メキシコ跡地防衛戦 後編① 悪意の塊
「神薙君!!」
式神から降り、藤宮さんと合流すると、ガバッと、いきなり抱きついてくる。
「ちょっ!? ふ、藤宮さん!?」
「心配した……」
「いやほら、ちゃんと戻るって約束したし……」
「それでもだよ」
「…………」
まだ防衛戦中だから、こういうのは後にしてほしいと思いつつも、悪くないと思う自分もいるので、あまりにも度し難い。
──チュ〜
──キュルル〜
──ワフゥ〜
──クケケ〜
視線だけを式神に向けてみれば、何ともいえない表情を浮かべながら俺のことを見ている。
なんだお前ら、俺からも抱きしめ返せと言っているのか?
「ごほんっ。……そろそろいいかな? お2人とも」
「「っ!?」」
アビーの声が聞こえた途端、バッと藤宮さんは俺から離れる。
「あ、あぁ。すまん、アビー」
「は、はい。その……、ごめんなさい」
「いいえ。仲がいいのね。……それより、私たちも移動しましょ。他の守護者たちも、ボスを探すべく行動してますので」
ここに来る最中に、笹倉さんから一斉に通信が入ったのだが、どうやら敵の本丸は、何らかの手段で姿を隠しているとのことだ。
なので感知に優れた者たちは一斉に、索敵を開始している。
俺たちも探すべく行動を開始すべきなのだが、一つ確認することがある。
「ところでアビー。ケビンは?」
辺りを見渡しても、ケビンの姿が見えない。
まさか……。
「ケビンなら、一足先に司令本部へと戻りました。先の戦闘で、本格的に魔力が尽きたので、回復も兼ねて戻ったんです。ポーションはあの自爆特攻で、私の分以外は全部燃え尽きましたから」
「そうか。なら、仕方ないな」
ケビンはアビーのポーションを使わなかったようだ。色々冷静になった証拠だろうか。
「ケビンから伝言です。『すまない。それと、ありがとう』とのことです」
「分かった」
「神薙君、これからどう探す? 空から……は、やっぱり危ないよね?」
「敵が見えない以上、電磁バリアに近い何かにでもぶつかったら、危険だ。空は式神たちに任せて、俺たちは地上から探そう」
「うん」
「分かりました」
式神たちを召喚し、空からの索敵を指示する。
それにしても、さっきまでそこらかしこで爆発音が聴こえていたというのに、今はめっきり聴こえないな。
(何を企んでる?)
不気味ではあるが、ボスを探すべく、俺たちも行動を開始した。
***
「倉瀬、比嘉、戻ったか」
「2人ともおかえり〜」
「お疲れ」
「おう。バッチリ活躍してきたぞ」
「式神で空飛ぶの新鮮だった〜」
──ケェェェン
「あぁ、あんたもありがとな。和人を頼む」
和人の式神に礼を伝えると、その式神はすぐさま飛び立ち、どこかに飛んでいく。
「いいなぁ、私も鳥さんに乗りたかった〜」
「こんな時に悠長なこと言ってんじゃねぇよ。……倉瀬、笹倉さんからの通信は聞いたな?」
「あぁ」
拓真たちと合流し、情報共有をする。
拓真たちが言うには、藤宮ちゃんたちが戦艦を一度破壊した辺りから、めっきり自爆特攻を仕掛けてきた奴らの襲いかかる頻度が減ってきたという。
「不気味だな。自爆特攻を仕掛けるよう仕向ける奴らだ。まだ何かあるんじゃないか?」
「だろうな。周囲を警戒しながら、俺らもボスを探すぞ」
拓真の指示に頷き、5人で行動を再開する。
「なぁ拓真、向こうの数が限界ってことは?」
「純太郎、流石にそれはない。自爆特攻をけしかける相手が、半端な数しか用意してないのはあり得ない」
「でもよぉ、あの戦艦を持ってきたんだぜ? あそこに戦力が集中してたとかさ」
「健一君、比嘉君、どうなの?」
浩子からそう尋ねられるので、走りながら答える。
「アレはただの捨て駒だな。俺たちを撃退しようとする意思がなかった」
「神薙が出した式神に対して、撃退する気すらなかったもんな。ただ弾幕を張っただけって印象」
今回の敵は、俺たちがこれまで戦ってきた侵略者たちと比べると、あまりにも異質だ。
これまでの奴らは曲がりなりにも、命の奪い合いには忠実だったし、やられそうな仲間がいれば助けにも入っていた。あくまでも、人同士の戦いだった。
だがこいつらは違う。
ただ殺す。
武器も人も、ただ相手を殺すためだけに使ってる。
戦争だから、ある意味当たり前なのかもしれないが、それでもどうしても、異質に感じる。
(まだ何かがある。それだけは確かだな……)
「にしても和人たち、ちゃんと殺れたんだな」
