幼馴染との再会② 帰ってきた日常
「と、言うわけなのですが、どこか安く武器が買える店は知らないかと……」
「なぁにが、安くじゃ!! 一体何をしたらここまで粉々に砕かれる!」
先生の手元には、刀身の約8割ほどが砕かれた鬼神刀がある。それを見た先生は、そりゃ大層にお冠だった。
「いやぁ、敵のボスが1等星クラスの拳使いでして……。その拳をまともに受け止めたら……、てへっ」
──ゴヅンッ!!!
「いっつぁ……」
「なぁにが、てへっじゃ! 魔力による強化が甘いからそうなる!」
「神薙君、だ、大丈夫!?」
「あ、あぁ……」
メキシコから無事、日本へと戻ってきた俺たちは、壊れてしまった鬼神刀の代わりとなる物について、助言をもらおうと2日後、先生の所へと訪れた。
こういう時、ガルダがいると移動が本当に楽だ。
「刀は繊細じゃ。特に側面からの攻撃に弱い。それを分かっておきながら……」
「咄嗟の防御だったので、そこまで気が回りませんでした」
「予測がなっとらんからじゃ。いつ如何なる時も、最悪を想定しろ!」
「はい!!」
「まったく……」
文句を言いつつ、先生は奥の方へと入っていく。そして少ししてから、何か刀の様な物を持って、戻ってきた。
「先生、それは?」
「昔、思いつきで打った試作品じゃ」
「試作品?」
「そうじゃ」
そう言って先生は、鞘から刀を抜き出す。その刀身は美しい蒼白色で、吸い込まれそうになるほどに、不思議な魅力があった。
「銘は白玖。2年くらい前に打った奴で、ランクはDと言ったところじゃ」
「なんの試作品なんですか?」
「万物を斬るという1点。それを成すための刀じゃ」
「万物……」
「そんなだいそれた代物でもない。ただ少しだけ斬れ味がいいだけの刀。それが白玖じゃ」
「刀身をギリギリまで薄くして、斬れ味を増してみたのじゃが、耐久性がないに等しい。まともに受ければすぐ壊れると思え」
「中々扱い辛い刀ですね」
「その代わり斬れ味は保証する。まともな武器を入手するまでの繋ぎと……これは課題じゃな。受け止めるのではなく、受け流せ。お前にはまだ、わしが打った本物の刀を握らせるわけにはいかんからな」
「分かってます。……ありがとうございます」
「ま、無事に戻ってきた褒美と思え」
(万物を斬る……か)
恐らくこれを打った理由は、家族のために……。
「試し斬りをしても?」
「丁度いい物がある。お主の愛刀を斬ってみろ」
「なるほど……」
確かにそれなら試し斬りにはもってこいだ。
それから先生は、マネキン人形に折れた鬼神刀を持たせる。
それを確認し、鞘に納めた状態で白玖を構える。
そして抜こうとした瞬間、『ちょっとまって!』と、藤宮さんが待ったをかける。
「「どうした?」」
「どうした、じゃないよ! 神薙君いいの!? 短い間だったとはいえ、一緒に戦ってきた武器だよ!?」
「いいんだよ。これは一種の儀式みたいなもんだ」
「儀式?」
「古い物に未練を遺すなってな」
「過去の物を大切にする気持ちは確かに必要じゃ。じゃが、こと武器において、それは足枷にしかならぬ。新たな相棒として使うというのなら、過去の相棒を斬ってこそ、使うに相応しい。わしはそう考えておる」
「そ、そういう、ものなの?」
「そういうものだ」
藤宮さんは依然として釈然としていないようだが、こればっかりは男にしか分からないだろう。
