永久の目的⑥ 意図しない生活
「へぇ〜〜、ここが和人の家かぁ。ボロっちぃ」
「黙れ。泊めさせてやるだけ感謝しろ」
「こ、ここが、神薙君のお家……」
その日の夜、俺は二人を連れて自宅へと戻ってきた。というのも、永久が泊まる宿を取っておらず、更には俺の家に泊まると言うからだ。
それで色々と揉めた末、最終的に藤宮さんも泊まるという流れになってしまった。
(なんでこうなったんだ……)
永久と再会して、まだ一日目だぞ? どれだけ濃密な時間を過ごせば気が済むというんだ。
「それにしても、よくこんなボロっちい家に住めるね。政府からの補償金は?」
「強くなるための授業料に大半を使った。それと、文句を言うなら追い出そうか?」
「それは酷くない!? こんな美少女を路上にほっぽり出すって言うの?」
「知るか! だったら宿くらい取っておけ!」
「えぇ〜、和人がいるのに、そんなことするわけないでしょ?」
「こいつぁ……」
ああ言えばこう言う。
こいつを引き取った養子縁組の親は、どんな教育をさせたのかと、本気で問い詰めたくなる。
そしてもう一人、ここにいる藤宮さんと言えば──
「神薙君の、匂い……、毎日、ここで……」
(聞かなかったことにしよう)
今のは聞き耳を立てていい内容じゃない。多分、いや絶対に。
なので気を取り直して、永久の質問に答えることにした。
「ボロいのは俺も気にしてる。だから近々、引っ越す予定だ。懐も多少は余裕が出来たしな」
とはいえ、ここの大家さんには頭が上がらない。
格安の家賃で住まわせてくれることに、これまで幾度となく助けられたことか。
「ふぅ〜ん、なら出してあげようか?」
「何で、嫌に決まってるだろ」
「えぇ〜。そうすれば一緒に住めるよ?」
「遠慮する」
「ちぇっ」
「永久さん、それは私が許さないです」
「いいじゃん。別に付き合ってるって訳でもないんだから。それに、将来はちゃんと考えないとね♪」
「なっ、何いきなり言ってるの!? べ、別に私と、神薙君は、その……」
チラチラと見るのだけはよしてほしい。
ただでさえ、この家に招き入れるだけでも、色々くるものがあるんだから……。
「和人? 認めないからね?」
「どこの子姑だ! ったく、とりあえず飯にするから、適当に座ってろ」
台所へと向かえば、『へぇ、料理出来るんだ』と、挑発気味に永久が言う。
「一人暮らしだからな。ある程度の自炊は出来るに決まってる。そういうお前は?」
「私? 食べる専門」
「論外だな」
そんなやり取りをしつつ、冷蔵庫を開けて何があったかなと覗いてみれば、卵、キャベツ、豆腐に、バラ肉しか残っていなかった。
(元々人を呼ぶこともなかったし、仕方ないか)
確か小麦粉がたんまりとあったはず。であれば作るものは自ずと決まってくる。
「神薙君、何か手伝う?」
「いや、藤宮さんたちは客人なんだし、ゆっくりしててくれ。材料からして、今日はお好み焼きにするつもりだから、そこまで時間とかからないしな」
「そっか。じゃあ待ってるね」
「あぁ」
(…………意外といいな)
キャベツを千切りにしつつ、さっきのやり取りについて振り返る。なんというか、同棲したカップルというのは、こういう感じなのかなと、気持ち悪い考えが思い浮かぶ。
それと同時に、背筋が凍るような視線を感じるが、ここは無視を決め込もう。
***
「おいひぃ〜〜」
「お好み焼きなんて、どこも変わらないだろ」
「分かってないなぁ。和人と一緒に食べるから、余計に美味しいんじゃん」
「さいですか」
「でも、永久さんの言う通り、とっても美味しいよ、神薙君」
「まっ、喜んでくれるならなんでもいいか」
──キュルルル、キュッルル!
──チュチュチュ!
