メキシコ跡地防衛戦 後編④ 愚者の王と不適合者 Ⅰ
「さて、来たはいいが、中はどうなってるんだ?」
ドーム上に凍結した所へと到着する。状況を確認するために、そこら辺に落ちている小石を凍結した部分へと投げてみる。
するとパラパラと、氷が剥がれ落ちていく。そうして再度小石を投げてみるが、何事もなく地面へと落ちる。どうやらバリアの類は展開されていないらしい。
そして中はと言えば、制圧戦艦じゃないにしろ、それなりに大きな戦艦が、そこには鎮座していた。
(キャタピラも含め、所々凍結してるな)
雪羅を完全には防ぎきれなかったということだろう。ぱっと見では、戦艦としての機能を失っているように見える。
「リリス」
──クルゥ!!
「分かる範囲での索敵を頼む。特に敵がいるかどうかが知りたい」
──クルルゥ
リリスを召喚し、超音波で索敵を行ってもらう。そして結果を尋ねてみれば、ほとんど無害化されているようだ。
(人もほとんど居ないと言うことは、戦力の大半を外に出してたのか?)
であれば棚ぼたなのだが、罠という可能性は否めない。リリスに感謝を伝えつつ、中へと入ろうとすると、『ずいぶんと早かったわね』と、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
「ソフィアさん」
「見事、ボスがいる戦艦を見つけ出したわね」
「じゃあ、ここが?」
「えぇ。私の星詠みが、ここにボスがいると、その未来を視せたわ」
「星詠み……」
確か、数秒先までの未来を視るのに長けたクラスだったはず。それにしては、既存のクラスから逸脱しすぎていないか?
「覚えておきなさい。クラスにはね、元々リミッターがかけられているの。そして『ゼロ』へ至ることで、リミッターが外れ、本来の力を取り戻す」
「つまり星詠みの場合は、視れる未来の時間が延びている、とかですか?」
「そういうこと。それと、専用スキルの発現したりと、まぁ色々な特典があるわね」
「…………」
そりゃ、俺たちとは一線を画す力を持つわけだな。限界を超えたとはよく言ったものだ。
「それともう1つ、貴方に言っておくことがあるわ」
「なんですか?」
「その罪を背負うと言うのなら、ここまでの行動に誇りを持ちなさい」
「っ!?」
「あなたたちが選んだ選択で、多くの守護者の命と、誇りが守られた。だから、あなたたちは悪くない」
ソフィアさんの眼差しはとても真剣で、同時に力強さを感じられた。
「ソフィアさんは、その……」
「えぇ。あなたたちほどじゃないにしろ。それなりに斬ってここまで来たわ」
「…………」
「この場では、深くは言わない。でも終わったら、ちゃんと弱音を吐きなさい。いいわね」
「…………はい」
「さて、そろそろ中に入りましょうか」
「ところで、ソフィアさんにはもう結末が?」
「最後までは視てないわ。でも、あなたがこれから何をしたいのかについては知ってる」
想像以上に、星詠みによる未来視というのは、かなりの精度らしい。
であれば、遠慮なく言わせてもらおう。
歩きながら、あることをソフィアさんに伝える。
「生意気なことを言いますが、ここのボス。ヴァレンティスの相手は俺に任せてくれませんか?」
「理由は?」
「あいつは、人の命を、尊厳を踏みにじってる。子供に殺しの楽しさを教えている。それは、俺たちが存在する意義を否定している」
「そうね。でも勝てるの? それと、貴方は自身がボスだと分かった上で言っている?」
「もちろんです。その上で殺す。というより、それも知ってたんですね」
「ふふっ、それが私の能力だからね。でも、いい心意気よ。私がいる以上、貴方が死ぬことはない。遠慮なく戦いなさい。貴方には、その権利があるのだから」
