永久の目的③ 幼馴染 VS 不適合者 Ⅱ
(う〜ん、ちょっと予想外だったかも)
和人と剣戟を交わしながら考える。
想定以上に、和人が強い。
私よりも弱いのは確か。
朝の時も感じていたけど、私の中にある和人のイメージと、目の前にいる和人のイメージがまったく噛み合わない。
既に4回くらいは殺しているつもりだったけど、そのどれもを、致命傷だけは避けることで耐え忍んでいる。
「はぁぁぁあああ!」
──グモォォォ!!
そんな一瞬の思考のうちに、右からは和人が、左からはデカい牛が挟撃してくる。
「ほいっ」
和人の攻撃は軽いからどうでもいいけど、牛の方は当たれば少し痛そうだ。だから数本の大きな剣を召喚し、防御に充てる。
そして和人の方は、私の剣で刀を受け止める。
同時に、もう1体のデカい牛が斧をぶん投げ、犬っころがその爪で向かい、最後に狼の口から吐かれた氷のブレスが私に襲いかかってくる。
(弱っちいのに、小癪だなぁ)
手数だけが無駄に多く、めんどくさい。
こんな攻撃に意味なんてないのにね。
サクヤの能力で、瞬時に和人から距離を取り、攻撃を回避する。
(次はどう攻めようかなぁ…………、あれ? 和人がいない?)
「っ!?」
すぐに剣を構えるが、ほんの僅かに反応が遅れたことで防御が間に合わず、左腕を少し斬られる。
(うそ、なんでもう和人がいるの!?)
こんなの、私の移動先を予め詠んでないと出来ない芸当だ。
(もしかして、私の動きが詠まれてる?)
そんな思考になるけど、すぐに否定する。
私より才能がない和人に、そんな芸当が出来るはずがない。
「何をしたかは知らないけど、小細工ばっかりじゃ勝てないよ?」
「少しは、戦いに集中したらどうだ?」
「集中ねぇ……」
じゃあ言われた通り、魔力を剣へと収束する。それを感じ取った和人は、私から距離を取る。
「ほらほら、今度はさっきよりもずっと強いよ?」
「っ」
軽く振り下ろせば、眩い斬光と共に、魔力による斬撃が、和人に目がけて放たれる。
そして和人に直撃すれば、激しい轟音と共に、抉られた地面の粉塵が舞い、目の前の視界が遮られる。
精神世界だというのに、よくもまぁここまで再現出来るよね。
仕方ないので、魔力感知で和人の魔力を視ることにしたのだけど──
(今のは、普通に死んだと思ったんだけどなぁ)
ほんの少しだけムカついてきた。
さっきはあまり魔力を込めなかったから生き延びられたようだけど、今放った斬撃はその比じゃない。
だから本来なら、和人じゃ防げない一撃だったにも関わらず、私の目には、和人の魔力が視えていた。
そうして粉塵が薄くなり、目の前の光景が視認出来るようになってくる。
「なんだろ、あのゼリーみたいな水の塊」
そこには半固形状の水に包まれた和人がいた。
多分式神なんだとは思うけど、正体が分からない。
さっきもアレに包まれてたことで、私の斬撃から難を逃れていた。再生能力があるらしいけど、防御性能はお世辞にも高いとはいえない。
そもそも、さっきは普通に防げていなかったよね?
(一体、何をしたの? ステータスだって私の方が上なのに……)
これまでの経験から、和人は3か2等星レベルはあると思う。でも私は1等星。ステータスは圧倒的に優っているはずなのに、その一撃を完全に防ぐだなんて出来るはずがない。
不思議に思っていると、水の塊がクラゲへと戻る。
どうやらさっき出してたクラゲ型の式神のようだ。
そして、『生きてるのが不思議か?』と、そこから出てきた和人が、見透かしたかのようにつぶやく。
「そりゃね」
「一生考えてろ!」
パリッと、一瞬だけ脚から雷が迸れば、一瞬のうちに和人は私の目の前へと接近する。
確かに速いけど、反応出来ない速度じゃない。
落ち着いて和人が振るう刀の軌道を詠み、回避するのだけど──
「ちょっ!?」
すぐさま和人は私の移動先に現れ、再度刀を振るう。流石にこれは防がないと危ない。
咄嗟に数十本もの剣を召喚し、一斉に和人の頭上目がけて剣の雨を降らせる。だけどタイミングを詠まれているのか、和人はそれを軽やかに避ける。
(なんで今のも避けれるの!?)
すかさず追撃に出ようとするが、カクンッと足に何かが巻きつき、移動を妨害する。
見てみれば、地面からツルが伸びて、私の足に巻きついていた。
(ほんっと、うざいっ!)
力任せに引き千切る。
その瞬間、四方八方から炎や氷に風の刃、挙句には岩の礫などが一斉に私に襲いかかる。
「っ、『リース』!」
新しい剣を召喚し、左手で持つ。そして地面へと突き刺せば、周囲の地面から巨大な岩が飛び出す。
それにより攻撃を防ぐが、今度は頭上から──
「きゃぁぁぁあああ!?」
ドコォォォンッと、落雷が落ちる。ダメージはそこまで高いとはいえないけど、まともに受けてしまったことで身体が麻痺する。
その間に周囲の地面が砂へと変化し、更に地面からツルが伸びて、再度私を拘束する。
(ちょっ、生き埋めにする気!?)
