永久の目的① 腕試し
─── 夢現の世界 ───
「本当にやるのか?」
夢現の世界へとやってきた俺たちは、そのまま精神世界に入る。
そして現在、俺と藤宮さんは武器を手にしている永久と対面している。
何故ここにいるかと言えば──
「もちろん。まともに戦えないんじゃ、私の依頼には同行できないよ? ……まぁそれは建前で、今の和人がどこまで出来るのか、見てみたいんだ〜♪」
「まったく……」
どう考えても、そっちが本命にしか聞こえない。
そういえば、永久は結構、勝負事が好きだったのを思い出す。
でもまぁ──
(今の俺がどこまで1等星に、それも、永久相手に戦えるかは確かめたかったからいいか)
約束の期日まであと1年。そのためのデモンストレーションと考えれば、これほど美味しい話はない。
そう、俺と永久はこれから戦うことになった。
俺と永久が、何故ここで戦うことになったのか、それは今から2時間ほど遡ることになる。
─── 2時間前 ───
「やっほ〜、和人。約束通り来たよ〜」
放課後、高校から少し離れた所で永久から声をかけられる。どうやら朝のことを反省して、周りに迷惑がかからないよう配慮したようだ。
「よく言う。ほとんど強制だっただろ」
「良いじゃん、良いじゃん。私たちの仲でしょ?」
「はぁ……」
本来なら感動的な場面なんだろうが、こと永久に限っては違う。
会えて嬉しいという気持ちは、まぁなくはない。
なにせ、7年ぶりに再会したんだからな。
だがそれ以上に、めんどうと感じる自分がいる。
よくもまぁ昔の俺は、この傍若無人の永久を捌いてこれたなと、感心するレベルだ。
「少しは神薙君の事情も考えたらどうなの? 私たち、これからダンジョンに行こうと思ってたんだけど」
俺の前に出た藤宮さんが、永久に文句を言う。というか、永久に対して少し強気に出てないか?
そんな藤宮さんを前に、永久は少しだけめんどくさそうな表情を浮かべる。
「ねぇ、和人。なんでこの女もいるの?」
「この女じゃないです。藤宮咲っていう立派な名前があるんだよ? 人付き合いは、きちんとした方がいいよ、永久さん」
「ぐぬぬぬぬ、はぁ……、まぁいいや」
(これは、藤宮さんの1勝でいいのだろうか)
女同士の戦いは怖いと聞く。
藪蛇をつついて、燃え上がるのだけは避けたいので静観しているのだけど、二人の雰囲気はとてもじゃないが、良いとは言えないな。
「ダンジョンに行くんでしょ? 私が依頼されていることもダンジョン関連なんだから、別にいいでしょ?」
「……その依頼って?」
永久の等級は1等星だ。
その守護者に依頼があったということは、それなりにヤバい案件なのではと、想像がつく。
「それはまだ秘密。そもそも、まだ連れていくとは言ってないよ?」
「「は?」」
二人して声を揃える。
連れていくわけじゃないのに、俺たちに依頼について、ぼかしつつも話すという、そんな永久の意図が掴めず不思議に思っていると、してやったり顔をしながらあることを話す。
「ふっふぅ〜ん。連れていくかどうかは、これからやることをしてからだよ」
「……何をやらせるつもりだ?」
「そんなの決まってるじゃん。私たちは守護者だよ? それに防衛戦に参加したって言うのなら、もう分かるでしょ?」
「お前、まさか……」
「永久さん、もしかして……」
(永久の奴、本気で言ってるのか?)
確かにそれなら、互いの実力を測ることは可能だ。それにあそこでなら、死んだところで数時間の間、目が覚めないだけで済むから、理にかなっているとは言えるが……。
「何、怖気づいた?」
そして永久は、俺に挑発するような言葉を投げる。
こいつは俺の性格をよく理解している。
怖気づくだと?
俺が永久に?
「ふざけるな。俺がその程度で怖気づくと思ってるのか!?」
「だよね〜。実はもう向こうには話は通してるし、そろそろ迎えも来ると思うよ」
ずいぶんと用意がいい。
元々こうする気だったな?