襲いかかってきた敵を槍で捌きながら、拓真は和人たちについて話す。
「遠見君、戦闘中だよ! 3時方向、数は4」
「いいだろ別に。ちゃんと全周囲警戒してるんだから」
浩子は索敵に長けたクラスを持つ。だからこそ、戦闘中でもこんな話ができるのかもしれない。
「そうだな。とはいえ、まだまだ甘かったな」
「戦艦が自爆しそうな時、全員を助けられないかって、模索してたよな〜。俺たちにも身に覚えがある」
チャクラムを巧みに操り、展開している4人の足の腱を斬る。そのまま比嘉が体勢を崩した一人の懐へと入り、胴を突き刺し、スキルで上半身を消し飛ばす。
「あの2人、今回が初参加だろ? その気持ち、痛いほど分かるかな! 誰だって、誰かが死ぬ所なんざ見たくない」
「それに2人とも、ギリギリ17歳じゃないんでしょ? 初々しいよね〜。その頃って私たち、まだ70になってなかったよね」
すかさず森山が双剣で二人を斬り伏せ、浩子は鞭を巧みに敵の首元へと絡めれば、そのままゴキッと、首をへし折る。
「俺以外はな! 最後に70に到達したのは比嘉だったか?」
最後に拓真が、錬成で少し後方にいた敵を、地面から生やした槍で串刺しにする。
「それ、割と気にしてるんだからな?」
「ははは! でもまぁ、誰かを救いたいって気持ちがちゃんとあるんなら、まだまだ強くなるな」
「その悔しさがあるから、次に繋がる」
拓真の言う通りだ。今はまだ無力であろうと、その悔しさこそが俺たちの原動力へと繋がる。何も人を救うのは、戦えない奴らだけじゃない。
前線で戦う俺たちもその対象なのだから。守り守られ、そうやって俺たちは生き抜くんだ。
「ふぅ……、ここら辺はあらかた潰したか?」
「だね。一度索敵するね」
「頼む、浩子」
「うん!」
浩子は『鷹の目』という、珍しいクラスを持つ。能力自体は、遠くの者を見通せるだけなのだが、その範囲は、極めれば5kmは下らないという。
「……うん。500m圏内に敵は見当たらないね。守護者が数名いる程度だよ」
「そうか。よし、俺たちはこのまま、西の方に──」
──ザ、ザザッ、……な……、だ、こい……、は
「ん?」
──ほう、こく……、あら……て、が……
──いや待て。なんで、ここに……
──や、止め!? うわぁぁぁああ!?
「なんだ、今の通信は?」
「新手って、聞こえたよね? …………っ!?」
バッと、浩子がいきなり周囲を警戒し始める。
「浩子?」
「皆、周囲警戒! 近くにいた守護者が死んだ」
「「「「っ!?」」」」
すぐさま浩子を中心に、円陣を組む。
「何があった?」
「分からない。念のためスキルを使った瞬間に、守護者が死んだのが見えた。でも、敵が見えない」
「姿を隠すスキルか?」
「かもしれない」
「拓真、俺の無刀止水にも反応した。凄まじい殺気だ」
「らしいな。お前じゃなくてもヒリヒリと感じる」
背筋が凍りつくかのような、嫌な感覚がある。これまで、幾度と感じてきた死の予感だ。
「向こうも本気になったようだな。拓真」
「分かってる。周囲にはもう、俺の錬成陣を展開してる。……山口、純太郎。お前らの探知が生命線だ。頼むぞ!」
二人はコクリと頷く。
俺にも分かる。
既に俺らは包囲されている。
(何人だ? 1人……、じゃないのは確かだ)
「純太郎、何人だ?」
「2人。それと、かなり足が速い。…………っ!? 倉瀬、首筋!!!」
「っ!?」
それを聞き、咄嗟にバックステップする。すると、スパッと、首筋に軽い切り傷が生まれた。
あと一瞬、回避が遅れていたら死んでいた。だが、斬られた感覚から、その獲物について目星がついた。
「ナイフ!」
「了解だ。純太郎!!」
「おう!!」
純太郎は双剣を地面に突き刺すと、『水地閃!』と叫ぶ。すると、俺たちの周囲の地面から、水の柱が現れ、その水しぶきにより、あたりが水浸しになる。
──パシャッ
「っ、そこか!」
ガキンッと、拓真の槍と見えないナニカがぶつかり合い火花が散る。
それと連動し、もう一つの足音が聞こえ、それは比嘉へと向かって行く。
「比嘉!」
「おうよ」
急所を避けつつ、見えない攻撃を躱す。たとえ見えなくとも、長年の勘が、それを可能にする。
「見えた! サーマルペイント!」
浩子がそう叫ぶと、俺たちの視界に、二つの人影が現れる。 不可視の敵はこれまでにもいた。だからこそ、体温による感知スキルは、かなり有能だ。
だが、なんだ?
