幼馴染との再会① 休息デート
「うわぁぁ、すごぉぉい」
──キュルル〜♪
──チュチュチュ〜♪
目の前に現れたソレを見て、藤宮さんたちの目がキラキラと輝いている。
「そうだろう、そうだろう。これこそがアメリカだ。既に1/3ほどの州は、地図から消えてるが、それでもこの伝統は守られ続けている」
「それにしたってデカすぎないか? こんなの毎日食ってたらデブるだろ」
俺たちの前に広がる光景。
それは、巨大なハンバーガーとピザ。更にはコーラーまでデカい。
これを、ここに住む人たちは一人で?
「運動しなければそうなりますね。ですが我々は守護者。元々太り難い体質ではありますが、ダンジョンに潜っていれば、カロリーなんて……」
遠い目しながらそう答えるアビー。女性なのだから、そりゃ気にするよな。
だがこの場において、それをものともしない者が一人だけいた。
「ケビンさん、アビーさん、本当に食べていいんですか!?」
「あぁ。お前たちには散々迷惑をかけたからな」
「遠慮せず食べてください」
「ではお言葉に甘えて! …………おいひぃぃぃ」
──キュルキュキュキュルル
──チュチュチュチュ
「────」
一心不乱に食べるコノエたちは置いとくとして、藤宮さんは大きな口を開けて、パクりと、豪快にハンバーガーを頬張る。
そしてとても幸せそうな表情を浮かべながらパクパクと、あの巨大なハンバーガーを食べていく。
そんな光景を見て、思わず唖然としてしまった。
(え? 藤宮さんって、実はそういうキャラだったの?)
パーティーを組む前から、彼女とはそれなりに交流はあったけど、そんな兆候一度だって見たことないんだが?
「神薙君、食べないの?」
「え? あ、あぁ。た、食べるよ」
藤宮さんの隠れた個性に気圧されつつも、カットされたピザを手に取り、食べてみる。
「どう?」
「……普通のピザだな」
「えぇ〜、それが美味しいのに……」
「藤宮さんが美味しそうに食べてるから、俺はそれだけで満足だよ」
そうつぶやけば、ピタリと藤宮さんの手が止まる。そして次第に顔が赤くなっていく。
「……く、食いしん坊じゃ、ない、からね?」
「もう遅い。そんなキャラだとは知らなかった」
「っーーー!!!? だ、だって! 向こうじゃお金の問題が!!」
「なら、これからは食べ放題だな」
「そ、それは言わないで! ちょっといいかもって、昨日思っちゃったんだから」
「あはははは!!」
「ふふっ、仲がいいですね。2人はパーティーを組んでどれくらいなのですか?」
「まだ2ヶ月だ。元々は俺がソロで、藤宮さんが別のパーティーに入ってたからな」
「それで防衛戦の参加にまで漕ぎ着けたのかよ。すげぇな」
「ほんとね」
防衛戦が終わってからの戦後処理として、怪我人の手当てや箝口令など、諸々の手続きが終わったことで、俺たちは束の間の休息を取ることが出来た。
そんな中、ケビンたちから今回のお詫びという形で、こうしてアメリカの醍醐味である、ハンバーガーとピザといったジャンクフードをご馳走してもらうことになった。
「今回は、本当にありがとう。2人がいなかったら、今ごろ私とケビンは死んでた」
「俺も、手柄ばっかりに目がいってて、大切なことを忘れてたよ。それに、お前たちには重荷を背負わせてしまった。本当にすまなかった」
「いいんだ。こうして互いに生き延びれたんだから」
「そうですよ。それにこうして、美味しいご飯をご馳走してくれたんですから」
人は成長する生き物だ。今回のミスを理解しているのであれば、次からは同じミスに繋がることはない。
「それで、お前らは天上から報酬を貰ったんだろ? 何が手に入ったんだ?」
「私も気になります。報酬を手にした守護者は、大抵が2等星以上なんですよね」
「それか……」
まぁそこまでもったいぶるものでもないので、藤宮さんと一緒に見せることにした。
「これは……、イヤリングですか?」
「しかも、同じ奴だな」
「『双想のイヤリング』というアイテムだ。……効果は2つあって、1つは全ステータスを10%向上させる永続効果」
「はぁぁ!?」
「なんという、破格な……」
「それともう1つが……」
