知らなかった守護者たちは一同にざわめき立ち、俺たちのように事前に知っていた者たちは静観している。
「本当に永久さんの言う通りになったね」
「ね? だから言ったでしょ?」
「知ってたとはいえ、いざそれが正式に発表されると、驚いちまうけどな」
「まぁ、それはそうだね」
視線を笹倉さんの方へと戻す。
笹倉さんも、守護者たちの心情を理解しているのか、落ち着くのを待つ姿勢らしい。
それから少しして、ざわめきが落ち着き始めたタイミングで、笹倉さんは口を開く。
「君たちが驚くのも無理はないし、色々思う所もあるだろう。特に、先の防衛戦で戦った者たちからすれば、正気を疑う内容であるはずだ」
「だが、どうも中国も無策ではないらしい。だからここは、無事に勝利することを祈ってほしい。そして次の防衛戦に向けての準備期間だと思い、これからもダンジョン攻略に励んでもらいたい」
「私からは以上だ。……では、解散!」
笹倉さんの号令で一斉に守護者たちが会場から出ていく。だけどほとんどの守護者たちは、どこか納得のいかない表情を浮かべている。
無理もない。
ある意味、戦力外通告を受けたと同義なのだから。
「俺らも行くか」
立ち上がり会場を出ようとした所で、『和人』と、倉瀬の声が聞こえてくる。
「倉瀬。それに拓真も。もう、傷は大丈夫なのか?」
「あぁ。そっちはもう大丈夫だ。あん時は、お前と藤宮ちゃんだけに重荷を背負わせて、すまないな」
「いいんだ」
「お元気そうで何よりです! 他の皆さんは?」
「山口たちは、先に外に出てる。今日はお前らに──「あれ? 拓真さんじゃん」」
「げぇっ!? 柊!? なんでお前がここにいる!」
「久しぶり〜。元気にしてた?」
「うるせぇ! 気安く声をかけるな、傲慢女!」
永久が声をかけた途端、まるで会いたくもない人に会ったかのような表情を拓真は浮かべる。
更には傲慢と、永久に言う辺り、それなりに永久の内面を知っているようだった。
(そういえば、拓真は永久のことを知ってそうだったな)
「遠見さん、永久さんと知り合いなの?」
「知り合いって言うか……、そのよ……」
「あははは、黒歴史だもんね〜」
「黙れ!」
歯切れの悪い回答をするので、余計に分からない。二人して首を傾げていれば、ため息をつきながら倉瀬が説明してくれた。
「昔、拓真と柊が戦ったことがあるんだよ」
「それで、ボッコボコにしたの!」
「あぁ……」
「それは……」
何となく、当時の光景が頭に浮かぶ。
きっと永久のことだ。おちょくりながら、圧倒的な力の差を見せつけたに違いない。
「くそっ。和人と幼馴染だって聞いてたが、なんでここにいる!」
「んん? 今私は和人たちと一次的にパーティー組んでるからね。協会の依頼で」
「はぁ? マジかよ」
拓真と倉瀬は信じられないのか、驚愕の表情を浮かべながらこっちを見る。
「本当だ。イリーガルダンジョンの攻略を3つほど」
「2つまでは攻略して、残り1つなんです」
「1等星の依頼ねぇ……。柊、ずいぶんと気前がいいな」
「愛しの和人だからね」
「は? 和人、マジで?」
「冗談だから気にするな」
「何を〜〜!」
「はぁぁ……」
このままでは一向に話が進まない。
なので永久は無視して、拓真たちの話を聞くことにした。なにやら俺たちに用があるらしいし。
「お前らとダンジョン攻略でもどうかと思ってよ」
「ダンジョンですか?」
「あぁ。実は青森の方に、最近発見されたAランクのダンジョンがあってな。そこに行かないかって話になってるんだ」
「んで、折角ならお前らと一緒にやるのも悪くないと思ってな。レベルも申し分ないし、2等星になったんだろ? どうだ」
なるほど、それは助かる。