「存分に、見極めさせてもらうわ」
そう言われると、むず痒いな。でも、後ろを気にしないでいいと分かったんだ。全力で殺しにいける。
「はい、任せてください!」
***
「どうやら、この先ね」
「道に迷うことなく来れましたが、本当に凄いですね、未来視というのは」
戦艦に侵入してから、然程時間もかからず、俺たちは敵の司令室と思わしき部屋の前に到着する。
完全初見。それも、未知の技術体系の内部構造だというのに、ソフィアさんはまるで、何度も行き来してきたと言わんばかりに、正確に迷いなく進んでいった。
「情報が揃えば、この程度お手の物よ」
「味方で心底良かったと思います。……それにしても、本当に人がいないですね」
「人員は最小限にして、守護者たちを殺す方に力を入れたのでしょうね。戦略も何もないわ」
スパッと、ソフィアさんが扉を斬れば、ガラガラと扉が崩れる。
二人でゆっくり中へと入れば、まるで大昔の西洋、それかファンタジー系にありそうな、玉座の間を彷彿させる空間が広がっていた。
にも関わらず、近代的なモニターやら通信設備などが所々に置かれていて、オペレーターらしき人たちが数名座っていることから、ここが戦艦の中なのだと実感する。
(部屋にいるのは5人、それと……)
そして玉座には、一人の男が座っていて、俺たちを見つめている。風格からして、30かそこらだろうか。
「あなたがボスかしらね」
「やれやれ。ここに敵が攻めてこようとわな。招待した覚えはないぞ」
「貴様ら! ヴァレンティス閣下に対して、なんと無粋な態度を!!」
「敵に対して、敬う必要があるのか?」
「このっ、穢らわしい長命種めが!」
一人の少年が俺に向かって、剣を抜き襲いかかる。けど、体格が合っていないのか、剣に振り回されている印象だ。だからそれを刀で軽く弾き、返しの刀で斬り裂く。
「がぁっ!?」
「っ!? 貴様……」
躊躇なく斬り捨てたことに驚いたのか、ヴァレンティスは立ち上がる。
「そんなにおかしいか? 戦場の様子はもう知ってるだろ?」
「そうか。あの光の柱と凍結は、貴様の仕業だったのか!!」
ブワッと、奴の身体から魔力が迸る。おかしいな。ルゥルたちの話では、魔力が練れないという体質じゃなかったか?
「お前、短命種なのに、魔力が練れるんだな」
「わしの身体は他とは違い、特別じゃからな。……エンデ!」
誰かの名前を呼ぶと、俺の背後からとてつもない殺気が突如して現れた。
「っ!?」
「和人君はそのまま!」
振り向き、迎撃しようとするが、ソフィアさんに制止される。そしてソフィアさんは俺の後ろへと素早く移動すれば、剣を構え、ガキンッと、ナニカを弾く。
弾かれたソレは、深々と天井へと突き刺さる。見てみれば、それは巨大な斧だった。
「ソフィアさん!」
「大丈夫よ。それにしても、あの体格でアレを扱えるだなんてね。手が少し痺れたわ」
「…………成長が異常に早いらしく、加えて魔力が練れない代わりに身体能力が強化されてるようです」
「はぁ……、ほんと、嫌になるわね」
「エンデの攻撃を捌くとはの。お主がボスでなくて良かったわい」
「おっかしいなぁ。絶対に斬ったと思ったのに……」
ソフィアさんの前には、あの斧の持ち主と思われる少年が立っていた。背格好からして10歳かそこらだろう。
「エンデはわしと同じく特別じゃ。生まれつき魔力を持たぬ特異体質。それゆえに、わしらの中で最も身体能力が高い」
(そういう人もいるのか……)
だが、それだと説明がつかない。魔物と同様に、俺たちは魔力が込められた武器じゃないと、傷をつけることが不可能だからだ。
「あら、それだと彼が扱ってた武器に説明がつかないわね。魔力が込められてたようだけど?」