遊び感覚だったのが災いする。
さっきまでの和人は防戦一方だったはずなのに、気づけば私が和人の攻撃を対処するのに手一杯となっていた。
(手数が多すぎる!)
まるで、一人で軍隊と戦ってると気分になる。
そもそも、なんでここまで動きが良くなったの?
「り、リース!!」
そう叫べば、足元から岩が飛び出す。それにより空へと飛ばされることで、生き埋めを回避する。
纏:コノエ
ゾワッと、全身から鳥肌が立つ。
下を見てみれば、髪が業火の如く赤く輝き、深紅の和服を身に纏った和人がいた。
(何、あれ……)
でも、これだけは分かる。
あれはマズい。
遊び感覚で戦っていい代物じゃない。
(和人の切り札? 式神使いって、ただの雑魚クラスじゃないの?)
そんな考察をするが、すぐにそんな余裕が消えることになる。空中で満足に回避出来ない私に向けて、和人は横に刀を振るう。
すると、膨大な熱量を持った斬撃が放たれた。
「ヤバッ」
すぐさま私も、空中で魔力を込めた斬撃を放ち、和人の斬撃がぶつかる。どういう原理かは知らないけど、多少強くなったところで、私の一撃には──
「は?」
次の瞬間、私の思考は停止する。何故なら和人が放った斬撃が生きていたからだ。
つまり、私の放った斬撃は負けたことになる。
「焼き斬れ」
スドォォンと、俺の放った斬撃が永久の斬撃を下し、永久へと直撃する。激しい轟音が鳴り響き、そのまま永久は燃えさかる炎を纏いながら地面へと墜落する。
炎熱による煙でよく見えないが、称号による補正もある以上、かなりのダメージを負ったはずだ。
(俺を舐めてるからそうなるんだよ、永久)
遊び感覚のやつほど、動きは詠みやすい。
駆け引きもせず、ただ避けて斬る。それだけだからだ。
魔力による斬撃だってそうだ。
最初こそ、防ぎ切れず避けるので手一杯ではあったが、中途半端な攻撃であれば、対処はいくらでも出来る。
例えば、スイの身体を分厚い半固形状にするのではなく、薄い膜を何層にも重ねるようにする。そして層の間を、式神借力で借りたフェルンの氷で挟む。
こうすれば、より防御力が向上するし、絶えずスイの自己再生と氷を生み続ければ、防ぎ切れる。
本気の一撃だったら、こうはならないだろうけどな。
でも、そんな永久だからこそ、回避先や攻撃タイミングなどを予測することができた。
どれもが、遊び感覚であるがゆえの慢心だ。
(『纏』解除まで……、あと103秒)
これまでは一撃に全てを使い切っていた。だから今回が初めての『纏』使用下による全力戦闘になる。
(後ろには藤宮さんが見ているんだ。お前との約束、今ここで果たさせてもらう!)
刀を構え、魔力を脚に集中させた後、地面を蹴る。足元から炎が噴き出し、ジェット噴射の如く、永久が落ちた方向へと一気に走り出す。
追撃の手を止めず、永久を斬ろうとするのだが──
「むっかついたぁぁぁぁぁ!!」
突如目の前から、莫大な量の魔力が放出される。
その中心には、さっきの一撃でところどころ火傷を負った永久がいた。
明らかにさっきまでの、遊び感覚だった永久とは違う。
(ようやく本気になったか! だがこのまま押し切る!)
「はぁぁぁああああ!」
武器を構えていない今が好機。そのまま永久へと接近し、炎を纏わせ威力を底上げした刀を横に振る。
第一秘剣:絶氷剣
「っ!?」
パキンッと、一瞬にして周囲に放出していた焔が凍てつく。
(なに、が……)
そこには当然俺も含まれていて、『纏』でコノエを憑依させて何十倍にも炎の力を増幅させているにも関わらず、この凍結を溶かすことが出来ないでいた。
いや、正確には溶かせているのだが、溶かしたそばから再度凍結させられているというのが正しい。
『纏』中は、その威力から、俺自身が第Ⅷ階位の魔法になっているといっても過言じゃない。その俺を?
「あぁ~あ。まさか和人に、私の秘剣を見せることになるだなんてね」
「これはね、『剣王創成』っていうもう1つのスキルで創った私だけの剣だよ」
「その中でも最高と言える剣が4本あって、絶氷剣はそのうちの1本」
「和人のソレ、第Ⅷ階位相当の何かでしょ? 変質、憑依。式神使いだから憑依かな? それで格段に強化してるようだね」
「でもごめんね。絶氷剣の前では無力なんだ。対人特化で、半径2m圏内に限り、私より1つでもステータスが劣る者は、無条件で凍結させる」
(ステータスが、劣る者は……無条件、だと?)
