動き出す思惑と悪意② 埼玉イリーガルダンジョン攻略 Ⅰ
─── 埼玉:飯能Bランクダンジョン ───
─── 真層:イリーガルダンジョン ───
「ガマ、動きを封じろ!」
──ゲコッ!
蛙型の式神、『ガマ』にそう指示をすれば、ガマは勢いよく舌を伸ばし、敵の魔物の身体を拘束していく。
「永久!」
「はいはい」
気怠そうな返事をしつつ、永久は手に持つ剣で魔物を両断する。その間に俺は、もう1体の魔物へと接近し、同じく両断する。
「神薙君、下がって!」
後ろから藤宮さんの声が聞こえるので、言われた通り後方へと下がる。
「フレアランス!」
呪文を唱えると、炎を纏った槍が勢いよく、魔物の群れへと衝突し、激しい爆発音が聞こえる。
「永久さん」
「はいは〜い。ほいっと」
スッと、永久は左腕を下に下ろす。すると、無数の剣が魔物の群れの頭上へと現れ、降り注ぐ。
一本一本の威力が桁違いなため、敵がどうなったかはよく見えないが、魔力感知で視れば、魔物たちの魔力は感じない。恐らく全滅したのだろう。
「ふぅぅ、ひとまずは捌き終わったな」
「神薙君、お疲れ様」
「あぁ、藤宮さんもお疲れ」
パチンッと、ハイタッチをする。
イリーガルダンジョンに突入して4時間が経過。思ってたよりも敵の強さはそこまでではなく、普通のダンジョンとそこまでは変わらない印象を受けていた。
「和人〜、私にも〜」
「はいはい」
永久が文句を言い始めるので、渋々ハイタッチをする。それにしても、永久が真面目に集団戦をこなせるのに、変な違和感を感じるのは、俺だけだろうか。
「失礼だね。私だって、何度もパーティー組んで潜ったりしてるんだよ!」
そんな俺の思考を詠んだのか、永久はプンプンと怒りながら、パーティーを組んでいた時のことを話し始めた。
「分かった、分かった。俺が悪かったって」
「ほんとだよ!」
「でも、意外なのは確かだよ。永久さん、向こう見ずに敵を薙ぎ払うのかと思ってたから」
藤宮さん、永久に対して結構強気に言うよな。ライバル意識があるのか、はたまた別の理由があるのかは分からないが、今のところは険悪なムードでもないし、そっとしておこうと思う。
「向こう見ずは余計だね。まぁここが普通のダンジョンならそうしてたかもしれないけどね」
「やってたのかよ……」
「でも、ここはイリーガルダンジョン。何が起きるかさっぱりだから、これでも慎重にやってるんだよ?」
「まっ、それに越したことはないよな。とはいえ、この程度の魔物だと、本当に他の守護者たちが殺られたのかって、疑っちまうな」
強さはどう見繕っても、Bランク相当だ。
Bランクダンジョンを攻略出来るパーティーが遅れを取るとは到底思えなかった。
これなら、藤宮さんたちがハメられたイリーガルダンジョンの方が数倍難易度は高かったと思う。
(よくよく考えても、よく生き残れたよな)
「でも、本当にそこまで難易度が高くないよね。普通のダンジョンって思っちゃう」
「まぁ、それは私も感じてるかな。考えられるのは、ボスがかなりの強敵か、気を緩んだ時に牙を剥くかのどっちかだね」
「まぁ、それが妥当だよな」
常にリリスたちに索敵をお願いしているが、今のところ危険を知らせる行動は取ろうとしない。
であれば、永久が言ってたように、ボスがかなりの難易度と考えるのが妥当かもしれない。
「ところでさ」
「ん?」
周りに敵がいないことを確認した俺たちは、軽く休憩を取ることにしたのだが、休憩中に永久は俺にあることを尋ねてくる。
「和人の式神って、なんで高威力、広範囲系の式神が少ないの?」
「永久さん、どういうこと?」
「だってさ、式神使いの利点って、単純に手数の多さでしょ? なのに和人が使う式神って、相手の体勢を崩したり、隙を作るのに重きを置いてる。それって効率悪くない?」
「普通なら、もっとバシバシ召喚して、それこそ反撃の暇を与えないのが正道だと思うんだよね」
「あぁ〜、言われてみれば、そうかも」
「……お前、よく見てるな」
「何を〜〜!」
まぁ永久の言っていることは正しい。
俺もそれが正道だと思っているからな。
だが、それが出来ない理由があるんだよな。
「……そう簡単に行けたら良かったんだけどな」
「ん? なんかあんの?」
「まぁな」
折角なので、式神使いのある意味での欠点を教えようと思う。
「以前、式神を契約する時、どんな式神にするか、条件を足していくって言ったよな?」
「うん、言ってた。でも、それがどうしたの?」
「条件設定する際、今のステータスが参照されるんだ。高ければ条件の幅が広がるし、低ければ狭まる」