そしてマネキン人形に持たせた折れた鬼神刀を前に、再度白玖を構える。
魔力操作は不要。
ただ無心に──
「ふっ」
居合の要領で振るった蒼白の刀身は、鬼神刀の刀身とぶつかる。そしてパキンッと、甲高い音が聞こえたかと思えば、鬼神刀の刀身は今度こそ、粉々に砕け散った。
「まずまずじゃな」
「凄い。一振りで……」
白玖の刀身を見るが、刃こぼれもない。
「いい刀ですね」
「当たり前じゃ。わしが打った刀じゃぞ」
「それもそうですね。……ありがとうございます」
「うむ。たまには顔を見せに来い。都度メンテナンスしてやる」
「「はい!!」」
武器屋の紹介を頼むはずが、先生から新しい刀を貰うことが出来た。
そんな嬉しい出来事がありつつ、俺たちは翌日、各々の家へと戻っていった。
***
「葉隠ちゃん!」
「咲ちゃん! 良かったぁ、無事だったんだね」
「うん。ちゃんと生き残れたよ」
「何があったかは聞かない。大変だったらしいね」
「そう、だね。色々大変だったよ」
更に2日後の火曜日。私たちは学校へと登校する。
ほんの数日いなかっただけなのに、無性に懐かしく感じる。
「あれ? そのイヤリング……」
「あ、これ? 防衛戦の報酬だよ」
「へぇ〜。じゃあ他の1等星たちを差し置いて、活躍出来たってことね」
「言い方はアレだけど、そうなるのかな」
葉隠ちゃんにそう伝えると、バッと、クラスメイトたちが私の方を一斉に見る。
「ふぇ!?」
──チュチュ?
肩に乗せてるグレイちゃん共々、それに驚くけど、葉隠ちゃんは『あぁ、気にしないで』と、気怠そうにつぶやく。
「こいつら、不適合者が自分たちより先に活躍したことに僻んでるだけだから」
「な、なる、ほど?」
ほんの数日、されど数日だったらしい。
知らないうちに、私たちは学校での立場が逆転していたらしい。
「そのうち、取り入ろうとする奴らも出てくるだろうから、気をつけなさい」
「大丈夫だよ。神薙君がいるんだし」
──チュ!
グレイちゃんも、任せろと言わんばかりに小さな前足を上げる。
「それもそっか。そのネズミは置いとくとして、神薙がいる限り、咲ちゃんに変な虫は寄りつかないか」
──チュチュ!?
「そうそう。神薙君がいれば────ん?」
変な、虫?
「葉隠ちゃん? 変な虫って……」
「何? 違うの?」
「え、えと……、別に、私と神薙君は……」
「あれだけ一緒にいるのに?」
「ゔっ……」
そうだ。正直言ってこの2ヶ月、私と神薙君はほぼ毎日一緒に生活していたと言っても過言じゃない。
それに、色々メンタルがやられてたとはいえ、防衛戦では、異性にも関わらず手を繋いだり、だ、抱きついたり……。
(うぅぅ。や、やっぱり、そういうこと、だよね?)
好きか嫌いかで問われたら、絶対に好き。
危なっかしくて、時々ハラハラするけど、それ以上に優しくて、カッコよくて、とても眩しい。
そう考えてしまえば、どんどんドツボにはまる自分がいる。
「あうぅぅ……」
「いい加減、認めたら?」
「で、でも……、め、迷惑じゃないかな?」
「は? どこが?」
「だ、だって……、お金に余裕が出来ちゃったから、ご飯とか沢山食べちゃうし……、それに、それに、いっぱい甘えちゃいそうなんだよ!? そんなの、そんなの……、幸せすぎない!?」
──チュチュチュ〜♪
「──────」
(あ、あれ? 今私、何を口にしたの?)