「同じ物を身に着けてる相手が一定範囲にいる場合、総魔力の2割消費することで、その人の所へショートワープが出来るみたいなんです」
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装備:『双想のイヤリング』 ランクS
効果:
・全ステータスを10%向上
・近くに同じ物を装備している者がいる場合、全魔力の2割を消費することで瞬時に移動することが可能
※1日1回まで
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どの程度の距離まで可能化は検証していないが、このショートワープは、いざというときの緊急脱出が主な使い方だろう。
メインはやはり、ステータス向上の方だ。
装備するだけで1割強くなれるというんだ。かなり破格の性能だ。
俺の場合、称号によるダメージ3割増しもあるから、より火力を出すことに期待が出来る。
「やべぇな。そんなアイテムが手に入るとなれば、そりゃ活躍した奴らとの差はどんどん開くわけだ」
「ですが、神薙にとっては武器が良かったのでは?」
「まぁな。鬼神刀が折れちまったから、新しい武器を調達しないといけない」
まさか入手してから2ヶ月でダメにするとは思いもしなかった。結構強い部類の刀だっただけに残念だ。
「氷室さんに打ってもらうの?」
「いや。先生に打ってもらうのは、当分先だ」
もっと強くなって、先生の武器を持つのに相応しい男にならないといけないからな。
「ケビン、何処かにいい武器屋は知らないか?」
「悪いが無理だ。日本刀を扱ってる武器屋は、どこも見た目重視でな」
「無駄に高い割に、性能がそこまで良くないんですよ」
「マジかぁ……」
となれば、メルメルのオークションを当てにするか、笹倉さん経由のコネでなんとかするしかないのかもしれない。ダンジョンで狙った武器を入手するのも、運が絡むからな。
(今回ので、かなりの報奨金を貰ってるとはいえ、どれくらいすんだろ……)
貧乏生活に戻るのは嫌だが、背に腹は代えられないのかもしれない。
「だ、大丈夫だよ、神薙君。いざとなったら、私のお金も……」
「気持ちだけありがたく受け取るよ」
まぁそれは、戻ってから考えればいい。
今はのんびり休息をとるのが先決だ。
それからは四人で楽しく飯を食べながら、会話を弾ませる。始めこそ最悪の出会いではあったが、終わってしまえばなんてことない。
とても話しやすて、いい奴らだと言うのがよく分かる。
***
「本当にダンジョンに潜らなくていいんですか?」
「アメリカのダンジョンは、他よりも経験値やアイテムも美味しいんだぜ? それ目的で遠征する奴らも多いしな」
ケビンたちと別れ際、ダンジョンに潜らないかと誘われたが、断ることにした。正直言って、物凄く入りたいけどな。
「あぁ。もう少しのんびりしたら、向こうに戻らないといけないしな」
「私たち、まだ学生なので……」
「そうか。んじゃ次は中国の防衛戦で会うかもな」
「そうですね。1ヶ月しかありませんが、私たちも、もっと強くなります」
「俺らも、その時までにはもっと強くなるさ」
「お2人とも、今日は楽しかったです!」
──またな!
──また今度!
そうしてケビンたちと別れる。
そして時間を見てみれば、まだ15時頃だった。
「神薙君、何時に帰るんだっけ」
「20時の便だ。移動も考えれば、あと4時間は見て回れるな」
「そっか。じゃあ約束通り、観光が出来るね」
「そうだな。植物園とか博物館とかもあるらしい。街並みを眺めるのも中々に楽しそうだ」
初めて来た所だから、どこに行っても楽しめると思うし、お土産だって沢山買える。
「どこも楽しそうだね。う~ん、じゃあ街並み見ながらお土産でも買いたいかな」
「じゃあそうしよっか」
「いいの? 神薙君は行きたい所とかないの?」
「それを言ったら、武器屋ってなるぞ?」
「えぇ~」
「あははは! そういう訳だから、のんびり歩きながら、見て行こう」
「うん!」
当てのない散歩というのもいいものだ。それが藤宮さんと一緒であるというのなら、尚のこと。
そうしてコノエたちも連れて歩きだすのだが、ふと気づく。
(……デート? これって、デートか?)
