永久の目的② 幼馴染 VS 不適合者 Ⅰ
(重っ)
「ほいっ」
ブンッと、永久が武器を横に振るうと、俺は勢いよく後方へと弾き飛ばされる。たった一度、武器合わせただけで、まともに受け止めるのは不可能だと、理解させられた。
そもそもの話、先生から譲りうけた刀の白玖に耐久性なんてありはしない。
だからこそ、この一合だけ受ける気でいたのだが、それだけで彼我の実力差を実感してしまう。
(最低でも筋力は、2倍程度のステータス差があると思え!)
「ありゃ? 今ので弾き飛ばされるだなんて、和人は軟弱だなぁ」
そして永久は、まるで試し斬りをしているかのような、軽やかな口調のまま、走り出し追撃してくる。
(受け止めるな、受け流せ。見て、考えて、動け!)
体勢を立て直し、迎撃の構えを取る。
向こうからしたら、まだまだ様子見レベルなのだろうが、こっちからすれば、全力で挑まないといけない。まったくもって理不尽だな!
そうして、俺の前まで瞬時にやってきた永久は、なんの躊躇いもなく、手に持つ剣を振り下ろす。
(幼馴染を斬るのに、一切の躊躇なしか!)
まぁそれは俺も同じつもりではあるが、少しくらいは躊躇しろよと、思いたくもなる。
魔力操作で強化した白玖の刀身を、永久の剣へと当てる。そして身体全体を使い、上手く刀身を滑らせ、永久の剣を横へといなす。
「およ?」
「隙だらけだぞ!」
いなしたことで、僅かながらに永久の体勢が崩れる。そのまま追撃するため、刀身を翻し、斬り上げる。
「それ、隙とは言わないよ」
半歩だけ永久は後ろへと下がる。それだけで、刀の射程から離れ、俺の斬り上げは空振りする。
けど、こんなので斬れるだなんて思ってはいない。
半歩下がる時点で、そこには僅かながらに攻撃までの時間に猶予が生まれる。だからこそ、俺の攻撃はまだ終わっていない。
(ヤカデ!)
俺が念じると同時にヤカデが俺の足元から現れ、永久へと突撃を行う。
これまでにも、式神は俺の意識とは関係なく現れることがあった。つまり式神たちには、俺の周りを何らかの方法で視認もしくは、繋がりがあると考えるのが自然だ。
であれば、わざわざ名前を口に出さなくとも、俺の思考などを詠んだ式神たちが自身の意思で来てくれるのが道理であり、召喚までのタイムラグだって解消する。
(何もここ数日、休養してただけじゃないんだよ)
「うげぇ、蟲!?」
「式神だ!」
20体のヤカデが永久に突撃をするが、永久はそれを軽やかにジャンプすることで回避する。
言っておくが、そこはまだ安全地帯じゃないからな?
右手を永久の方向へと掲げ、念じる。
(イズナ、ヒバリ、アクウ!)
同型の鳥型式神たちが現れ、魔力操作で強化された翼が三方向から永久へと襲いかかる。
(空中じゃ、避けられないだろ!)
例えステータスで負けていたとしたも、多少は傷は負わせられるはず。そして地面に着地したタイミングで、様々な式神たちと共に、反撃の暇を与えないよう追撃をし続ける。
数手先までの行動をシミュレートするが、それが無駄なことであったと、すぐに理解することになる。
「へぇ〜、ちゃんと戦いにしようとしてるんだね。……でも、まだまだだよ! 剣拓解放」
「なっ!?」
永久が何かをつぶやくと同時に、防御行動もとらずに、右手に持つ剣でイズナを素早く斬り裂く。
そして同時に、ヒバリとアクウも、どこからともなく現れた複数の剣によって、貫かれてしまった。
「驚く暇、和人にあるのかな?」
フッと、頭上に影が落ちる。見上げれば、何十本もの剣が頭上に突如として現れ、降り注いでくる。
「ぐっ」
ズドドドンッと、降り注ぐ剣が地面へと突き刺さる。
剣が突き刺さった後の地面には、小さなクレーターが出来ていて、一本一本が、大砲の砲弾と見間違うレベルの威力を持っていると理解させられる。
(無数の剣を召喚。これが剣王の力なのか?)