「お姉さん、頭が悪いね。魔力なんて、長命種から抽出すればいくらでも手に入るでしょ?」
「ずいぶんとおしゃべりね。無闇に情報は渡さないものよ? 特に私にはね」
「エンデ、無駄話もそれくらいにしておけ」
「は~い、ヴァレンティス閣下!」
そしてヴァレンティスは、武器も持たず、カツカツと俺たちの方へと歩き出す。
「エンデはそこの女を殺せ。他の者らは手出しするな。かえって邪魔になる」
「「「「はっ!!」」」」
「りょうか〜い!!」
「和人君、見させてもらうわ」
「任せてください」
互いに背を向け、歩き出す。
「じゃあ殺ろっか、お姉さん!」
その言葉と共に、天井に突き刺さっていた斧が、ひとりでにエンデの元へと返ってくる。
「えぇ。でもごめんなさい。あまり時間をかけるつもりはないの。そうね……、4分と言ったところかしら」
ソフィアさんの身体から魔力が放出され、薄い膜のようにその身を包む。
「へぇ〜、じゃあその前に僕が殺してあげる!!」
互いに走りだし、剣と斧がぶつかり合う。一つ目の戦いの火ぶたが切られた。
「では、わしらも始めるか」
「素手……、自身の肉体こそが武器か」
「そうじゃ。この拳で、わしは多くの長命種を屠り、王を殺した」
魔力感知で視てみれば、濃縮された魔力が、両の拳に収束されているのが、視える。
「殺り合う前に2つ、聞きたい」
「なんじゃ?」
「ルゥルが言ってた。あんたの世界、もう戦う意味ないんだろ? なら、なんで子供に殺しをさせる」
その問いに、ヴァレンティスは目を見開く。
「そうか。我が息子を殺したのも、貴様か……」
「決まっている。それがわしらの存在意義だからだ。わしら短命種は殺しを目的に創造された。にも関わらず、わしらが生まれた次代では、ただの慰み者としての使い道しかなかった」
「そんな搾取されるだけの人生なぞ認めぬ。わしらの生きる意味は殺すこと。だからわしは王を殺し、世界の覇者へと成り変わった」
その眼光は、それが正道だと信じて疑わない力強さがあった。同情できる部分はあるが、それでも俺はそれを否定する。なんでお前はその道しかないと決め付けた。
「……最後の質問だ。この戦いを仕組んだ奴と話したことはあるか?」
「仕組んだ? ……あぁ、神のことを言っているのか」
「っ!」
この50年、こうして敵と対話が出来た事例は少ない。ルゥルたちの様子からして、対話は可能だと思ったが……。
「わしらの世界は一度、その神の手によって滅びかけた。あれは素晴らしい力だ。この戦いに勝てば、わしは神の膝下へと招かれる」
(滅び、招かれる……)
約2ヶ月前に戦った天上の執行人。奴も別の世界の住人だ。であれば、こいつのようにどこかの世界に攻め、勝ったことで、執行人という地位に至ったのかもしれない。
「誰だ、そいつは」
「名をアトム」
「アトム……」
あぁ、ようやくその名を聞くことが出来た。恐らくそいつ以外にもいるだろうが、それでもようやく天上へと繋がる一人の名前を得ることができた。
「もう、よいか?」
「あぁ、もういい」
刀に魔力を込める。
「来い。牛頭鬼、馬頭鬼」
──グォオオオオ
──グォオオオオ
2体の式神を召喚する。奴の拳はまともに受ければ危険だ。そのためにも耐久性と火力を両立しているこいつらが最適だ。
「魔物を召喚、じゃと?」
「式神使いだ。そして、神薙和人。平和ではなく、子供に殺しを正当化させてきた愚者のお前を、殺す名だ」
「良いじゃろう。わしの名はヴァレンティス・ホーキン。種の存続にかけて、お主を屠る者じゃ」
ダッと、互いに走り出し、奴の拳と俺の刀がぶつかり合う。
ソフィアさんたちの戦いから2分ほど遅れ、ボス同士の戦いの火ぶたが切って落とされた。