普段から二人で行動していたから、感覚が麻痺っていたが、よくよく考えてみれば、男女二人っきりで出歩くのは、デートに入るのでは?
(そういえば、有耶無耶になっていたが、先生に会いに行く時、藤宮さん妙に俺を意識してたよな?)
考えれば考えるほど、この状況は好都合のように思える。
「神薙君?」
──キュル?
──チュチュ?
考えごとをしていると、不思議に思った藤宮さんたちが、覗くように俺を見る。
思わずその仕草にドキッとする。
「え!?」
「どうしたの?」
「……あぁいや、何でもない」
「そうなの?」
「あぁ、ただ……」
「ただ?」
「少しだけ、デートっぽいなって」
「────」
「………………あ」
思わずポロッと、出てしまった言葉に後悔する。
隣にいる藤宮さんの方へ顔を向けてみれば、カァァアッと顔が赤くなっていた。
「えぇ〜と……」
「…………バカ」
「へ?」
「神薙君の、バカ!!」
「あっ」
タタッと、走っていくのでコノエたちを連れて追いかけていく。
(しくった〜!)
***
「はぁ〜、楽しかった〜。ね、神薙君!」
「俺は疲れたよ」
「神薙君が変なことを言うからだよ?」
「反省しています」
「ふふっ」
あれから3時間ちょっと、ひたすらに藤宮さんのご機嫌取りのため、お店に入ってはお土産を買ったり、街並みと一緒に写真を撮ったりと、色々大変だった。
とはいえ、それを差し引いても楽しかったことに変わりはないが。
それにしても──
「今日はやけに元気だったな」
「そう?」
「普段からそれくらい元気ならいいのにって思うくらいには」
「……バカ」
まぁそれがどうしてなのかは、なんとなく分かる。
「そこのベンチで休憩するか。そろそろ空港に行かないといけないしな」
「うん」
コノエたちはまだ遊び足りないのか、公園内をタタッと走り回っている。
「コノエちゃんたち、元気だね」
「今回はあまり活躍出来なかったから、その鬱憤が溜まってるんだろ」
式神の未熟は同時に、俺の未熟の裏返しでもある。今回はなんとかなったけど、次もなんとかなるとは限らない。
(もっと、強くならないといけないな)
「私も、もっと強くならないと……」
「…………」
俺たちは子供を殺した。
やはりというべきか、多くの守護者が、そのことについて苦悩していた。俺だって昨日、ルゥルたちが夢に出てきたくらいだ。
「正しかったよね?」
「ここにいる人たちがこうして笑っていられるのは、俺たちが勝ったからだ。負けてたら今ごろ、総人口の半分近くは死んでたはずだ」
「そう、だよね」
「藤宮さん、ちょっとこっちに顔を向けてくれないか?」
「?」
そうお願いすれば、不思議がりながらも、こっちに顔を向ける。そしてそのまま、ポケットから双想のイヤリングを取り出し、右耳側に着ける。
エメラルド色だからどうかと思ったが、意外と似合うな。むしろ、いいアクセントだ。
「うん、似合ってる」
「え、あ、え、えぇ!?」
「大丈夫。どんな時でも、俺が絶対に守るから」
「────」
「どれだけ辛くても、俺も背負う。悲しみも痛みも全部。だから、大丈夫だ」
ポンポンッと、軽く頭を叩きながら撫でる。
「うん。2人で一緒。…………じゃあ私も、着けてあげるね」
そう言って藤宮さんも、双想のイヤリングを取り出し、俺の左耳に着ける。
「うん。似合ってて、カッコいいよ」
「そうか?」
「うん、とっても!」
そう言ってくれると、嫌な気持ちは沸かないな。
「これからもよろしくな」
「うん!」
それから十分に休憩した俺たちは空港へと向かい、そのまま日本へと帰る。
これから待ち受ける、永久との再会なんてつゆ知らずに。