高ランクのダンジョンは、意外と手続きがめんどくさいし、ベテランのパーティーと一緒に行けるとなれば、色々学べることもある。
それに──
「へぇ〜、拓真さんたちも青森に行くんだね」
「あん? もって、お前らも行く用事があんのか? いや、さっき言ってた協会の依頼か!」
拓真が言い当てると、『正解!』と、永久は答える。これはこれで何かの巡り合わせかもしれないな。
なので、永久にある提案をする。
「永久、折角だ。拓真たちと一緒に攻略しないか?」
「ん? イリーガルダンジョンを?」
「あぁ。その方が効率もいいだろ」
「賛成! この間みたいに、ギリギリで気づくみたいなことにならないためにも、信頼出来る人は多い方がいいと思うよ」
「う〜ん、まぁ拓真さんは錬金術師だし、使えなくはないかな」
「おいこら! ……つか、いいのか?」
「永久が良ければだな」
俺たちはある意味、永久に雇われてると言っても過言じゃない。であれば、後は雇い主の永久が決めることだ。
それから永久は、う〜んと、少しだけ悩むと、ある提案をした。
「拓真さん、私もそのAランクのダンジョンに行ってもいい?」
「あん? ……まぁ、1人増えた所でそんなに変わらないし、お前が来るなら、よっぽどのことがない限り死なねぇから、いいぞ」
「じゃあそれを見返りとして、拓真さんのパーティーの同行を認めてあげる。イリーガルダンジョンの内容によっては、いいアイテムが出るかもしれないからね」
永久も永久で、Aランクダンジョンには興味があったらしい。いや、どっちかというと、俺といる時間を多く取りたいのか?
「そういうってことは、いいアイテムが出たのか?」
「「「…………」」」
倉瀬の言葉に、俺たち全員言葉を詰まらせる。
何せ、滋賀のイリーガルダンジョンではアイテムが出なかったからだ。
変わりに100万経験値だけが手に入った。
いや、それはそれで、かなり美味いんだけどな。
俺の場合、1000万経験値になったわけだし。
「その顔だけで、美味くなかったのが分かるな。でもま、行けるなら行かせてもらう。イリーガルダンジョンはまだまだ情報が少ない。調査目的としても、同行させてもらう。倉瀬もいいか?」
「あぁ。浩子たちにも伝えないとな」
「じゃあ、そういうことで! 中国防衛戦の結果を見てから行こうと思うから、それでよろしくね」
「あいよ。んじゃ、飯食いながら打ち合わせするか」
「分かった」
「分かりました!」
「ご飯、ご飯〜♪ 拓真さん、ゴチになります!」
「誰が奢るって言った!」
(この2人、意外と相性がいいのか?)
拓真は邪険にあしらってるようだけど、永久は遠慮せず接している所を見て、ふとそう思った。
あの性格だから、まともな交友なんて結構限られてるだろうし。
「なんだか、仲いいね。あの2人」
「藤宮さんもそう思うか?」
「うん」
「拓真、未だに負けたの根に持ってるからな。歳下に負けたの、お前入れて3人だから」
「もう1人は?」
「神代だ」
「神代……」
ズキンッと、一瞬だけ鈍い頭痛が襲う。
あの時もそうだったが、これはなんだ?
「えっ、拓真さん、和人にも負けたの? あははは、よわ〜い」
「俺の古傷を抉るんじゃねぇ!」
「あははは!」
「神薙君? 大丈夫?」
「ん? あぁ問題ない」
「そう? 無理はしないでね」
「分かってる」
そうして俺たちは会場を後にし、比嘉さんたちとも合流する。それから皆でご飯を食べたり、ダンジョン攻略の打ち合わせをしていって、この日は終えていった。
けど、このやり取りが嵐の前の静けさであるだなんて、誰にも想像出来なかった。
中国防衛戦。
その結果が、この先の運命が大きく変わることになることを、まだ誰も知らない。
そう、神代当麻でさえな。