考察をしたくとも、その暇がない。
無数の剣が絶えず降り注ぎ、それを回避するので精一杯だからだ。
「避けるのに夢中でいいの?」
避けるのに気を取られていると、永久が俺の目の前まで接近し、軽やかに剣を振るう。
応戦するが、剣戟の合間を縫って、左足、右脇腹、右頬と、次々と斬り傷が生まれる。だけどそのどれも傷が浅い。完全に遊んでやがる。
「がはっ!」
メキメキッと、永久の左拳が腹に突き刺さる。そして勢いよく拳を振り上げれば、空中へと殴り飛ばされた。
「知ってる? 魔力ってね、こういうことも出来るん……だよ!!」
魔力が剣に収束したかと思えば、永久は軽く剣を横に振る。すると一瞬の斬光と共に、斬撃が放たれた。
(マズい! ……スイ!!)
クラゲ型の式神、『スイ』を召喚する。そしてスイは半個体状態の水へと変化し、俺を包み込む。それと同時に魔力操作でスイを強化する。
次の瞬間、放たれた斬撃がスイの身体とぶつかり、みるみると斬撃が俺の方へと迫ってくる。
(俺の魔力を、遠慮なく使え!)
スイの能力は二つある。
一つは身体を水や、ゼリーみたいな半固形へと変ずる能力。そして二つ目は、俺の魔力を消費することで、自己再生が行えるというもの。
魔力消費は重いが、削られる速度より、再生速度が上回ることができれば、完全に防ぎきれる代物だ。
だが──
(再生が間に合わない!?)
それほど魔力を練ってるようには視えなかった。にも関わらず、永久が放った斬撃は俺たちの防御力よりも強く、少しずつ迫りくる。
「スイ、水の道を作ってくれ!」
そう指示をすれば、横に小さな道が生まれる。そしてそのまま水流に乗って、斬撃の射程から脱出することに成功する。
「おぉ〜、よく生き残れたね。でも、まだまだだよ!」
地面に着地するまでの僅かな間に、永久はさらに剣を召喚し、射出する。
(チュン、頼む!!)
──チュチュン!!!
すかさずチュンを呼び出し、全方位に、数百の障壁を展開することでそれを防ぐ。見た感じ、3つあれば1本は防げるようだ。
「プラン、ドグモグラ!」
地面へと着実すると同時に、今度は口に出しながら、新たに式神を召喚する。
──!!
──シャァァァア!
そしてプランは、俺たちの周囲をツルでドーム上にして囲む。
(音が…………止んだ?)
どういう意図があるのかは知らないが、永久は俺への攻撃を止めたらしい。どうも永久からは俺を試しているかのように感じる。
(永久からしたら、遊び感覚ってことか)
なら、その油断を大いに活用しよう。
一度息を整え、次の作戦を式神たちに伝える。
「プラン、合図と共にツルを解いて地面に潜っていてくれ。隙があれば遠慮なく足止めを頼む」
「チュン、常に俺の傍から離れるな。俺が避けられない攻撃にだけ障壁を集中。ドグモグラ、次の攻撃にはお前の力が頼りだ」
──チュン!
──シャア、シャアア
──!!!
