幼馴染との再会③ 幼馴染との再会
「おはよう、藤宮さん」
「へひゃ!? …………あ、うん。おはよう、神薙君……」
翌日の水曜日。登校中の藤宮さんに声をかけたのだが、驚かせてしまったらしい。
けどなんだろう、藤宮さんの顔が赤い気が……。
「顔、赤いぞ。もしかして、熱?」
「ちちちち違うから! 神薙君は気にしなくていいからね!?」
「お、おう……」
明らかに様子がおかしい。
藤宮さんが身につけてるポーチの中にいるグレイに視線を向けるが、憎たらしいほどに首をかしげるだけで、何も知らないらしい。
「グレイちゃんは何も知らないからね!?」
「そ、そうか……」
なんだか、先生の所に行った日のことを思い出すな。まぁあまり詮索しない方がいいんだろう。
「それより、今日からまたダンジョン攻略を再開しようと思うんだが、どうかな?」
「え!? ……あぁ、うん。私は大丈夫だよ。神薙君の方は、式神たちはもう大丈夫なの?」
「あぁ。チュンたちもこの間、復帰したからな」
「そっか。後で私もお礼を言わないとだね」
「そうしてくれ。次の防衛戦は中国だから、来週の選抜試験日は、誰を送るかになるだろうな」
あの国が、俺たちをすんなり受け入れるかについてはまだ分からない。ニュースでもそういった話でもちきりで、注目の的となっている。
「また……、ああいうことがあるのかな?」
「どうだろうな。とはいえ、やることは変わらない。それに、次は市街地戦が想定される。正直、どこまで戦火が広がるかも分からないから、覚悟だけはしておくべきだな」
「……そうだね。もっと強くならないと! あ、そうそう、あれから少し考えてたんだけど、次に取るのはやっぱり──」
どうやら調子を取り戻したらしい。
それからはお互いに、スキルやダンジョン、学校の授業などについて話しながら、学校へと向かっていった。
***
「はぁ……、また変な目で見られるのかな?」
「あんなの、気にするな」
「でもぉ……」
そこの曲がり角を曲がれば、正門が見えるところまで来た途端、藤宮さんは何やらげんなりしだす。
どうもこの間の防衛戦から、他の生徒たちが、俺たちに対する認識を改めたらしい。それで俺や藤宮さんに、どうにかして取り入ろうとする輩が出てきた。
本来ならまともに戦うことが出来ない不適合者。
そんな奴らが防衛戦に参加して生き残った。更には活躍してきたと聞かされれば、態度を改めようとするのも、まぁ分からなくはない。
(とはいえ、掌を返すにしても、露骨にもほどがあるけどな……)
拓真のように実際に手合わせして肌で感じる者。
常世先輩や藤堂のように元々思うところがあった者。
そういう人たちは、自分の中にある物差しで他人を測れる奴らだからいい。
だが、結果だけで判断する奴らは、その限りじゃない。まったくもってめんどうだと思う。
「大丈夫だって。変に絡んできても、俺に流せばいいんだから」
「それは、そうなんだけど……。なんていうか、あの辛さを知っちゃうと、どうしてもね」
「参加してない人らはそんなもんだろ。俺だって、参加前後で認識を大きく変えたしな」
「そうだよね。うん、じゃあその時はお願いしていい?」
「任せろ」
ポンポンッと、藤宮さんの頭を撫でる。
「もぉう、子供じゃないんだからね!?」
「あははは、悪い悪い」
少し頬を絡め、頭を手で隠しながら、藤宮さんは文句を言う。
なんというか、心地良い撫で心地だから、ついついやってしまう。
付き合ってすらいないのに、俺は一体何をしているのだろうか。
(まぁ、藤宮さんも満更じゃないようだし、いっか)
そんな感じに楽しく会話をしながら、曲がり角を曲がる。そろそろ学校に到着するといったところで、ある異変が目の前に広がっていた。
「ん? なんだか、人集りができてるね」
「そうだな」
正門前には、うちの生徒たちが集まっていて、何やら中に誰かがいるかのように、好奇の目で何かを見ている感じだった。
「有名人でも来てるのか?」
「どうなんだろう?」
不思議に思いつつ、正門前まで歩くと、『咲ちゃん、神薙!』と、俺たちに気づいた葉隠が声をかけてくる。それと一緒に鈴木も。