コノエたちも美味しそうにお好み焼きを食べている。こういう姿を見ていると、式神というよりただのペットだな。
そして、そんなコノエたちを見ていた永久は俺に式神について尋ねてくる。
「和人の式神ってさ、ほんとに式神? 情報が少なすぎて分からないけど、普通そこまで自由意識ってあるもんなの?」
私から見れば、テイマーに近い存在に見える。
だけど魔力の性質からみれば、和人の魔力に近い。
だから、式神と言われればそうなのだけど、それにしたって、自由意識が強いと言わざるを得ない。
「それは俺も気になるところだな。式神と契約する際、条件を足していきながらどんな式神にするのかを規定していく」
「そうして構築した式神に、俺の魔力を込めることで、契約の儀が行えるんだ」
「間近で見たこともあるけど、神薙君の魔力が契約中の式神との間で循環しているように視えたよ?」
「想像でしか言えないが、循環している中で、俺の意思が式神に反映されているのかもな」
「ふぅ〜ん、降霊術とかとは違うんだね。それにしたって、和人の意思とは思えないんだけど……」
まぁ、これは所詮俺の考えなだけで、真実は分からない。
「式神といえば、陰陽師も式神を使うよね?」
「それ思った。だから和人の式神と、なぁんか食い違いがあるんだよね〜」
「陰陽師の式神って、創作に出てくる、まんまの式神だもんな」
クラス『陰陽師』。
札を使った攻撃や札に魔法陣を込めることで、遠距離攻撃も得意とするBランクのクラスだ。
そして陰陽師にも、式神が存在する。
けど、俺の式神とは違い、人型を模した札に魔力を込めることで、撹乱や索敵などといったサポートに特化しているらしい。
更に言えば、式神との契約によるステータス上昇といったものはなく、純粋なスキル扱いとなっていたりと、俺とはまったく異なっているのが特徴だ。
だからこそ、式神使いはよく分からない。
そもそもレベルがクソほど上がり辛い特徴があるから、そんな考察、これまで無意味とされていたしな。
「まっ、考えても仕方ないだろ。コノエたちはコノエたち」
──キュッ
──チュチュ!
「ふふっ、そうだよね」
「まっ、それもそっか」
永久も考えても仕方ないと行き着いたのか、黙々と焼いたお好み焼きを頬張る。
(なんだか、昔を思い出すな)
昔は施設の先生にこうして何かを作ってもらい、皆で分け合いながら食べていたっけ。
一悶着はあれど、こうして昔馴染みと再会したことを嬉しく思いつつ、三人でお好み焼きを食べていった。
***
「そういえば、まだ報酬について話してなかったね」
「「報酬?」」
お好み焼きを食べ終え、片付け終わると、永久がそんなことをつぶやきだす。
「そっ。私の依頼に協力してもらうんだから、ちゃんと報酬がないとね」
「言いたいことは分かるけど、永久さんが払うの?」
「払うというより、ちょっとした情報になるかな」
「話してみろ」
そう催促すれば、『まずは通常報酬からね』と、永久は報酬について話しだした。
「協会から1億の報酬を提示されててね。これを1:2で分け合う。私が5で、和人とそっちの女で合わせて5」
「いいい、いちぃっ!? というか、いい加減私の名前、ちゃんと呼んでください!!」
「えぇ〜、めんど〜」
「永久」
「はぁ……、はいはい。分かったよ、もう。……私が5で、和人と咲、2人合わせて5。悪くない報酬でしょ?」
「破格すぎないか?」
防衛戦でさえ、そこまでの報酬は得られなかったぞ。にも関わらず、1等星へのダンジョン攻略の依頼に対して、あまりにも条件が破格すぎる。
※防衛戦報酬:一律1000万
何か裏があるのではと、勘ぐってしまう。
「それだけ、協会も問題視してるってことでしょ? イリーガルダンジョンは発生条件もまちまちでよく分からないって話だから」
「それと、1等星にこういう依頼がくると、大体3〜5000万はくだらないよ? 規格外の『ゼロ』を除けば、国の最高戦力だからね」
「羨ましい限りだな」
「そ、そうだね。……いきなりお金持ちになっちゃう」
報酬面については、とやかくいうことはないな。元々は永久宛の依頼なのだから。それでも半値を俺たち二人に渡すと言うんだ。十分すぎる。
であれば俺と藤宮さんで2500万ずつの臨時収入となる。それだけあれば、それなりの広さの土地が手に入るかもしれないな。
「俺はそれで構わない。藤宮さんは?」
「……私も大丈夫だよ。というより文句は言えないかな」
「納得したところで、もう1つの報酬ね。こっちが私から和人たちに提示する報酬だよ」
「情報って話だったな。どんな情報なんだ?」
そう尋ねれば、『ふっふぅ〜ん』と、自慢気な表情を浮かべながら、あることは話し始める。