辛うじて、耳に入ってくる情報には脱帽しかない。
そんなの、今の俺にはどうしようもないに等しい。
「でも、私より強くなろうと頑張ってるのは理解したよ。切り札の1つを使わせるくらいには強くなってただなんて、正直驚いちゃった」
(くそっ、まともな戦いすら出来ないのか……)
力の限り、炎を身体中から放出し、なんとか身動きが取れるようにしようとするが、凍結速度の方が速くて、何も出来ない。
(皆、頼む!)
有効射程が2mであるというのなら、遠距離から攻めて、永久をこの場から動かせばいいだけだ。
万雷や牛頭鬼といった式神たちが各々出来る限りの遠距離攻撃を行う。
「もう無駄だよ。リース」
もう一本の剣を地面へと突き刺せば、そこから周囲に岩が現れ、式神たちの攻撃を防ぐ。だがそれは一度見たものだ。
それなら、さっきと同様、頭上からなら──
「だからもう無駄なんだって」
永久の頭上から万雷の落雷が落ちる。
だが永久が纏っている魔力を突き破ることが出来ず、弾かれてしまった。
「さっきみたいな油断はもうしないよ。小細工なんて要らない。圧倒的な魔力があれば、大抵の攻撃なんて効かない。これは戦いにおける大原則」
「でも、ここまでやっても『ゼロ』にはまだ届かないんだよね。まぁそれはいいや」
──そろそろ、終わらせよっか
「とりあえず合格ってことで! おめでと、和人♪」
スッと、永久は剣を横に振る。その速度はとてもゆっくりに感じる。まるで死ぬ直前にあるという走馬灯のようだ。
(死ぬ。何も出来ず、無力のまま死ぬっていうのか?)
ふざけるな!
こんな初見殺しで負けることだけは認めない。
負けるにしても、せめて本気の永久に一太刀は食らわせてから死ね!
じゃないと、永久に勝つなんて一生無理だろ。
だが、凍結速度の方が速すぎて、どうすれば?
(……凍結速度が速い?)
違う、逆だ。
凍結速度が速いだけで、溶かすこと自体はできていた。
であれば、もっと熱く燃やせばいい。
奴の剣による凍結速度を上回れるだけの熱量を、この身体から出せばいいだけの話だ。
それができる可能性は一つしかない。
(どうせ死ぬっていうのなら、やってやる。腕だけでもいい。意地でも動かせ!!)
そもそもここは精神世界。死んだところで現実に影響なんてないんだ。
覚悟を決め、その技の名を、心の中で唱える。
絶焔!!
「っ!?」
ピタリと、永久が振るった剣は、俺の首筋に触れるギリギリのところで止まったかと思えば、次にはバッと、後方へと下がる。
「ちょっ、嘘でしょ!? なんで動けるの!?」
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁぁぁぁあああ!!」
絶焔は、50cmという極端に短い距離までしか放出できない代わりに、触れればその周囲を完全滅却する終わりの焔。
瞬間熱量でいえば10000℃に達する。
掌か刀から放出するのが基本だが、それを俺自身に向けて放つ。
本来なら使った瞬間に、俺の身体は灰も残らず消え去る。だが、永久が持つ剣の力によって、俺の身体は瞬時に凍結する。
滅却と凍結、その二つの力が、ほんの僅かな間だけ拮抗し、俺の身体を凍結前の状態とした。
(怯んだ! このチャンスを逃すな!!)
『纏』解除まであと8秒。凍結が解除されたことで体勢は崩れてしまっているが、地面が割れるほどの力を入れて無理やり踏ん張る。
そして一歩だけ前に踏み込んで少し後方へと離れた永久へと接近する。追う形となっているが構わない。そのまま刀を振り切る動作へと入る。
「っ、ほんとに往生際が悪いんだから!!」
すぐさま永久は落ち着きを取り戻す。
そのまま右腕のみで剣を振り上げ、地面が抉れるほどの力を足に込めながら、その場で迎撃に出ようと動き出す。
けど僅かに、俺の刀の方が先に届く。
「とどけぇぇぇ!」
力の限り刀を振り切る。
同時にブシャァと、永久の身体から血が噴き出す。
けどそれは──
(左、腕……)
宙に舞うは、永久の左腕のみ。
そう、俺が斬ったのは永久の左腕だけ。
永久は致命傷を避けるため、魔力を纏わせた自身の左腕を盾のように使って刀の軌道をズラし、永久の胴へと入る距離を狂わせたのだろう。
まさに、肉を切らして骨を断つ。
俺を殺すため、左腕を捨てる選択をしたんだ。
最初で最後の好機を逃し、『纏』の効果が切れる。つまりは、絶焔による一時的な凍結解除の終わりを指し、俺の身体は再度凍てつく。
「こんな経験、初めてだよ。だから、ほんのちょっとだけ認めてあげるね、和人」
(くそっ)
その言葉とともに、今度こそ永久は剣を振り下ろす。
防御も出来ないまま、俺の身体は両断され、粉々に砕け散った。