「おはよう、葉隠ちゃん。それと鈴木君も」
「うん、おはよう」
「おはよう、2人とも」
「あぁ、おはよう。ところで、あれはなんだ?」
「ある守護者が少し先に立っててさ、サインとか貰おうと人集りが出来てるんだ」
「ある守護者?」
「それも、かなり有名人のね」
「葉隠ちゃん、誰なの?」
「それがね──」
──そろそろいいかな? 私、ある人を待ってる最中で、こんなに人が集まってると、すれ違っちゃうからさ
「っ!?」
葉隠がその人物の名前を言う前に、かすかに聞こえてきたその話し声。
2ヶ月前に聞いた声と寸分違わない。
いや、例えそれがなくとも、俺が聞き間違えるはずがない。
この声の持ち主が、誰であるのかを。
「神薙君?」
「神薙? どうしたの」
「お前、どうした?」
「悪い。少し強引だが、押し通る」
「はぁ? …………って、ちょっと! 何いきなり魔力なんか放出して──」
葉隠の言葉を無視し、一気に魔力を解放する。
ステータスの制限を受けようとも、魔力量だけはどうしようも出来ない。
そして、俺が放った魔力に驚いた生徒たちは、一斉に俺を見て怯む。これで先に進めるだろう。
(なんのつもりでやってきた)
「か、神薙君?」
「少し、知り合いに会ってくる」
「え? ……あっ、ま、待ってよ、神薙君!」
生徒たちが怯んだ隙に、先へと進む。どうやら奥の方まで俺の魔力を感じ取っていたのか、全員が萎縮しているようだ。
ただ一人を除いて。
ドクン、ドクンと、心臓が脈打つ。
あいつと施設で別れてから、既に7年経っている。
それから今日に至るまで、一切音沙汰がなかった。
実際は守護者に覚醒する前、俺から何度かコンタクトを取ろうとした時もあった。
だが、養子先の家族がそれを拒否していたこともあって、結局会うことは叶わなかった。
だというのに……。
「神薙君? だ、大丈夫?」
「気にするな。それと……、少し見苦しいところを見せるかもしれない」
「え?」
そうして先へと進めば、その人物は俺の魔力を感じていたからなのか、こっちを向いていたので立ち止まる。
ブロンド色の綺麗な長い髪、背はギリギリ160に届かないくらいだろうか。にも関わらず、女性らしい体型で、誰しもが可愛いと言うだろう。
以前ビルのモニターに流れていたインタビュー映像で見た時と変わらず、すっかり美少女となったあいつがそこにはいた。
「あの人って……。あ、あれ!? 確か神薙君って……」
どうやら藤宮さんは気づいたらしい。
それはさておき、互いに見つめあう。
向こうは訝しげに俺のことを見ているが、次第に誰なのかについて察しがついたようで、徐々にその表情が明るくなってくる。
そして──
「かっっずと〜〜〜〜!!」
魔力で脚を強化し、物凄い勢いで俺へと迫りくる。そしてそのまま、俺に抱きつこうとするので──
「いきなり抱きつこうとするなっ!!」
「ぶぎゃあ!?」
カウンターの要領で、その額に拳を乗せる。すると豪快に、永久は後方へと殴り飛ばされる。
「──────」
その光景に藤宮さん共々、この場にいる生徒たちは唖然とする。
だがそれは知ったことじゃない。
どうせ永久のことだ。
この程度では──
「かっっずと〜〜〜〜!!」
やはりな。
さっきと同じく、俺に抱きつこうと迫りくる。
仕方ないので、こっちも魔力で脚を強化し、避けようとするのだが、足が動かない。
すぐさま足元を見てみれば、俺の足と地面が光の糸で縫い止められていた。これでは逃げられない。
(拘束魔法!?)
そんな兆候、一切感じることがなかった。
いつの間に仕掛けられたのかと、気を取られる。
「しまっ」
拘束魔法に気を取られていた俺は、永久の突進に対して成すすべがない。
つまりは──
「ひゃぁあああ!? 和人だよ、和人! 7年ぶりだね! 生意気にも私を殴るだなんて、弱い和人のくせに、やるね〜〜!」
「…………」
「というか、少しカッコよくなった? そうだよね、そうだよね! あれから7年も経ってるもんね! うわぁぁ、懐かしい〜〜」
「…………」
動けない。
こいつ、どんな力をしてやがる。
そもそもここは既に学校内。ステータスがレベル20相当まで下がってるんだぞ?