「んで、今の俺じゃ、高威力、広範囲の式神はまだ作れない。コノエやフェルンくらいの威力が限界だな」
「だから今は、戦術の幅を広げるのに重きを置いてるんだよ。そして俺が一度に出さないのも、それに頼るだけになるのを避けるのが目的」
「ふぅ〜ん。意外とめんどうなんだね」
「神薙君、どの程度のステータスがあれば、大丈夫なの?」
「そうだな。感覚的な話になるけど、30000を超えた辺りから、もう1段階強くなると思う」
「まだまだ先は長いってことだね」
「そうなるな」
とはいえ、俺含め式神の強化は必須。次はバッファーもしくは速度に秀でた式神を創り、既存の式神と協力出来るようなものにすべきだろうとは思っている。
(聞けば、永久のレベルは300を目前としているらしい。この差を埋めるためにも、頑張らないとな)
その後も俺たちはイリーガルダンジョンの奥へと進みながら魔物を倒し、魔石を回収、そして休憩と、順調にダンジョン攻略を進めていく。
正直、イリーガルダンジョンと聞き、それなりの覚悟をして挑んでいたのだが、その実、順調に攻略が進んでいて、拍子抜けだ。
永久も、『私、いらなくない?』とぼやくくらいには、難易度はさほど高くはなかった。
***
(なんだ? この違和感……)
イリーガルダンジョンに突入してから、既に8時間は経過している。階段を下ったりしているので、既に階層でいえば10層には到達しているだろうか。
休み休みとはいえ、流石に疲れが出てくる。
永久も時々、欠伸をしているしな。
にも関わらず、一向にボス部屋が現れない。
Bランクダンジョンの平均攻略時間は6時間。
そしてここはイリーガルダンジョン。
それを加味したとしても、そろそろボス部屋が現れてもおかしくはないというのに……。
「もう! さっきから同じ魔物ばっかで飽きてくるんだけど!!」
「気持ちは分かるけど、そういうダンジョンなんだよきっと……」
永久や藤宮さんたちも、この違和感には気づいている。だが、何がおかしいのかが分からないといった感じだ。
「ぼやくな永久。俺だって、かなり怠くなってきてるんだからよ」
「むぅぅ。だったら今の休憩時間で、シフォンだっけ? あの式神で休ませてよ〜」
「それ、最高のアイディアだよ!」
「まっ、リフレッシュ目的としては最適か」
流石に変わり映えしない現状。集中力だって切れるだろう。なのでシフォンを召喚すれば、藤宮さんと永久は勢いよく、シフォンの身体へとダイブする。
「「気持ち〜〜♪」」
「やれやれ」
とはいえ俺も癒やしがほしかったので、シフォンの身体へとダイブする。その間に、式神たちにも協力してもらい、周囲の警戒と魔石の回収をしてもらう。
そうして魔石を回収してもらっているうちに、再び違和感に襲われた。
(30……、さっきも30だったよな?)
敵は群れで襲いかかってくる。であれば、まとまった数で来るのは、なんらおかしくない。
でも、さっきから襲いかかって来るのは、犬型の魔物だけ。それなりの深さにいるにも関わらず、ここまで同じ敵ばっかりというのは、おかしくないか?
「はぁ〜〜、にしても犬ばっかりってのもめんどうだよね〜。定期的に襲いかかって来る割に、経験値も美味しくないしさ」
「仕方ないよ、永久さん。でも、次に襲ってくるタイミングは分かってるんだし、これからも、今のペース……で…………」
二人が何となくつぶやいた内容に、全員が反応する。
そして全員がシフォンの身体から起き上がり、臨戦態勢へと移る。
「……和人」
「分かってる。グレイ、影法師!」
──チュッ!
藤宮さんのポーチから出てきたグレイは、影で出来た分身を複数体出現させると、分身たちに進行方向へ向けて一斉に走り出すよう指示をする。
同時に俺も、リリスといった索敵に優れた式神も再度召喚し、念入りにくまなく索敵をしてもらうよう頼む。
「神薙君、もしかして……」
「その可能性が高い」
(いつからだ? いつからそうなってた?)
ぐるぐると思考する中、暫くしてから『チュチュチュ!』と、グレイが俺の肩へと上り、ペチペチと頬を叩く。
なんだと思っていれば、前方へと走り出していたグレイの影たちが、後ろから現れた。
念のため、逆方向へと走らせてみれば、今度は前からグレイの影たちがやって来る。
「確定だね。はぁぁ……、そりゃ殺られる訳だよ」
「超音波を扱うリリスたちは、未だに異常を知らせてこない。つまり、どっかで入れ替わってる」
「じゃあ、やっぱり……」
定期的に襲いかかってくる敵。
魔石の数。
前を走ってたグレイの影が後ろから来た。
その逆もまた然り。
つまりは、そういうことだろう。
「だろうな。俺たちは……同じ階層をループしてる」