「…………よし、今だ!」
その言葉とともに、プランは地面へ潜り、チュンを肩に乗せながら、走り出す。
「へぇ〜。隠れるの、止めたんだ」
それを見た永久は、左腕で何かを飛ばす指示をするような動作をすると、さっきと同様に無数の剣が降り注ぐ。
(まるで大群と戦ってると気になるな)
一体何十、何百の剣が降り注いでいるのかは分からない。必死に避けながら永久へと近づく。
それと耳からは、絶えず障壁が割れる音が聞こえてくる。こんなペースでは、すぐにチュンの魔力が切れてしまう。
今は、再召喚に必要な一瞬の時間すら惜しい。
チュンの限界が来る前に、永久の射程内に入る必要があった。
であれば──
「式神借力。万雷!」
待機中の万雷から、雷の力を借り受ける。そして魔力操作とともに、その力を脚へと集中させる。
次の瞬間、パリッと、通常の数倍の速度を以て、永久の懐へと一瞬で潜り込むことに成功した。
「っ!?」
流石の永久も、これには驚いたようで、一瞬だけ目を見開く。けど、そこは流石1等星というべきか、驚いたのは一瞬なだけで、すぐさま構えた剣を振り下ろす。
(ここだ!)
カクンッ
「うひゃ!?」
突如、永久の右足の周囲が砂へと変化し、地面へと沈む。
その原因は、プランたちと一緒に召喚した『ドグモグラ』にある。こいつは、地面を砂に変えることが出来る。
流石に機械が多い所などは不可能だし、水辺などでもその真価を発揮することは出来ない。
だが、砂に変化することが可能な場所であれば、これほど対人に対して有効な手段もないだろう。
だが永久は、バランスが崩れたにも関わらず、そのまま力任せに剣を振るおうとするが──
「なにこれ!?」
後ろからプランが伸ばしたツルが永久の腕を捉え、動きを封じる。
(完全に止まったな!)
そしてそれを見逃す俺じゃない。今度こそ永久に目がけて刀を振り上げる。この一撃、避けられはしない!
──ザシュッ
「っ、こんのぉっ!」
ブワッと、魔力を身体中から放出する。それに当てられた俺は後方へと吹き飛ばされる。
そしてその間に永久は沈んだ足を抜き出し、ツルを引き千切る。そしてパッパッと、足元に付着した砂を払い落とす。
けれど、永久の左胸から右肩にかけて斬り傷が出来ていて、ポタポタと血が確かに流れ落ちていた。
「ふぅぅ、ようやく一太刀か」
「私を斬るとか、和人のくせに生意気! っていうか、今の何!? いきなり速くなったよね?」
俺に確認を取りつつ、永久は左手で傷口に触れる。するとポワッと魔力が発せられ、傷を塞いでいく。
(回復魔法……。でも見た感じ、そこまで性能は高く無さそうだな。応急処置レベルとみるか)
「式神の力を少し借りただけだ。まさか、卑怯とか言うのか?」
「そんな子供っぽいこと、するわけないじゃん。次からはそれ込みで動けばいいだけだし」
「それに、この砂だってそう。ただ地面を砂に変えるだけなら、魔力で足を保護しちゃえば、ある程度踏ん張りも効くんだから」
たった一度でドグモグラの攻略法が見抜かれてしまった。ドグモグラはサポートに特化していて、地面を砂に変えて奇襲をしかける目的で作った式神だ。
けど種がバレてしまえば、割と対処はしやすい。これは今後の課題だ。
「俺も1つだけ聞く。さっきの攻撃、あれが剣王の力か?」
「そうだよ。剣拓解放。剣王の基本スキルだよ。私はね、様々な剣をコピーすることが出来るの。そこにはその剣が持つ能力だって反映される」
「この『ユピテル』っていう両刃の剣もそう。本来の担い手は、3年前に死んじゃったし、剣も折れちゃったけど、その前に剣拓を取ってコピーしたの」
「この剣の良い所はね、魔力消費が1/5にまで減少することなんだよ? ほんと使いやすいよね〜」
「まぁ、手に持つ間だけしか、コピーした能力は使えないから、基本は適当に飛ばすのが最適だけど」
(剣のコピー。一度は誰しもが考えるロマンだな)
壊れてもコピー品で問題ないから、射出しているというわけか。なるほど、コピー品ならではの使い方だな。
「み〜んな、剣王って聞くとさ、剣を扱うクラスの頂点みたいに想像するんだけど、実際は違う。私はね全ての剣を携える、剣の王様なの」
「ね? 英雄に相応しい能力だと思わない?」
昔から変わらず、どこまでも英雄に拘るな。
「そうか? 前にも言っただろ。そんな形だけの英雄に意味なんてない。人知ず誰かを救い、偉業を成した者が、遠い未来で英雄って呼ばれるんだよって」
「うわ、懐かし〜。まぁいいや。少しは戦えるようだし、これは少し、認識を変えようかな」
(永久の纏う空気が変わった? …………っ!?)