「和人たちはさ、レアダンジョンって知ってる?」
「あれだろ? 極稀に現れるボーナス系のダンジョンってやつ」
「確か、敵が弱い割に、得られる経験値がかなり多いって話だよね?」
レアダンジョン。
発見され次第、すぐに攻略がされてしまうほどの超超超人気ダンジョン。
藤宮さんが言ってたように、ボスも含め敵が弱い割に得られる経験値が多いと言われ、更には入手出来るアイテムも高レアであるとか。
そしてこのダンジョンを見つける唯一の方法が、極稀にダンジョンの攻略報酬で得られるという話だ。
まさか……。
「そっ。でね、3ヶ月くらい先になるんだけど、レアダンジョンが現れる情報を、ダンジョン攻略時に入手したの」
「協会には、絶対に他の奴らを入れさせるなって伝えてある。なので、そこの情報を教えてあげる。というより、同行させてあげる。それが私からの報酬だよ」
「マジで!?」
「うん」
よもや、こんな美味しい話が舞い込んでくるとは思いもしなかった。
藤宮さんなんて、ポカンと、唖然としているしな。
「気前がいいな」
「まぁ、今日まで和人を放っておいたからね。ちょっとしたお詫びも兼ねてるんだよ。あとは私の腕を斬り落としたご褒美かな」
上から目線なのは変わらないが、永久なりの誠意ということなんだろう。
まぁ永久のことだ。
俺と一緒にいたいという口実もありそうではある。
とはいえこの話、ますます棒に振ることは出来ないな。
「分かった。その時は同行させてもらう。でもいいのか? 俺が強くなるんだぞ」
「あははは! 私も強くなるんだから、無理無理」
「言ってろ」
「あわわわ。なんか、トントン拍子で話が進んでいくよぉ……」
報酬についての話も終わり、その後は各々、俺が沸かした風呂に入り寝る準備を進める。正直、女の子が入った風呂に入るのは、思春期男子には刺激が強すぎたので、シャワーで割愛した。
ん? 藤宮さんたちの様子?
なんで話さないといけないんだ?
言うわけないだろ。
「シフォン」
──クポォォォ〜〜
「「可愛い〜〜〜」」
寝る直前、タヌキ型式神、シフォンを召喚する。
童話や漫画とかで出てきそうな見た目に、ふわふわとした毛並み。まさに癒やしにはもってこいの見た目だ。
そしてこいつは一応防御用の式神ではあるのだが、こっちに戻ってきてからは、完全に別の目的で使わせてもらっている。
「シフォン、今日も頼むよ」
──クポ〜♪
ポンッと、シフォンの身体が大きくなり寝そべる。さながら巨大な可愛いベッドの様な見た目だ。
そしてコノエは勢いよく、シフォンの身体へとダイブする。するとコノエの身体は、みるみるとそのふわふわの毛並みへと沈んでいく。
グレイは普段藤宮さんといるから、知らなかったよな。その光景を見て、藤宮さん共々目を輝かせていた。
そう、別の目的とは、もう分かるだろう?
「か、神薙君!? い、いいの、これ!?」
「もちろんだ。シフォンは衝撃吸収用の式神なんだけど、ベッドとして活用するとこの通り、最高級のふかふかベッドの出来上がりだ」
「うわぁぁあい!」
──チュチューー!!
そして藤宮さんとグレイも、勢いよくシフォンの身体へとダイブする。そして、『柔らか〜い』と言いながら、その身体が沈んでいく。
ふふふ、やはり俺の発想に狂いはなかったな。
更にシフォンはその見た目に反して、そこまで熱くない。つまりは四季に関係なく活用出来る。
「ねぇ和人」
「ん?」
「私に、この式神ちょうだい♪」
「断る! つか、いつの間にシフォンの身体にダイブしてたんだ!」
気がづけば、既に永久はシフォンの身体に埋まっていて、それはもう心地よい表情を浮かべていた。
「いいじゃ~ん。だってこれ、最高すぎるんだもん」
「ちょっと分かるかも。神薙君、私もほしいぃ~」
「ふざけるな。シフォンは俺だけの式神だ。藤宮さんであろうとも、誰にも渡さん!」
ボフンッと、俺もシフォンの身体にダイブする。このふかふかさ、やはり最高だ。
──クポポ~~~♪
シフォンも心地よいのか、気持ちよさそうな声を出している。
「ここにいる間だけの特別だ」
「「えぇ~~~」」
こういう時だけ仲がいいのは、女の子の特権だろうか。まったくいきなり賑やかになったものだ。
「ほら、さっさと寝るぞ」
──はぁぁぁい!
──キュルル~
──チュチュ~
──クポ~
明かりを消し、就寝する。
すると少ししてから、二人の寝息が聞こえてくる。
(まぁ、こんな日があってもいいよな)
再会のタイミングはあれだったが、久々に旧友に会えた日の出来栄えとしては上々だろうなと思いつつ、俺も意識を手放していった。