「用意がいいんだな」
「そりゃね。せっかく和人と殺し合いが出来るんだから、準備くらいは済ませるよ」
「永久さん。貴女は神薙君と戦うことに抵抗はないの? 幼馴染なんでしょ?」
「なんで? 私の和人なんだから、何したって大丈夫でしょ」
「私のって……、神薙君は永久さんの物じゃないでしょ! そうだよね、神薙君!!」
「そ、そりゃな」
「そうだよね」
ニッコリと笑みを浮かべる藤宮さんが、少し怖い。
「ちょっと、約束が違うじゃん!」
「それは1年後の話だろ。そもそもの話、お前より強くなるんだから、無効だ」
「無理なんだから、諦めればいいのに〜」
「いつまでも余裕ぶっこいてると、足元をすくわれるぞ」
「あははは、ないない」
本当にこいつは、どこまでも自分だな。
半ば呆れていると、クイクイッと、藤宮さんは俺の袖を引っ張る。
「神薙君、気になってたんだけど、約束って?」
「移動しながら話すよ。……他愛もない、子供同士の約束さ」
「もったいぶる必要なくない? 和人が18になるまでに、私より弱ければ一生私のために生きるって約束しただけ。だから早く、私の和人から離れてほしいんだけど」
「ふぇ!? 神薙君、そんな約束をしたの!?」
「……まぁな」
当時はまさか、不適合者になるだなんて思っていなかったからな。とはいえ、なってしまったものはどうしようもない。強くなる見通しては十分経ってるんだし、不可能ではない。
「そんな大切な話、なんで言ってくれなかったの?」
「た、タイミング、かな?」
「嘘。どうせ何とかなるからって、黙ってたよね?」
「…………」
ここ最近、藤宮さんの俺に対する理解度が上がって来ている気がする。
「ちょっと! 私の和人とイチャイチャしないでよ!」
「イチャイチャってなんですか! 私はただ大切な仲間として当然のことを──」
右腕に永久。左腕に藤宮さん。二人が俺の腕を掴んで引っ張る。
端から見たら羨ましい光景なのかもしれないが、やられている身からすれば、たまったものじゃない。
(なんで、こうなった……)
それからもギャアギャアと二人が騒いでいると、『永久ちゃん、何してるの?』と、女性の声が聞こえてくる。
「……んん? あ、茉莉さん!」
パッと、俺の腕を離し、その人の所へと永久は向かう。まったくもって自由だ。
それにしても、格好からして守護者協会の人だろうか。ずいぶんと、永久と親しげだ。
「久しぶり。早かったですね」
「1年ぶり? また綺麗になったね」
「そりゃね。それで準備は?」
「整ってるわよ。…………ところで、その2人が?」
茉莉さんと呼ばれている人は、俺と藤宮さんを見る。そして『不適合者じゃん』と、つぶやく。
「どうも」
「はじめまして」
「永久ちゃん。どういう関係? 不適合者と親しいだなんて」
「そっちの女は違うけど、和人は将来私の旦那になる男の子だよ」
「あぁ。前に言ってた王子様って奴ね。ふぅ〜ん、笹倉さんが目をかけてるらしいけど、強いの?」
「さぁ? それを確かめるために、夢現の世界に行くんだから」
(やっぱ、あそこに行くのか……)
にしても、この人もこの人で、結構言うタイプだな。てっきり協会には俺たちの存在は認知されてると思ってたけど、違うのか?
(そういえば、まだ2等星への昇格通知、来てなかったな)
「神薙君。あの人に魔法を撃ってもいいかな?」
「…………流石に問題になるから、止めような」
割とマジな目になっていたので、冷や汗が出る。
今日会ったばかりだというのに、永久が関わると、藤宮さんが少しだけ怖くなるから、不安になる。
「準備は済んでるよ。でも、永久ちゃんが戦うって情報が、どこからか漏れたらしくって、見学人が来てるけどね」
「うへぇ〜、めんどくさ」
(ぜってぇ、嘘だな)
あの局員の表情からして、面白がって守護者たちに流したと察せた。
そもそも1等星の戦いだ。
それだけで金が取れるんじゃないのかと思うくらいには、かなり貴重なことだからな。
「それじゃ行こっか、和人。……そっちは来なくてもいいからね」
「行きます!! 神薙君を1人にはしません!」
「あっそ」
つまらなさそうに、永久は局員が乗ってきた車の中に入っていく。
「不適合者の君たちもどうぞ」
「「…………」」
藤宮さんと顔を見合わせながら、大人しく車の中に入っていく。そうして俺たちは、再び協会経由で、夢現の世界へと向かうことになった。
─── そして現在 ───
(にしても、凄い人数だったな)
夢現の世界施設には、永久の戦いを観戦しようと、多くの野次馬がやってきていた。
更にはどっちが勝つのかと、賭けを始めてる者すらいる始末だった。
ちなみに俺の倍率は10倍で、誰一人として賭ける者はいなかったけどな。※藤宮さん以外
色々気が滅入っていると、後ろから藤宮さんが声をかけてくる。
「神薙君。本当に私は戦わなくていいの? 全能力向上を使えば……」
「いいんだ。永久に限っては、自分の力で勝たないと意味がないからな」
「だから藤宮さんは、そこで見ていてくれ」
「……分かった。でも、絶対に勝ってね」
「難しい要望だなぁ。でもまぁ、まかせろ」
藤宮さんから離れ、永久に向き合う。
こうして永久と勝負するのは、久しぶりだな。
でもそれは、鬼ごっこやじゃんけんとかの遊びであって、こうして守護者として戦うのは初めてだ。
「いいの? せっかく勝てるチャンスかもしれないのに」
「そんな勝利に、意味ないだろ。それに、藤宮さんも参加すれば、お前、真っ先に殺しにかかるだろ」
「まぁね〜。でもまぁ仮に20倍強くなろうとも、私が勝つけど」
ほんと、どこまでも自信満々だな。
だが俺と永久の間には、かなりの差があるのもまた事実。
だとしても──
「いつまでも余裕でいられると思うなよ」
「ん?」
何言ってんの?と言いたげに、永久は首を傾げる。
いつまでも俺を、弱い人間だと思うなのよ。
「別に、今日永久を倒して、約束を果たしたっていいんだぞ」
何も出来ず、負けるつもりなんて微塵もない。
やるからには勝ってみせる。
「……ぷっ、あははは! 本気で言ってるの?」
「俺が冗談を言ったこと、あったか?」
「なかったね。じゃあ、どこまで強くなったか、見せてもらうよ!!」
ブワッと永久から魔力が迸る。
それに呼応して、俺も魔力を放出し、臨戦体制を取る。
次の瞬間、互いに地面を蹴り、武器を抜く。
そして互いの武器をぶつかり、激しい火花が散る。
永久との1度目の戦いが始まった。




