メキシコ跡地防衛戦 前編⑥ 短命の王
──制圧戦艦完全破壊の、16分前。
─── PM12:43 ───
─── 旧メキシコ首都作戦司令拠点 ───
「笹倉さん、後はお願いね」
「行くのか、ソフィア」
「えぇ。彼らが選択した行動で、未来が確定した。あの戦艦は破壊される」
(まぁ、その後に控えている問題だけは無理だけど)
だからこそ、私が行く。
「そうそう。行く前に伝えることがあったわ」
「?」
「彼らが制圧戦艦を破壊した後、和人君辺りからとある通信を受けると思うけど、決して狼狽えないでちょうだい」
「何?」
それだけ伝えて、司令室を後にする。
「来なさい、アーク」
そう唱えると、手元に両刃の剣が現れる。そしてそれを手にし、仲間が待つ戦場へと歩み始めた。
***
「アレね」
ここから、あの戦艦までの距離は約5km。
既に砲身は破壊され、ボロボロとなった戦艦からは、膨大な魔力が、ある一点へと集中していた。
アレが臨界に達した時、半径2km圏内が焦土と化すほどの熱量を以て、敵味方関係なく死に絶える。
(つまり敵さんは、アレの爆破範囲外にいる可能性が高い)
未だに、その所在は掴めない。
未来が視えると言っても、未来の重大な分岐に関わる特異点を観測する、『観測者』以外は、与えられた情報からの未来しか視ることができない。
結局の所、『星詠み』というクラスは、どこまで行っても、後の先でしかない。
だからこそ、私にしかできないことがある。
「どうやら、和人君が全員に避難指示を出したようね。ふふっ、初参加だというのにとても勇敢。そして、見事よ」
彼は特別何かをしたわけではない。圧倒的な攻撃をしたわけでも、防御をしたわけでもない。
ただ最善を模索しただけ。だからこそ、この未来が確定したとも言える。
そんな彼に感謝をしつつ、私は私にしかできないことをやり遂げる。
「僅かな希望、発動」
スキルが発動したことにより、脳内に、この後に起こる絶望の未来を観測する。
『僅かな希望』。
このスキルは本来、数秒先までの一つの未来しか視ることができない、星詠みが持つ通常スキルの一つ。
だけど『ゼロ』へと至った私には、90分先までの未来を複数同時に視ることができる。とはいっても、情報が少なければ、視れる未来も断片的なものが多いけどね。
そして、そのうち一つの未来が確定されると、それ以外の未来は剪定される。
「こんな未来、私たちには要らない。だからこそ、私が否定し、創り変える」
魔力を静かに放出する。同時に、それに呼応するかの如く、アークの刀身に光の粒子が集まり出す。
そして、これから放つスキルのための、起動シーケンスに入る。
「第1創出:原典の未来の構成解析」
本来辿るべき未来を解析し、その未来における特異点を見定める。
「第2創出:偽造の未来を定義」
観測した未来の隣に、自身が思い描く空想のあり得ざる未来を構築する。
「第3創出:辿るべき未来への分岐を設定」
これから向かうは正しい未来ではない。空想を現実へ、偽りの未来へ向かうための、新たな道筋のための分岐点を割り込ませる。
「第4創出:空想の根を降ろすため、確定せし未来よ、私はそれを否定する」
空想へと至るため、本来の未来における特異点。その象徴である戦艦を、斬る対象として固定する。
すべての準備を終えたことで、アークに集った光は更に輝きを増す。そして剣を構え、最後の詠唱を行う。
"我、星詠みの裁定者が願う"
"剪定されるは、辿るべき未来"
"肯定されるは、偽りの未来"
"空想へと至るは、森羅万象を斬り裂く未来の一刀"
"人理の理、今ここより再誕せよ!"
|創りし未来のための一閃!