フッと、永久の姿が音もなく消える。
次の瞬間。パリンッと、後ろからチュンの障壁が割れる音が聞こえたかと思えば、後ろから永久の剣が、俺の顔の真横を通り過ぎる。
そしてその剣先には、串刺にされたチュンがいて、同時に俺の肩から血が流れる。
「ぐっ」
「お返し♪」
すぐさま永久から距離を取る。
(なんだ、今の速度は!?)
魔力感知には何も視えなかったことから、魔力操作による脚の強化ではないのは確か。
一体何が?と永久を見てみれば、永久が持つ剣が、さっきまで持っていた剣と違うことに気づく。
「その剣」
「あ、気づいた? 瞬剣──『サクヤ』。この剣を持つとね、普段より10倍くらい速く動けるんだ。もちろん魔力操作による強化も出来るよ」
「本来の担い手だった人は、1ヶ月くらい扱うのに苦労してたらしいけど、1日もあれば余裕だったね♪」
10倍も速くなるというのなら、その人が苦労していたのも分かる。
(俺だって、何度も藤宮さんに全能力向上をかけてもらい、高速戦に慣れるまでにはそれに近い時間を要したんだぞ)
「それは和人に才能がないからだよね」
「平然と俺の思考を読むな! つか、なんで今ので俺を殺さない」
「えぇ〜、すぐに殺したらつまらないじゃん? そもそもこれは、私の依頼に耐えられるかのテストでもあるんだから」
「どこまでも遊び気分だな」
「それくらいの実力差があるってことだよ。理解した? 後1年で私より強くなるだなんて、無理だよ?」
「お生憎と、諦めが悪くてな」
「そっ。でも、この程度の速度に追いつけないようじゃ、いつまでも勝てないよ?」
「舐めるなっ!」
牛頭鬼と馬頭鬼を召喚する。そしてフェルンやレンゲなども続けて召喚し、再度スイも召喚する。
(万雷は常に、俺に力を貸してくれ)
さっきは脚のみを強化したが、今度は脚の他に目にも万雷の力を回し、動体視力も一緒に強化する。
式神借力に欠点があるとすれば、待機中の式神からしか力を借りれないところだろう。雷系統の式神を増やす必要があるな。
(『纏』は……まだダメだな)
切り札を早々に切って、攻めきれなかったら目も当てられない。むしろそれで本気になった永久に、理由も分からずやられる方がマズい。
だから、まだ永久が遊び感覚である今のうちに、少しでも多くの情報を引き出すべきだ。
そのためにも、式神たちと一緒に間髪入れず攻め続ける必要がある。
であれば、やることは一つしかない。
(常に近接戦あるのみ!)
「おぉ~、沢山式神を出したね」
「余裕でいられるのも今のうちだぞ」
「あははは、やってみなよ。全部斬ってあげるから」
「それは…………、こっちのセリフだ!!」
万雷の力を借り、現状出せる最高速を以て永久に接近する。
すると永久も、手に持つ剣の力で俺に接近する。
互いに最高速。その中での剣戟が始まり、第2ラウンドが開始された。