にも関わらず、永久の力は俺よりも遥かに強かった。
「永久」
「ねぇねぇ、この間の防衛戦、活躍したんでしょ? どんな敵だったの? 和人程度が活躍出来るってことは、相当な雑魚だったの?」
「永久」
「聞いてよ、和人。お義母様がさ、不適合者なんかに会うなって言うんだよ? 酷いよね。散々私たちが会うのを邪魔してたくせにさ」
「永久」
「それでね、それでね! ムカついちゃったから、ついつい、お家の半分を吹き飛ばしちゃったんだよね」
「永久」
「あ、お義母様たちなら無事だよ? ちょっとだけ反省させるつもりで魔力を放っただけだからね! でもそのおかげで、こっちに来ることを許してもらえたんだ!」
「………………」
ほんとにこいつは、昔から何一つ変わらない。
傲慢、それでいて、自分のやりたいことは絶対に貫き通そうとする。
更には、誰にも魅せない表情を俺にだけ浮かべている。俺への好意を隠そうともしない。
「和人、和人! ねぇねぇ、聞いてってば〜〜」
「コノエ」
──キュッキュル〜♪
いい加減、めんどくさくなってきた。
仕方なく、コノエを呼び出す。
さっきから出せ出せと、うるさかったしな。
「ん? なぁに、このちっこい狐。和人の式神? あははは! 流石、弱っちい和人らしい式神だね!」
この、人を小馬鹿にするのも変わらない。
いつまでも俺を、無力だった昔のように扱わないでもらいたい。
だからたった一言。
コノエに指示する。
「焼け」
「へ?」
──キュルッ!!
「うぎゃああああ!?」
コノエに指示すれば、鬱憤を晴らすかのように、コノエは勢いよく炎を吐き、永久の顔面に食らわせる。
それにより、ようやく永久からの拘束が外れるので、そのまま顔面を鷲掴みにする。
「いだだだだだだだだ」
「よくもまぁ、こっちの話も聞かず、一方的に話すじゃないか、永久」
「だだだだだ、だって! 久しぶりに会えたんだよ!? それに将来和人は私の物になるんだから、別に良いじゃん!」
「良い訳あるかっ! 言っただろ、必ず永久よりも強くなるって!」
「へへぇ〜んだ! 弱っちい和人には無理に決まってるじゃん。あだだだだだ」
「コイツぁ……」
(永久の奴、わざと俺のアイアンクローを食らってるな。力試しでもしているつもりか)
だが現に俺は、永久を宙に浮かせようと、左腕を限界まで力を入れているにも関わらず、俺より背の小さい永久を浮かせることが出来ないでいた。
魔力による強化をしないでこれだと?
「ほら、やっぱり弱いじゃん。そんなんじゃ、私よりも強くなるなんて、無理無理」
「まだ1年あるだろ」
「あははは、それは私も同じだよね? 才能のない和人と、才能溢れる私じゃ、後1年で、どこまで差が開くのかな?」
「ほんっとに、変わらないな、お前は」
「だって、将来の英雄だから……ね!」
次の瞬間、永久の身体から魔力が放出され、俺の拘束から外れる。
「いたたた。こんな可愛い女の子に、火炙りしたり、アイアンクローをするとか、酷くない?」
「知るか。お前のような傲慢な奴には、これくらいが丁度いい」
「ふぅ〜ん、少し見ない間に生意気になったね」
「昔からだろ、お前に限ってはな」
「あははは、そうだったね。うんうん、確かにいつも通りだ」
「はぁぁぁ。…………久しぶりだな、永久」
「うん、久しぶり! 私だけの和人」
永久は、眩しいほどの笑みを浮かべる。
本当にこいつは何も変わっていない。
柊永久。
旧姓、葛城永久。俺が5歳だったころに知り合った幼馴染であり、異例の10歳という若さで守護者に覚醒した、真に才能ありし者。
そしてSランクのクラス、『剣王』を持ち、最も『ゼロ』に近いとされる者であり──
俺が昔恋した、初恋相手でもある。