スッと剣を、何もない空へと振り下ろす。
この場面だけを他の者が見れば、滑稽な姿に見えるだろう。だけど、私は間違いなく、ここには視えない物を斬った。
そして剣の構えを解き、無線機を前線にいる者たちへと繋げ、一言だけ伝える。
──よく、頑張りました
次の瞬間、制圧戦艦は、その炉心ごと両断され、完全に崩壊した。
|創りし未来のための一閃。
『ゼロ』に覚醒した私の前に現れた、星詠み専用の剣である、『アーク』を装備している時にしか使えない、もう一つの専用スキル。
『僅かな希望』で観測した未来を否定し、分岐に関わる特異点を斬り裂くことで、都合の悪い未来を、因果律ごと破壊する。終わりの一閃。
そのためには、頑丈で強い空想の未来を構築する必要があり、その上で、本来の未来を正しく観測する必要がある。
まさに、人が未来を創る。
これこそが、私だけに許された絶技。
多くの準備を要し、無数に存在する未来が一つに確定しない限り、使うことは叶わない。
それを踏まえたとしても、序列4位でありながら、ただ斬るという一点においてのみ、『ゼロ』の中で最強で居続けている。
「さ、ここからが後半戦ね。……ボスはどこかしら」
『僅かな希望』で未来を観測する。ここから先の情報がないため、90分先の未来が少しだけ視えた程度ではあったが、どうやら私は、誰かと戦っているらしい。
それが誰かまでは視えないけど、どこかの施設にいるのだけは確か。
つまりそこが敵の本拠地といったところかしらね。
それと──
(そう、こちらのボスは……)
であれば好都合だ。
存分に見極めさせてもらおう。
「さてと、手始めに東側から確認しようかしらね」
魔力操作で脚を強化し、走り出す。
恐らくこの戦い、120分以内に終わる。
先の未来が視えなくとも、そんな確信だけがあった。
***
「マジ……かよ」
「今のは、ソフィアさん、なのか?」
「はは、やっぱ『ゼロ』って、やべぇ〜」
その光景に、思わず脱帽するしかなかった。
どういう原理なのかはさっぱり分からないが、遥か遠方から、あの戦艦だけを斬った。
(コレが、守護者の頂点にいる10人のうちの1人……)
目指すべき頂は、俺の想像を遥かに超えるほど遠いものなのだと、実感した。
「倉瀬たちは、知らなかったのか?」
「あぁ。これまで何度か、同じ戦場に立ったことだけはあるけど、こんなの見たことないわ」
「『ゼロ』には、専用のスキルがあるって噂されてるけど、これを見たら信じたくなるな……」
「…………」
恐らく、色々な制約があるスキルなのだろう。でなければ、今になって使うはずがない。
(今の、既存のスキルに頼るだけじゃ、ダメだな)
もっと自身のスキルについて、いやクラスについての理解を深める必要があるのかもしれない。でなければ今回のように、俺はまた、誰かを見捨てる決断をすることになってしまう。
「このまま一度、拓真の所に送る」
「いや、それについてはお前んとこの、他の式神を貸してくれれば、それでいい」
「倉瀬?」
「藤宮ちゃんに会って、早く安心させてこい。戦いはまだ終わってないんだから」
「そうだぜ。パートナーをいつまでも寂しがらせるなよ〜」
気を遣ってるんだろうな。
でもまぁ、正直助かる。
「助かる。……ガルダ、倉瀬たちを頼む」
──ケェェェン!
「また後でな倉瀬、比嘉さんも」
「「おう!」」
バッと、ガルダから飛び降り、すぐさま別の鳥型式神を召喚する。それから倉瀬たちと一旦解散し、藤宮さんがいる方向へと式神を向かわせる。
その間に考えるのは、今回攻めてきている侵略者たち。
(人を消耗品みたく扱い、タイパ重視で、ただ敵を排除しようとする戦法……)
はたしてこれは、戦いと呼べるのだろうか。いや、こんなのはもう戦いでもなんでもない。ただの虐殺だ。
──ば、ヴァレンティス閣下に、栄光あれぇぇぇ!!