自分でも気づかないうちに、色々言った気がする。
それも、物凄く恥ずかしいことを。
そして葉隠ちゃんは、ポカンとしながら呆然としていたのだけど、突然『はぁぁぁ』と、深いため息をつく。
「なんか、どうぞご勝手にって感じね」
「へ?」
「あぁうん、咲ちゃんは今のままでいいよ。うん、今のままで」
「葉隠ちゃん?」
遠い目をしながら葉隠ちゃんはスタスタと自席へと戻っていく。
「ねぇ、葉隠ちゃん! 私、今さっきなんて言ったのぉ〜〜」
ほんの数ヶ月前まででは考えられないくらい、葉隠ちゃんとの関係が修復され、楽しい学校生活が送れている。
なんというか、ようやく日常へと帰れたと思えた。
***
──キュルルル〜♪
──クゥゥゥン♪
──チュチュンチュン♪
──フルル〜♪
──〜〜〜〜♪♪♪
「ほらお前らジッとしてろ。洗えないだろ」
学校から戻り、家でのんびりとしていると、コノエたちが急に風呂に入りたいと騒ぐので、皆で入ることになった。
とはいえ、こんなボロっちいアパートだと、流石に全員は無理だから、今日はコノエ、レンゲ、チュン、キリカ、翡翠の5匹だけにした。
だが問題は、俺の式神は既に300体はいる。
その全ての身体を洗うなぞ、俺には無理だ。
(そろそろ、引っ越しを検討だな)
幸い、武器代が浮いたことで、資金は潤沢にある。
今後は高ランクのダンジョンにも潜れるし、それなりに広い部屋を借りることだって、無理じゃない。
とはいえ、式神たちが自由に過ごすともなれば、かなりの広さが必要だ。
この際、どこか広い土地を購入して、家を建てる方がいいかもしれない。
(となれば、資金集めにも力を入れないと、か……)
魔石による式神の追加契約もしないといけないから、それはもう少し先になるだろうとは思う。
「とりあえずは、引っ越しから始めるか。お前らも、もう少し広い部屋でくつろぎたいだろ?」
──キュル!
──ガル!
──チュチュン!
──フルゥ!
──〜〜〜!!
狭い湯船に皆で浸かりながら尋ねれば、各々同意するように声をあげたり、身体を動かす。
まったくもって、自由意識の高い式神たちだ。
(いつか、藤宮さんも呼べたらいいな……)
そういう仲になりたいという欲求はあるが、はたして藤宮さんは俺のこと、どう思っているんだろうか。
嫌いではないのは確かだ。明らかに俺のことを意識しているような素振りがたまにあるから、むしろ好意を持たれている可能性の方が高い。
「お前らはどう思う?」
──?????
コノエたち全員、首をかしげる。
自由意識があるように見えるけど、人の感情についてどこまで理解しているんだろうか。
(今度、テイマーに会って聞いてみるか?)
「まっ、それはまた今度だな。…………恋愛、か」
ふと思い出すのは、永久のこと。
今週末で17になるから、約束の期限まであと1年。
もしそれまでに永久よりも強くなれなければ、俺は永久のために生きる人形となってしまう。
子供時代の戯言で済めばいいが、永久は昔から言ったら意地でも通す奴だ。
そうならないためにも──
(もっと強くなる、だな)
頂点にいる者の、力の一端を知ることが出来た。
俺自身の他にクラス自体にも強くなれる要因があるという気づきも得た。
後は走り続けるだけ。
「やってやるさ」
十分に温まったので、コノエたちと一緒に風呂から出る。そして丁寧にその身体を拭いてやれば、満足げにコノエだけを残して他の奴らは実体化を解く。
「さっぱりしたか?」
──キュルン♪
「そっか。なら今日は少し高めのドッグフードでも食うか?」
──キュルルルルルン♪
「あははは、そんなにはしゃぐなよ」
──ガルルルル!!
──チュンチュチュン!!!
──フルルルゥ!
──〜〜〜!!
「お前ら、戻ったんじゃなかったのか!? 分かった分かった、お前らにもちゃんとやるから」
コノエだけに食わせるのは不服と言わんばかりに、チュンたちが一斉に戻ってくる。
まったくもって賑やかな奴らだと思う。
でも、こうやって式神たちと戯れるのは好きだ。
ようやく俺の日常へと戻ってきた気がするから。