人影にしちゃ、やけに小さい。
「はぁぁあああ!?」
「っ!?」
ザシュッと、純太郎の刀が敵を縦に斬り裂く。
同時に拓真が張った錬成陣も起動し、固められた地面が盛り上がり、もう一人の敵の胴へと入る。そして暫し、静寂に包まれる。
(一旦は、終わりか?)
見えない敵ではあったが、対処さえ出来ればそこまでの脅威ではなかった。それに、俺たちのようにスキルや魔法を使う気配すらない。
それが一層、不気味に拍車をかける。
「なんだったんだ? スキルでの姿隠し?」
拓真が敵を確認すべく、自身が倒した敵の方へと歩き出す。俺たちも周囲を警戒しながら、あとに続く。
「分からない。でも、戦闘力自体は大したことはなかったよね?」
「ならあの通信、なんだったんだ?」
不気味に感じながらも、倒れている者がいる所へと到着する。どうやら何らかの効果が切れ、姿は見えるようだ。
そして、倒れている者を見た瞬間、俺たちの思考は固まった。
「……………………は?」
「うそ……」
「待てよ、こんなの……ありかよ」
「いや待て、まさか!?」
純太郎がそうつぶやき、バッと自身が切り裂いた者の方向へと顔を向ける。それに吊られて浩子もその方向に顔を向けようとする。
「浩子、向こうを見るな! スキルでもだ!」
「だって! 森山君が斬ったのって、つまり……。うっ、おぇぇ」
そのショックから、浩子は戦場にいるにも関わらず、吐いてしまう。無理もない、俺だって……。
「ざけんなよ。俺らが一体、何のため戦い続けてると思ってやがる……」
「っ!? 拓真!!」
「何っ!?」
比嘉の言葉に拓真が反応する。
その瞬間、槍から火花が散った。
それは、自身が倒したと思われた敵が起き上がり、拓真に向けて攻撃を仕掛けたからだった。
「あははははっ!! お兄さん、凄いね〜」
「っ、さっきよりも、鋭い」
確かに拓真が言うように、さっきよりも剣筋が鋭い。さっきのは様子見だったのか?
援護に回りたいが、あぁも接近されては、逆に拓真の足を引っ張ることに繋がる。そのため俺たちは見ていることしか出来なかった。
その間も、キンキンッと拓真と敵は打ち合い続ける。鋭い攻撃ではあるが、拓真の方が素の力量が上だったようで、すぐさま武器を弾く。
そしてトドメを刺そうとするが──
──ねぇお兄さん。ぼくのこと、殺せるの?
──ぼくみたいな、子供を
「っ!?」
ピタリと、槍の切っ先がその少年の喉元で止まる。
そう、子供だ。背格好からして、まだ小学生くらいにしか見えない男の子。
「あはっ! その歪んだ顔、いいね。そうだよね。子供は、殺せないよね? お兄さんたちみたいな、大人には。だから……、死ぬんだよ」
「クソったれ」
「拓真ぁぁっ!」
その一瞬の隙をつき、その少年は懐から取り出した別のナイフで、拓真を脇腹を斬り裂いた。