(ヴァレンティス……、もしここにいるというのなら、お前だけは絶対に……俺たちが殺す)
まだ見ぬ敵に殺意を抱きながら、藤宮さんが待つ地点へと向かっていった。
─── 裁帝艦船:ノートゥング 司令室 ───
「戦況は?」
「はっ! ヴェルデが破壊されたことを確認。残念ながら、自爆機構が発動することは叶わず……」
「ふむ……、異邦の世界に住む者も、存外やるものだな」
「お父様、そろそろ我々も出撃すべきかと。使えぬ長命種では、せいぜいが我ら短命種の礎になるのが関の山」
「それに見たところ、向こうも長命種のようですし、本当の戦いとは何なのか、知らしめる良い機会になるかと」
「ふむ…………」
息子たちの提案を聞き思案する。
(かなりのコストを使って、ヴェルデを呼んだというのに、成果はそこまでだったのは痛手じゃな)
世界を攻めるのも楽ではない。
攻め込むためのコストが決まっていて、それを超過しないよう、人員から兵器の持ち込みまでを決める必要があると、神からは聞かされていた。
故に、全体の1/3のコストを使って、ヴェルデを呼んだというのに……。
(初めての侵略。我が世界の繁栄。そして……)
ブゥンッと、ウィンドウを開く。
そこに記されているのは勝利条件と勝利報酬、そして敗北時のペナルティ。
"勝利条件:神薙和人の殺害"
"勝利報酬:短命種の寿命を40年上乗せ"
"敗北ペナルティ:短命種の寿命を15年徴収"
(これほど魅力的な報酬が、たった1人の人間を殺せばいいというのだから、楽な戦いじゃな)
敗北なぞあり得ない。奴らはまだ、本当の戦いの恐怖を知らぬ。最も恐ろしいのは、己の心にある弱さなのだから。
「それで、このターゲットが何処にいるのかは、分かったのか?」
「報告では、ヴェルデの上空から魔物を投下した者だと……」
画面に映り出されるのは、一人の青年。中々によい面をしているが、その目はまだ青臭い。
「へぇ〜、この人が」
息子たちの表情を見てみれば、すぐにでも殺したいと言わんばかりに、目を輝かせている。それでこそ、短命種だ。
「よい。戦場へ出ることを許可する」
そう告げれば、同胞たちからは『おぉぉ』と、歓喜の声を漏らす。他の者たちも、久しく人を殺しておらぬから、そろそろあの表情見たさに飢えていることであろう。
「やったね! 僕は生まれてから5年も経ってるから、お父様たちみたく、1人前の戦士になりたかったんだよね」
「ふふふ、その心意気は良し。ルゥルよ、見事敵の首を取ってくるがよい」
「は〜い!!」
元気に返事をし、ルゥルは司令室を後にする。そしてぞろぞろと、最低限の同胞だけを残し、15歳までの狩人たちが戦場へと向かっていった。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
「ヴァレンティス閣下! 大丈夫でしょうか!?」
「よい。既に30年生きておるのだ。よくここまで身体が保ったと感心する」
だからこそ、寿命が上乗せされるこの戦い、絶対に勝つ必要がある。
それに──。
(勝てば、我は神の一員となれるという。そうなれば、我が世界の繁栄も思うがまま)
「ふふふ、わしは死なぬ。同胞も死なぬ。長命種という下等生物なんかより、わしらが優れていると、知らしめよ」
「「「「はっ!!!」」」」
そう。わしらこそが、種として最優。より限られた寿命と引き換えに得た身体能力こそが、我らの武器。
わしの名は、ヴァレンティス・ホーキン。
平均寿命、25年という過酷な短命種の運命を背負い戦い続ける賢人であり、そして、我が世界の王である。




